若マウスと老マウスの体を縫い合わせた結果「老マウスの細胞」が若返った!
若い血液には若返り効果があるようです。
米国スタンフォード大学(Stanford University)で行われた研究によれば、若いマウスと老いたマウスの体を縫い合わせて血液を共有させたところ、若いマウスでは老化が加速し、老いたマウスでは若返りが確認できた、とのこと。
また本研究では、各臓器の細胞から採取された遺伝子の活性パターンが詳細に調べられており(単一細胞RNAシークエンス)、老化と若返りの正体を細胞レベル・遺伝子レベルで解き明かすことに成功しています。
どうやら私たちの血液には触れた細胞の時間を変えてしまう何らかの時間成分が含まれているようです。
老いたマウスは若返るが同時に若いマウスには老化が?
若マウスと老マウスの体を縫い合わせて老化と若返りを検証
古くから若い人間の血には、体を若返らせる力があると信じられてきました。
しかし生物の構成単位である細胞と体の設計図であるDNAの存在が明らかになると、体液に依存した若返り説は次第に下火になっていきました。
老化や若返りが起こる現場は「細胞」や「DNA」であり、間を流れる「血液」の存在は従属的(おまけ)と考えられていたからです。
しかし近年の研究により、若いマウスからの輸血によって、老マウスの認知能力や筋力、骨の修復速度など、幅広い「若返り」とも言える効果がみられることが判明します。
そこで今回、スタンフォード大学の研究者たちは、生後4カ月の若マウスと19カ月の老マウス(人間で言えば25歳と65歳)の体を縫い合わせることにしました。
縫い合わせでは表皮に加えて血管の結合も行われており、2匹のマウスは血液を共有しています。
そして研究者たちは縫い合わせた状態を5週間にわたって維持し、その後、各臓器を摘出して細胞レベル・遺伝子レベルでの変化を調べました(単一細胞RNAシークエンスを使用)。
結果、若いマウスでは老化現象の加速が、老マウスではその反対の若返りが起きていることが判明します。
(※これまでの研究によってマウスの各細胞の遺伝子活性パターンが年齢別(月齢別)に調べられデータベースに蓄積されていましたが、老マウスの血液は若いマウスの遺伝子活性パターンを老マウスのそれに近づけ、若いマウスの血液は老マウスの遺伝子活性パターンを若い状態に押し戻していたのです)
この結果は、細胞や遺伝子活性パターンの「老化」や「若返り」が、血液に含まれる成分に触れることで引き起こされていることを示します。
では具体的に細胞や遺伝子には、どんな変化が起きていたのでしょうか?
血の共有は時間の共有につながる
細胞や遺伝子にどんな変化が起きたのか?
研究者たちが収集したデータ(単一細胞RNAシークエンス)を分析したところ、血に最も反応したのが肝臓の細胞であり、次いで血液と直接接触する血管の内皮細胞や血に含まれる免疫細胞、血そのものを作る造血幹細胞なども、血液による老化と若返りの影響を強く受けていることが判明します。
また血液の共有によって最も活性が変化した遺伝子は、細胞のエネルギー生産にかかわるミトコンドリア電子伝達系でした。
さらに全般的な遺伝子活性パターンを調べると、老化によって遺伝子の活性が全体的に減少している様子が判明しました。
この結果は、老化の本質が遺伝子活性の低下と細胞のエネルギー生産能力の低下にあることを示します。
そして血液には年齢に応じた何らかの時間成分が含まれており、触れた細胞の遺伝子活性とエネルギー生産能力に影響を及ぼして細胞の時間レベル(若さ)を変えてしまう力があったのです。
血の時間を制御して「老化を治療」する
今回の研究により、血液に細胞の若さを記録・制御する力があることが判明しました。
若いマウスの血に触れると老マウスの細胞では遺伝子活性が変化して、若い頃と同じようなパターンをとりはじめます。
一方で、老マウスの血に触れた若いマウスの細胞では遺伝子活性が変化して、老いた状態に移行してしまいました。
またこの変化は肝臓細胞や免疫細胞、造血幹細胞などで起こりやすく、影響を受けた細胞では遺伝子活性と細胞の発電所であるミトコンドリアでのエネルギー生産能力が変化し、触れた血に応じた時間レベル(若さ)に近づいていきました。
若いマウスと老マウスの体を縫い合わせる試みは過去にも行われてきましたが、各臓器の細胞に起きた遺伝子活性の変化がここまで詳細に調べられたのは、今回の研究がはじめてです。
研究者たちは、これら時間を反映する血液成分を特定・制御することができれば、史上初めてとなる「老化の治療」ができると述べています。
そうなれば死ぬ瞬間まで子孫を残せる他の種と同じように、人類も永い青春を謳歌できるようになるかもしれません。
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