よし!もう一回読み直そう!ワクチン2回の陽性率、半数世代で未接種上回る 厚労省再集計で判明
上阪 欣史
日経ビジネス副編集長
新型コロナウイルスに関する厚生労働省の新集計で、ワクチンを未接種の人より2回接種済みの人の方が陽性者になる確率が高くなったとのデータが示された。同省が外部からの指摘を受けて「未接種者」の集計方法を見直したのをきっかけに、40~49歳など約半分の世代で逆転現象が明らかになった。政策決定に関わる基礎データの一つだけに、専門家からは「なぜ接種者の方が感染しやすいのか国は詳細を調べて公表すべきだ」との声が出ている。
この逆転現象は、5月11日に厚労省の専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」に提出された資料で明らかになった。この会議はほぼ毎週開かれ、同省がワクチン接種歴別に新規陽性者数をとりまとめた資料を提出するのが習わしになってきた。
5月11日の資料によると、4月11~17日に40~49歳、60~64歳、65~69歳、70~79歳の各世代で、ワクチンを2回接種した人10万人当たりの新規陽性者数が、未接種の人10万人当たりの新規陽性者数を上回った。30~39歳はほぼ同等だった。
4月18~24日には30~39歳でも、2回接種者の新規陽性者数が未接種者のそれを上回った。その後、直近の5月25日までに報告された週次データでもほぼ同様の傾向が明らかになっている。
ワクチンの効き目が低下
2回接種者の間で、ワクチン接種後に感染する「ブレークスルー感染」が増えていることを示すデータといえる。一方、12~19歳、20~29歳、50~59歳、80~89歳ではいずれの週も2回接種済みの方が陽性者数は少なかった。また、3回目接種済みの陽性者数は一部を除きどの世代でも未接種者を下回っている。
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この集計を担当した厚労省結核感染症課は日経ビジネスの取材に対し、「2回接種済みの方が陽性になりやすい理由については不明」と回答したが、「今後調査する予定はない」としている。
すでに日本国民の8割が2回接種を終えているが…(米モデルナ製=左=と米ファイザー製の新型コロナワクチン、写真:AP/アフロ)
予防医学に詳しい新潟大学の岡田正彦名誉教授は「ブレークスルー感染は国内外で多数報告されている。接種すればかなり高い確率で感染を防げるというわけではない」と指摘する。岡田名誉教授が海外の典型例として挙げるのが、イスラエルだ。
イスラエルでは2021年、世界に先駆けて4回目接種に臨むなど他の国に比べ接種を加速させてきた。これとの因果関係は不明だが、すでに国民の45%近くに感染歴がある。ブレークスルー感染も相次いだ。
「抗原原罪」の可能性
岡田名誉教授は「効果が短期間で切れている可能性があるが、その後、なぜ未接種者より感染しやすいのか原因の特定は難しい」と話す。厚労省も「ワクチンは発症を予防する高い効果がある」とする一方、「時間の経過とともに感染予防効果や発症予防効果が徐々に低下する可能性はある」と説明している。
京都大学の福島雅典名誉教授(LHS研究所代表理事)は、「抗原原罪」と呼ばれる生体反応が起きている可能性を指摘する。福島氏は「仮説」と前置きしたうえで、「短期間に接種を繰り返すと、最初に打った時にできた抗体が次の抗体の生成を邪魔する。これが起きていれば変異型に合わせたワクチンを接種しても免疫機能が生まれにくい」と説明する。
また「抗体依存性感染増強(ADE)の可能性についても否定できない」と話す。ADEとは本来ウイルスから体を守るはずの抗体が、免疫細胞などへのウイルスの感染を促進する現象で、過去の感染症でも確認されている。
イスラエルは世界に先駆けて4回目接種を進めた(沿岸部ネタニア、写真:AFP/アフロ)
日本政府は21年12月から3回目接種を始めており、5月23日時点で58%の国民が接種を終えている。いまのところ3回目接種者は未接種者や2回接種者より新規陽性者が少なく抑えられているのはデータからも明らかだ。ただし、時間がたって効果が薄れると、感染率が再び高まる恐れもある。
一方、ワクチンには感染防止だけでなく重症化の予防も期待されており、効果を発揮しているとみられている。大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授は「ワクチンの重症化予防効果は6か月〜1年はある」と話す。
各自治体ではワクチン接種者を対象に、特典や飲食クーポンの提供、各種サービスの割引など大々的にキャンペーンを推し進めてきた。政府もエンタメ業界に対する需要喚起策として「イベントワクワク割」を導入する。接種者を優遇する措置だが、逆に接種済み者の方が陽性反応は多く、感染を拡大させている可能性もあるため、「こうしたキャンペーンは見直すべきだ」(岡田名誉教授)との声が上がる。
ワクチンを接種しても短期のうちにブレークスルー感染のリスクが高まるのであれば、新型コロナが収束するまで人々が頻繁にワクチンを接種し続けなければならないことになりかねない。それを避けるためには、たとえ感染しても重症化させない治療薬の開発・普及が欠かせない。
突如変更された集計方法
すでに国民の半数以上が3回目接種を終えた今になって、未接種者と2回目接種者の陽性率の逆転現象が起きているという実態が明らかになった。これまでの厚労省の集計方法のどこに問題があったのだろうか。
アドバイザリーボードに提出するデータは5月11日の会合を境に突如、集計方法が変更された。それまではほとんどのケースで「未接種者の方が陽性者は多い」というデータが示されており、結果としてワクチンの効果を裏付ける内容になっていた。
それが世代によっては逆の実態を示すデータに置き換わったのはなぜなのか。集計方法の変更を詳しく見ると、その理由は「未接種者」の数え方であることが分かる。
未接種者の感染かさ上げ
結核感染症課によると、以前は新規感染者の事例報告において、診療した医療機関側が入力することになっている接種の有無が空欄だったり、「不明」だったりした場合、「すべて未接種者としてカウントしていた」。
こうした処理によって未接種とされる陽性者の数が実態以上にかさ上げされ、接種者との陽性率の差が際立つデータになっていたことは否めない。
新集計では新たに「接種歴不明」欄が設けられ、これまで未接種に分類されてきた陽性者がここに算入されるようになった。変更の理由について結核感染症課は「海外のデータを見ていた外部の有識者からの指摘で、接種者と未接種者の分類の仕方を見直した」としている。
同課は「システム上の問題はあったが、改ざんの意図はなかった」と釈明する。しかし、厚労省・医薬品等行政評価・監視委員会の委員長代理で、東京理科大学薬学部の佐藤嗣道准教授は、「データを恣意的に操作していたと国民が受け取ってもおかしくない問題」と指摘する。
実際、厚労省のシステムが自動的に接種不明者を未接種者に振り分けていたわけではなく、人手を介してデータを分類していた。佐藤准教授は「国民の重要な意思決定に関わるデータでもあり不手際では済まされない。アドバイザリーボードへの修正報告だけでなく、厚労省は国民に対して経緯を説明すべきではないか」と話す。
■修正履歴
記事公開当初は本文3ページ目の第2段落で『さらに、たとえ陽性者が「接種済み」と回答したケースでも、日付など接種歴の詳細が記入されていない場合はまたも「未接種」に分類していた。』としていましたが、実際にはこうしたケースは「接種済み」に分類されていました。お詫びして訂正します。該当部分を本文から削除しました。[2022/6/1 14:03]
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