人流抑制は本当に必要か?専門家は感染減少の要因を説明できていない
誰もコロナ感染者数が激減した理由を説明できないでいる
【検証コロナ禍】人流抑制は本当に必要か?専門家は感染減少の要因を説明できていない
新型コロナウイルスの「デルタ株」が猛威を振るった第5波はピークをすぎ、感染者数が大きく減少している。
「人流」は急拡大した7月下旬とほとんど変わっていないし、飲食店の酒類提供制限・時短など対策の内容はほぼ同じだ。
そのため、お盆明け、夏休みが終わると増える可能性が高いと、多くの専門家が危惧していたが、真逆の推移が続いている。
「人流・接触を減らさないと感染を制御できない」という説は、本当なのか。従来の自粛中心の対策を検証すべき時にきている。
東京都の新規陽性者数(7日間移動平均)は8月中旬のピーク時と比べると、3週間で約70%減少した(東京都の特設サイトも参照)。
大阪府のピークはやや遅れて8月末に訪れ、9月に入って減少に転じている。
新規陽性者数(7日間移動平均)のピーク時との比較
《東京都》
ピーク(8月22日):4774.4人
最新値(9月12日):1384.0人(21日で、71.0%減)
《大阪府》
ピーク(9月1日):2518.6人
最新値(9月12日):1399.0人(11日で、43.9%減)
※ 東京都、大阪府の発表に基づいて算定
日本は検査数が少ないため、本当に減少しているのかわからないという指摘もあるようだが、東京都における陽性率、発熱相談件数ともに大きく減少しつつある。
現場の医療関係者からも、目に見えて減少しているとツイッター上での報告が相次いでいる(例)。
厚生労働省の専門家アドバイザリーボード座長で、国立感染症研究所の脇田隆字所長も、9月12日のNHK日曜討論で「全国すべての地域で減少傾向になっている」と認めた。
そのうえで、減少の要因について次のように言及した。
「市民の皆様が協力していただいたこともありますけど、宣言の効果であったり、あるいは今回非常に大きな上昇要因であった夏休みの人の移動がやや落ち着いてきたこと、それから天候であったり、非常に大きいのはワクチンの接種が進んできたことだと分析しております」(9月12日、国立感染症研究所の脇田隆字所長)
人流はほとんど変化なし
色々な理由をあげているが、本当だろうか。
まず、人の移動(人流)や、緊急事態宣言の効果だが、NHK特設サイトの「街の人出」データをみてみると、宣言の発出前後でほとんど変化がなかったことがわかる。減った地点もあるが、減少幅は小さかった。
以下のグラフは、東京・渋谷スクランブル交差点付近の人出を表したものだ。
7月以降の状況(1つ目)と、昨年4月の第1回緊急事態宣言が出される前後(2つ目)を比べれば、今回の緊急事態宣言が人出に与えた影響がほとんどないか、極めて限定的だったことがわかる。
ワクチン接種はペースダウン
ワクチン接種はどうか。
たしかに、ワクチンの接種が進んできたのは事実だが、8月に入ってペースが上がったわけではない。
むしろペースは下降気味だ。供給が追いつかなくなり、ペースダウンしたことは周知の通りである。
減少は「不可思議」と専門家
8月後半からの減少は説明がつかないと、首をかしげる専門家もいる。
数多くのテレビ出演で、緊急事態宣言や人流抑制の必要性を繰り返し強調してきた松本哲哉・国際医療福祉大学教授(感染症学)もその一人だ。
松本教授は9月7日「人流そのものが変わっていないのに、感染者数だけが減るのは矛盾していますので、実態を反映している数なのかどうか」(FNN)と、減少の現実はにわかに信じがたいという見方を示した。
9月12日には減少傾向は認めつつも「不自然な減り方」だと指摘した。
「第5波の急激に上昇したときには、いろんな条件があって増えたんだろうという推測が成り立つわけですが、逆の急激な減少についてはあまり説明がつきません。
検査数が十分じゃないんじゃないかとかいろんな推測がされていますけど、なぜここまでスムーズに減ったのかというところは、むしろ逆に不可思議ですので、不自然な減り方だと思います。
逆にこの減り方に安心して順調に減っていくと思われると、本当にそれが成り立てばいいんですけど、場合によってはしばらくしたらまた上昇に転じる可能性はあるんだろうと思います。」
