税金投入で小麦価格維持が国産小麦を排斥する矛盾、「9割輸入依存」の痛恨
政府の輸入依存策が生み出す食料危機!
食料を巡り、不穏な動きが頻発している。相次ぐ食料品の値上げや、高騰する穀物相場。漁業では不漁が常態化し、畜産業者は飼料高騰にあえぐ。日本の食料自給率は38%と先進国で最低。そもそも、非効率な農地利用や飼料の輸入依存など、構造的な課題に有効な対策を打てていなかった。そこに、円安や戦争による世界的な需給逼迫といった短期的な環境変化が追い打ちをかけた格好だ。日本の食卓は、将来も維持できるのだろうか。
【関連画像】日本は輸入していないが、国際相場を揺るがす。●ウクライナからの小麦輸出(2020年)
輸入小麦の取引価格が上がらないよう、政府は秋以降に特別な措置を導入することとなった。税金もしくは国債が財源となりそうだが、国民のお金や借金で外国産小麦を優遇し、国産への需要シフトが阻まれるという矛盾を抱える。
「小麦価格の安定は極めて重要だ」。岸田文雄首相は8月12日、国際的な食料・エネルギー高騰や円安に対応するための会合で強調した。首相官邸でこの会合に出席していた山崎製パンの飯島延浩社長は、政府による小麦の引き渡し価格が再上昇すればパンの値上がりにつながるとして「何とか回避できないか」と要請したことを記者団に語った。
日本は小麦の9割を輸入に頼っている。主な輸入先は米国、カナダ、オーストラリアだが、ウクライナ危機により国際相場が高騰し、調達価格は急上昇した。
小麦の輸入は国家貿易として政府が管理している。外国から買い付ける経費には「マークアップ」として手数料や国内生産の振興費を上乗せし、民間の製粉会社に売る。この「政府売り渡し価格」は2021年10月に19%上昇、22年4月には17.3%上がった。
次の価格改定は10月だ。海上運賃と国際相場から計算すると約2割の値上げが必要だが、政府は価格を据え置く方針となった。ここには深刻な矛盾もある。海外からの仕入れコストは高いのに、税金や国債を財源にして実質的に補填し、安く企業に売る。
パンやパスタの値上げが見かけ上は抑えられても、実際には国民が負担するのだ。帝国データバンクによると、22年の食品値上げは8月中にも合計2万品目を超える見通しで、家計への影響は幅広い。それでも今回の政策だと、製粉会社が輸入小麦を仕入れるコストを国民が補助していることになる。
市場原理に任せていたなら、いずれはコスト上昇分が製粉会社から加工食品メーカー、そして消費者へと価格転嫁されていた。そのプロセスをこのように置き換え、負担感を見えにくくしたというのが実際のところだ。
例えばガソリン価格への補助ならせめて「車をよく使う地方の住民を、国民全体のお金で支援」という名目もある。小麦の場合は都市部でも地方でも、どの所得階層でも消費する。この価格補填は、納税額の一部が「小麦製品の価格抑制」として自分に戻ってくるだけのブーメランのような性格になりやすい。財源が国債の場合は、そこに金利まで付くことになる。食費の上昇対応なら、低所得者への直接給付のほうが合理的ではないか。
しかも「見かけ上の価格据え置き」がもたらす副作用もある。本来なら輸入小麦の価格上昇によって、国産小麦や米粉への代替需要が生じたはずなのに、それも阻害される。小手先の対応ではなく、極端な輸入依存という根本問題に取り組まないとならない。
穀物相場、再上昇予測も
足元の価格維持に成功しても、いつまで財源を投入するかという課題は残る。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに小麦の国際相場は3月に急騰。米シカゴ商品取引所の先物価格は、一時的に1ブッシェル14ドル程度まで上昇して過去最高値を更新、1年前の2倍強になった。ロシアとウクライナは両国で世界の小麦輸出の3割を占めるため、戦争によって品薄になるとの懸念が広まったのだ。
世界輸出の13%をウクライナが占めるトウモロコシも高騰した。例えばサントリーホールディングスのウイスキー「知多」は北米産トウモロコシが原料。「サプライチェーン全般のコスト悪化は今年下期にさらに厳しくなる」(大塚徳明執行役員)
穀物相場はいったん落ち着きを取り戻したかに見えるが、予断を許さない。資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は「米国の利上げなどもあり、投機マネーがポジション調整で先物の売りを出した」と一時休止の背景を指摘する。もう一つ、ウクライナからの穀物の輸出再開も相場鎮静化の要因となったが、決して楽観できる状態ではない。
「今年の穀物の収穫量は半減する恐れがある」。ウクライナのゼレンスキー大統領は7月末、ツイッターにこう投稿した。同国はトルコと国連を仲介役として、南部オデーサ港からの穀物輸出再開で7月22日にロシアと合意した。ただ、米農務省は「ウクライナのほとんどの農家が、穀物を長期保存できるような空調設備を備えていない」と指摘。在庫が劣化すると新たな収穫分に頼るしかないが、前年度比41%減の1950万トンのみと予測されている。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00478/082400013/p3.jpg
ウクライナ危機で穀物は最高値圏に上昇。●国際的な先物相場
英王立国際問題研究所によると、戦争前、輸入小麦に占めるウクライナ産の比率はチュニジアで48%、レバノンで52%に達していた。これらの国に対してはロシアが小麦を大幅に増産して輸出機会を狙っているとされるが「今度は肥料問題によって穀物価格が高止まりしそうだ」(柴田氏)。
米ブルッキングズ研究所によると、主要な肥料原料のカリウムはロシアとベラルーシが世界貿易の4割を握る。世界銀行によると、塩化カリウム肥料の国際相場は1年前の2.8倍だ。尿素についても世銀のジョン・バフェス上級農業エコノミストらは「歴史的な高価格帯が続く」と想定する。
輸入小麦の取引価格は、本来ならこうした国際情勢やコスト構造を食品メーカーや国民にも知らせるシグナルだった。ここ数カ月は「外国産小麦の値上がりによって高コストだった国産小麦との価格差が縮まり、国産への引き合いは徐々に増えていた」(商社)。そして菓子類で米粉への代替需要も生じていた。あえて政策的に価格介入することは「ゆがみ」を生じさせることになりかねない。
小太刀 久雄
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現在9割近くが輸入小麦に頼っている状態ですが、輸入小麦と国産小麦の価格を比べても
国産が安いかと言えばそうではないことがわかります。
これは政府が輸入小麦を安くして保護していることを意味しています。
つまり、国産小麦が売れないようにしているということです。
そのことは国産小麦の作付け面積が一向に増えていないことからもわかります。
外国産小麦の値段に対抗できないので作付け面積を増やせないということです。
これが小麦の自給率が低い理由です。
そのため、こうした価格高騰の場合に影響を受け国民の税金で負担させられることになり
それなら、その分国産小麦に補助を出して安くするべきだと思うのです。
やはり米国の小麦輸入圧力に負けているということですね。
このあたりが植民地国家の泣き所なんでしょう。
ただし、今回の輸入小麦の価格高騰が肥料高騰によるものだとしたら、国産小麦価格も
高騰するので、その場合には政府の輸入肥料の価格補助が必要となるでしょう。
そうすることで国産小麦の保護が可能になります。
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