マイナ保険証の読み取り機、利用は1日わずか2回…病院側「普及するか分からない」
使ってもらえなければマイナ利用料が入らない医療機関は苦しい?
政府は、2024年秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに機能を一本化する「マイナ保険証」を事実上、義務化する。医療機関にとって、患者の同意があれば薬の処方歴も確認できるようになり、医療の質向上が期待される。一方で、対応するシステムの導入が必須となって負担が生じ、マイナカード自体の普及も進んでいないなど、不安や反発の声が上がる。
青森市の青森県立中央病院。患者たちは来院すると、受付の職員に従来の保険証を提示する。県病によると、院内にはマイナ保険証の専用読み取り機が4台あるが、利用は1日にわずか2回程度だという。担当者は「デジタル化は患者の利便性向上につながるいいことだ」と話す。しかし、「現状では2年後までにどこまで普及するのかわからない。その中で紙の保険証がなくなるのはちょっと……」と心配した。
マイナ保険証は21年10月に本格運用が始まった。県内のマイナカードの交付率は今年10月末現在で46・3%。交付が進まないのは、今はそれほど取得のメリットが感じられないことや、個人情報流出への懸念などがあるとみられる。
保険証廃止に先立ち、政府は23年4月から原則全ての医療機関や薬局で患者がマイナカードを利用できるよう義務付ける。ところが10月30日現在、県内でカードを利用できる医療機関などは42・8%にとどまっている。マイナカードが行き渡っていない現状で、保険証が廃止されれば混乱が生じる可能性がある。
そんな中、県保険医協会は10月、マイナ保険証の実質義務化を批判する声明を発表した。医療機関は、あと残り半年足らずでマイナ保険証に対応するシステムを導入しなければならないからだ。協会は声明文で、「(システム導入の)拙速な義務化は医療機関を追い込み、一部は廃業を迫られるなど、患者の医療アクセスを阻害する危険性がある」として撤回を求めている。
協会が反発する背景には、半導体不足もある。全国で整備が集中しているため、システムの機材の納入が遅れるケースも出ているからだ。協会の担当者は「23年3月末までに導入しろと言われても、多くの病院にとっては物理的に不可能だ」と主張する。
マイナ保険証の義務化にはマイナカードの普及を進めたい政府の思惑が透けて見える。だが、弘前市のある開業医は「利用がほとんどないので、現場ではメリットを感じられていない。手段と目的が逆転しているのでは」とこぼした。
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