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国民年金で老後が暮らせるようになる時代は絶対に来ない。政府は最低限の生活は国民ひとりひとりの自助努力によって達成すべきであり、国民年金はそれを補助するためのものと考えている。「国民年金で少しくらいは補助はするが、最低限の生活は自分で何とかしろ」というのが国の立場である。(『 鈴木傾城氏の「ダークネス」メルマガ編 』)
プロフィール:鈴木傾城氏(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、主にアメリカ株式を中心に投資全般を扱ったブログ「フルインベスト」を運営している。
年金受給額、4人に1人は月5万円未満
2000年以降、日本は非正規雇用者が爆発的に増えて雇用が安定しない社会と化したが、それによって厚生年金に加入していない人が増えている。こうした人は老齢基礎年金(国民年金)のみで老後を生きていくことになる。
しかし、国民年金は40年間の全期間を払っても約月6万5,000円なので、これで生きていくことは今の日本では厳しい。
そもそも40年間の全期間を払っていない人も多く、国民年金の受給額が月5万円に満たない人は全体の26.4%も存在する(厚生労働省『令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』)。すなわち、4人に1人は月5万円未満なのである。
もし、住んでいる家が持ち家でないのであれば、家賃を延々と支払っていく必要がある。月6万5,000円であれば家賃にも足りないか、足りたとしても生活費は出せない。
年金で暮らせないのであれば、なけなしの貯蓄の取り崩して老後を細々と生きていくことになる。
老いて仕事ができなくなった段階で一気に「極貧」
非正規雇用は日々の暮らしもギリギリだった人が多い。そのため、貯金もそれほどあるわけではない。とすれば、客観的に見ても非正規雇用者で人生を暮らしていた人は、老いて仕事ができなくなった段階で一気に「極貧」に転がり落ちる確率が高い。
これが現在の日本の底辺で深刻化している高齢者の貧困問題となって、今後はこれが日本最悪の社会問題と化していくだろう。
では運良く厚生年金に加入していた人は悠々自適なのかと言えば、まったくそうではない。厚生年金が月10万円に満たない人は男性10.4%、女性48.5%である。
やはり年金では老後の生活が成り立たない高齢者がかなりいる。そのため、政府は「一億総活躍時代」とか言って高齢者にも労働するように奨めているのだが、高齢者の場合は給料は驚くほど低いものになってしまう。
しかも、体力や気力の関係でフルタイムで働けるわけもない。そんな中、2022年からは物価も上昇しているのだが、物価の上昇は年金生活者の逼迫をより深刻なものにしてしまうのである。
なけなしの貯金は、想定以上のスピードで消えていくだろう。
70代になる頃には貯金も消えて年金で細々と生きる
政府は「老後資金に2,000万円を用意しろ」と言う。しかし、65歳以上・2人以上世帯の貯蓄額は中央値で見ると1,588万円である(総務省:家計調査報告−貯蓄・負債編 令和3年 平均結果 2人以上の世帯)。
貯金の取り崩しが月10万円とすると、年間で120万円が消えていくことになる。10年で1,200万円が消える。13年目には貯金は払底してしまう。
そもそも、この1,588万円の中央値というのはあくまでも平均であって、実際には中央値ほどの貯金を持っていない世帯の方が多い。それどころか、500万円もないという高齢者もザラにいる。
その場合、貯金の取り崩し額は極限まで切り詰められて貧困生活が続くことになるのだが、どのように節約しても70代になる頃には貯金も消えて、まったく足りない年金で生きるか死ぬかの極貧に直面せざるを得ない。
このような「何も持たない高齢層」が1,000万人以上の単位で出現するのがこれからなのだ。
「マイホーム」が足かせになることも
では、不動産などの資産を持っている高齢者は他人事なのかと言えば、そうとも言えないのが、今の日本社会である。
日本の高齢層は今もまだ不動産が役に立つ資産だと思っている人もいるのだが、今後の少子高齢化時代を考えると、不動産はよほどロケーションに恵まれた場所でないと資産にならない可能性の方が高い。
特に地方の惨状は目を覆うばかりで、不動産はまったく資産にならず〝負動産〟と自嘲されている。30年も住宅ローンを組んでやっとそれが自分の物になったとき、資産価値の消えた土地とボロボロの建物がそこに残されているだけになる。
