「停滞」どころではない、日本の賃金は本当は「下がって」いる

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賃金 社会問題

「停滞」どころではない、日本の賃金は本当は「下がって」いる

パートタイム問題を覆い隠す欠陥統計

日本の平均賃金は、過去20年の間にかなり低下している。

ところが、一般労働者とパートタイマーを分けて見ると、それぞれでは低下傾向は見られない。なぜこのような現象が生じるのか?

ここには、日本の賃金事情の基本的な問題が隠されている。

平均賃金は、停滞でなく、下落している

「日本の賃金は、長期にわたって停滞している」と言われる。しかし、毎月勤労統計調査のデータを見ると、図表1のように、1990年代の中頃以降、停滞しているというより、かなり顕著に下落している。

図表1 日本の平均賃金指数の推移(毎月勤労統計調査のデータ)


現金給与総額、5人以上の事業所。毎月勤労統計調査のデータより筆者作成

2000年の109.8から2020年の100.0まで、8.9%も下落している。

図表2に示すOECDの賃金統計でもそうだ。日本の年平均賃金は、2000年の464万円から2020年の440万円 まで、5.2%下落している(毎月勤労統計調査のデータよりこちらの方が下落率が低い理由は、後で述べる)。

図表2 日本の平均年賃金の推移(OECDデータ、単位:万円)


OECDのデータにより筆者作成

主要国中で日本だけが賃金下落

このような賃金の長期的下落は、他の国では見られない現象だ。

OECDのデータによれば、つぎのように、2000年から2020年の間に、多くの国で、賃金が著しく上昇している(自国通貨建ての計数)。フランス.48.7%、ドイツ52.0%、イタリア31.7%、韓国118.4%、イギリス65.3%、アメリカ78.1%、とそれぞれプラスになっている。

主要国の中で日本だけが著しく低下しているのは、日本経済が深刻な病を抱えていることの結果ではないだろうか? 真剣に考えるべき問題だ。

なお、以上で見たのは自国通貨建ての数字なので、日本の場合に為替レートが円安になっていることの直接的な影響はない(市場為替レートで比較すると、円安の影響が加わるので、日本の賃金の低下傾向は、以上で見たよりさらに大きくなる)。

あまり意識されない賃金低下問題

多くの人は、「賃金があがらない」とは思っているだろうが、図表1、2に見るほど下がったとは実感していないだろう。

では、実感と統計の数字の間で、なぜこのような乖離が生じてしまうのだろうか?

一つの理由は、日本の賃金体系は年功序列的で、歳をとるほど上昇することだ。このため、社会全体の賃金が下がっても、個人の賃金が上昇することが多い。このため、経済全体の賃金低下が大きな問題として意識されないのかもしれない。

しかし、図表1、2で見たように日本の平均賃金の下落は厳然たる事実なのだから、その原因を解明する必要がある。

一般労働者もパートタイマーも賃金は下がっていない

そこで、一般労働者とパートタイムに分けて推移をみると、図表3の通りだ。

パートタイマーの賃金は、継続的に上がっている。一般労働者も、傾向的に下がっているわけでない。2007年ごろまでは停滞したが、2013年ごろからは上昇している。

このように一般労働者もパートタイマーも賃金が格別に下がっていない。それなのに、全体で見ると、なぜ平均賃金が下落してしまうのだろうか?

これは、知的なパズルとしても興味ある問題だが、それだけではない。ここに、日本の賃金事情の大きな問題が隠されている。

図表3 一般労働者とパートタイム労働者の賃金指数の推移


現金給与総額、5人以上の事業所、毎月勤労統計調査のデータより筆者作成

パートが増えるので平均賃金が下がる

上の問題を解く鍵は、パートタイマーの増加にある。これについて以下に説明しよう。

例えば、これまで100の賃金の人が2人いたとする。そこに、これまで働いていなかった人が、労働時間が半分で50の賃金で働くようになったとする。この場合、このグループの平均賃金は、100から、250÷3 = 83.3に下がる。

下がる原因は、3人目の人(パートタイマー)を、最初の2人(一般労働者)と同じように扱って、全体の労働者数を3人と数えたからだ。

この場合には、労働時間あたりの賃金は下がっていないので、平均賃金の低下は、ある意味では、見かけ上のものと言うこともできる(ただし、第3の人が、本当は長く働きたいのだが、何らかの理由でそうできないということであれば、問題がある。この問題は後で論じる)。