(ワクチンの効果があったのでは?という関口宏キャスターの質問に)
「ワクチンはある程度打たれているんですけど、ここまで急激に減らすほど接種率が急激に高まったわけではありません。
まだ半分くらいということですので、多少効果はあったと思いますけど、ここまで急激な減少にはワクチンはあまり関係ないと思います。」(9月12日、松本哲哉・国際医療福祉大学教授)
見立てが外れた西浦教授の見解は
一方、昨年来、人々の接触削減を唱え「8割おじさん」で知られる西浦博・京都大学教授(理論疫学)は7月28日のバズフィードのインタビューで、第4波並みに夜間滞留人口を抑えなければ実効再生産数が1を下回ることはない(=感染減少に転じることはない)、との見立てを示していた。
その後も、東京都の感染者数は、8月末までに1日3万人超、少なく見積もっても7000人超になる、との試算が伝えられていた(日テレ8月6日放送)。
ところが現実は、第4波並みに夜間滞留人口を抑えられていない中でも減少し、8月末に4000人を切り、やがて2000人を下回った(7日間移動平均)。
西浦教授は8月31日のバズフィードのインタビューで、この状況変化に「なぜなのだろうとずっと思考を巡らしていた」と述べつつ、要因として、人々のリスク回避行動とワクチン接種が最もあり得るとの考えを示している。
だが、ワクチン接種率の高低にかかわらず、全ての都道府県で大きく減少に転じている。
たとえば、沖縄県の接種率は全国で最も低い水準だが(2回接種率38.4%、9月11日現在)、人出にも大きな変化はみられない中で(agoopのデータ参照)、8月中旬ごろから陽性者数が大きく減少に転じたのである(NHK特設サイト)。
人流と感染者数は連動しているのか
「人流」と関係なく感染者が増加したり、減少したりする現象は、今回が初めてではない。
昨年7月ごろの第2波は、東京都の1日あたり陽性者数が第1波の3倍超になった。だが、政府は緊急事態宣言を出すことなく、帰省自粛を呼びかけただけで、収束に向かった。
人流はお盆明けの8月後半から増えていた。それでも、8〜9月にかけて感染減少が続き、10月まで状況は落ち着いていた。
11月に再び感染者が目に見えて増加し、冬の第3波に向かう。この間の人流はやや増えたとはいえ、コロナ禍前よりまだ抑えられていた。それでも第2波を大きく上回る第3波が起きた(agoopのデータ、感染者数の推移参照)。
年明けに緊急事態宣言が東京都などに発令された。だが、その前の1月4日ごろにはピークアウトしていた(東京都モニタリング会議のエピカーブ参照)。
第5波では、7月12日から緊急事態宣言が東京都に適用されたが、2週間以上たっても、増加ペースが加速した。多くの専門家がお盆明けに「減る要素はない」と悲観視していた矢先、感染拡大は突然止まった。
一方、アジアでは、日本より強い人流抑制策をとっているのに、感染者が増え続けている国もある(マレーシア、フィリピン、ベトナムなど)。
天候説などもあるが、新型コロナの感染拡大・収束に実際のところ何が大きく作用しているか、専門家もよくわかっていないのではないか。
人流抑制・自粛中心の対策を今後も続けるのか
昨春以来の「人流を減らせば感染を制御できる」「人出が増えれば感染者も増える」という素朴な信念・仮説は、科学的に本当に妥当で有効なのか。いまだにきちんと検証されていない。
人流抑制の前にやるべき対策がある、という科学者の声明も出ている。
アクリル板などパーティーションに頼る対策も、逆効果であるとか、科学的な裏付けがないといった指摘がある(ニューヨークタイムズ、バズフィード参照)。
そもそも、夜8時をもって一律に営業時間を制限することに、一体どれだけの意味があるのか、疑問に思っている国民も少なくないだろう。
社会生活に多大な影響を与え、効果が必ずしも定かでない「自粛」中心の対策を、今後も続けるのか。
それとも、より制限や副作用が小さな対策(換気など)に絞りこみつつ、重症化・死亡リスク低減のための医療提供体制の整備や、保健所を介した検査・入院調整といった仕組みの見直しに力点をおくか。
いずれ来るであろう新たな「波」に備えて、従来のコロナ対策を検証すべきときが来ている。
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