バブル期、都内から2時間以上も離れたマンションを買った人々も、ローンが終わる頃はマンションが老朽化し、改修費が出せないことで「スラム・マンション」となってしまうような場所も出てきている。
さらにバブル期に建てられたリゾート・マンションも人口減と老朽化によって見捨てられており、今や50万円以下で売っているようなマンションすらもある。
不動産を売ったら現金が作れると思って買った不動産も価値を失うのが成長もなくし、子どももなくした日本の現状である。
このままでいくと今後の日本は極貧の高齢者で埋め尽くされる国となる。あまりにも絶望的な状況だ。
日本政府は何もしてくれない
今さら日本政府に、何とかしろと言っても無駄だ。日本政府はバブル崩壊以後30年、まったく何もできなかった。
この30年の大半の政権を担ったのが自民党だが、日本国民は何も解決できない自民党に相変わらず選挙で勝たせている。とすれば、何もできない状況はこれからも続くと考えるのが常識だ。
国民年金を増やせと叫んでも、自民党は何もしないだろう。
もはや国民年金は「単なる生活の補助」であり、老後を支えるものではなくなった。それは国民の最低限の生活を保障しない。そんなもので生活できないというのは、すべての日本人が現実として受け入れるべきだ。
日本の底辺で高齢層の貧困はどんどん広がっていく
国民年金で老後が暮らせるようになる時代は絶対に来ない。
政府は最低限の生活は国民ひとりひとりの自助努力によって達成すべきであり、国民年金はそれを補助するためのものと考えている。
「国民年金で少しくらいは補助はするが、最低限の生活は自分で何とかしろ」というのが国の立場である。今後、政府は「自助努力」という言葉を頻発するようになっていくはずだが、この自助努力というのは「自分で何とかしろ」という突き放しなのである。
それだけではない。政府はここ30年で日本を経済成長させることに失敗し、内需を拡大することもできなかったのだが、そのツケを増税・社会保険料の値上げで国民に押しつけているのだ。
消費税はひたすら上がっていくばかりだが、消費税以外の税金もじわじわと上げられている。そして、社会保険料もまた値上げされるばかりである。
政府は日本国民から収奪していると言っても過言ではない。
手取りが減って物価が上がる中で、税金や社会保険料を上げて収奪を図るのだから、日本政府はもはや「国民の敵」であると言ってもいいのではないか。
子どもに頼るどころか、年金と貯金を子どもが一緒に食いつぶす
そうした状況なのだから、日本の底辺で高齢層の極貧はどんどん深刻化する。年金が足りないうえに、政府そのものが国民の収奪に狂っているのだから、ほとんどの高齢者は不安しかない。
政府は頼れない。では、誰か頼れる人はいるのか。自分の子どもなら頼れるのか?
子どもも非正規雇用が広がって収入が不安定になり、失職しやすくなったり仕事そのものが見つからなくなったりするので、「老いたら子どもに面倒をみてもらう」という昭和時代の発想もアテにならなくなった。
今の社会は逆に子どもそのものが経済的に負の存在になるケースも増えた。子どもがいつまで経っても自立できず、自宅に引きこもって外部との接触を断ったりする「ひきこもり」が百万人単位で出現している。
子どもに頼るどころか、年金と貯金を子どもが一緒に食いつぶす。
いずれ社会が増える高齢層を抱えきれなくなる日はくる
すでにこうした問題は8050問題と呼ばれているのだが、これからは9060問題になって深刻度を増すだろう。
さらに高齢化が進むことによって介護が必要な高齢者だらけになるのだろうが、貯金不足で施設に入れない高齢者が放置される状態になる。
現在、生活保護の受給者はうなぎ登りに増えているが、その要因は貯金がなくなった極貧高齢層の存在がある。こうした極貧の高齢層がさらに増えていくのだから、生活保護受給者はもっと膨らんでいく。
生活保護に頼りたくないという高齢層も多いが、困窮の度が深まると背に腹はかえられない状況になる。しかし、生活保護の財源も無限ではないので、間口はどんどん狭くなっていくだろう。
いずれ、社会は増える高齢層を抱えきれなくなる日がくる。そうすると、「自助努力」で生きていけない高齢層を見殺しにする社会が生まれても私は驚かない。
莫大に増え続ける極貧高齢者の問題は、より深刻化して日本社会を陰鬱にする。
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