平均賃金を計算する際、このことを調整する方法がある。上の例の場合には、パートタイマーの人は0.5人と数え、労働者数は2人から2.5人になったと考えるのだ。

その場合には、平均賃金は100から、250÷2.5 = 100になるわけで、変化はないということになる。これは、フルタイム当量(FTE) という考えだ。

なお、いまの例の場合、賃金所得の総額は増える。したがってGDPも増える。他方、国民数は不変なので、1人当たりGDPは増えることになる。

日本ではパートタイム労働者の比率が高い

パートタイム労働者の比率は、日本では顕著に上昇している。それに対して、他国では、さほど増えていない。

OECDのデータによれば、2020年におけるパートタイム労働者とフルタイム労働者の比率は、日本が22.9%、韓国が10.5%、OECD平均が14.2%だ。

OECDの統計は、フルタイム当量によるものだ。それに対して日本の賃金統計は、フルタイム当量で計算しているわけではないので、平均賃金の下落が大きく見える。これが、図表1の下落率が図表2の下落率より大きくなる原因だ。

なお、平均賃金では日本より韓国が高いのに、1人当たりGDPでは日本はまだ韓国に抜かれていないのは、後者の場合には分母が国民数であることの影響が大きい。

OECDの統計は、フルタイム当量によるものであるにもかかわらず、日本の平均賃金が下落している。これは、パートは、単に就業時間が短いだけでなく、時間給も低いことを意味する。

これは、先程の例で、3人目の人が労働時間が半分だが賃金が40だとしたら、フルタイム当量で計算しても、平均賃金は100から、240÷2.5=9.6に下がることを考えれば、分かるだろう。

税制が働き方に大きな影響を与える

図表1でも2でも、2018年頃に、パートタイマーの賃金が上昇している。

これは、18年に行われた税制改正の影響だ。具体的にはつぎのとおり。

従来は、配偶者の給与収入が103万円を超えれば、配偶者控除を受けることができなかった。そこで、パートなどで働く人は、労働時間を抑えて働いていた。これが「103万円の壁」といわれたものだ。このように、税制は、働き方に大きな影響を与える。

日本の場合に女性の就業がパートタイムを中心にしたものになってしまうのは、このような税制の存在が原因であるということができる。

ところが、2018年の改正で、配偶者の給与収入が103万円を超えても、150万円までなら配偶者控除と同額の配偶者特別控除を受けられることになった。そして、201万5999円まであれば控除を段階的に受けられるようになった。この改正に対応して、人々は労働時間を増やしたのだ。

 

ただし、いまでも制約は残っているのだから、本当はもっと働きたい人が、労働時間を抑えている可能性は定できない。労働力が減少する社会において、このような制度が適正かどうかは、大いに疑問だ。

配偶者控除という制度は、「女性は専業主婦」という時代の名残だ。こうした制度を変えることによって、女性の社会参加を増やすことが可能だろう。

日本の賃金統計は時代遅れ

税制などの制度とともに、統計も重要だ。

毎月勤労統計調査は、2019年に不適切な集計方法で問題となった。これは確かに問題だ。ただ、それだけでなく、フルタイム当量の考えを取り入れていないという意味で、統計の基本的設計についても、現代的な要請に合うものになっていないと言うことができる。

パート問題は日本の賃金問題で重要な位置を占める。しかし、これまで述べたことから分かるように、それについて適切に判断をするような統計になっていないのだ。

アメリカではフルタイム当量ベースの労働者数や賃金が計算されている。日本もならうべきだ。

 

マイコメント

この人は一体何を言いたいのだろうか?

政府の統計では平均賃金が下がっていることが明らかなのに、労働者を一般労働者と
パートに分けて計算すると下がっていないと言っている。

その違いは統計上の計算方法の問題だというのだが・・・。

平均賃金と言うのはあくまでも一人当たりの賃金の平均です。
これを著者の言うやり方にすると一般労働者もパートも給与は変わらないということです。

それは当たり前の話だろうと思います。
おそらくパート労働者も時間給として見た場合は下がっていないということだろう。

でも、生活費と言うのは一人一人がもらった給料の中でやりくりするものなのでパート
労働者は一日に8時間以下の労働時間になるので、時間給が上がっても1日にもらえる
給料は下がるだろう。

これが共働きで夫が正社員で妻がパートなら夫の給与を妻が補っているわけだから
生活上の余裕は多少あるだろう。

問題はパートでしか働けない人は生活に困っているということです。
それを無視して計算上のアヤと言うのは少し乱暴ではないだろうか?

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