生活保護の医療費まで負担することに…これ以上の「国民健康保険」の値上げを絶対に阻止するべき理由
これをやられると国民健康保険税は今の2倍以上になります
■所得600万円だと「年88万円」が徴収される
国民健康保険料(国保料)の上限額は3万円引き上げた2022年度に続き、2023年度も2万円増額される見込みだ(健康保険料と介護保険料を合わせた年間の上限額が104万円となる)。
「上限額に適用される人は、高所得者だからやむを得ないのではないか」と思うかもしれないが、それは違う。国保料は他の公的医療保険――大企業に勤める労働者とその家族が加入する「組合健康保険(組合健保)」や、中小企業で働いている人が加入する「全国健康保険協会(協会けんぽ)」、公務員や学校職員とその家族が加入する「共済組合」などと比べて圧倒的に高い。国保加入者は年齢層が高く、医療費が高くなりやすいからである。地域に医療費が多く発生すれば、それだけ保険給付費(自己負担額以外の費用)も上昇し、それに応じて保険料も高くなってしまうのだ。 例えば一昨年の私の場合、約600万円の所得に対し、国保料は約88万円である。所得の約15%を占めている。国保に加入していない人は、自身の所得の15%が健康保険料として徴収されることを想像してみてほしい。
しかも国保料は今後さらに高くなる恐れがある。
■「生活保護受給者の医療費」も負担させる方針
佛教大学社会福祉学部准教授で、『市町村から国保は消えない』『新しい国保のしくみと財政』(ともに自治体研究社)などの著書がある長友薫輝氏がこう説明する。
「生活保護受給者の医療費は、全額を医療扶助で負担していますが、これを国保料に移行させるという案が、今年6月に閣議決定された『骨太の方針2022』に記載されたのです。以前から財務省などがこのアイデアを時々打ち上げているのですが、もしこれが現実に実行されるということになれば、国保料は今よりもとんでもなく高騰します。生活保護費の半分を占めているのが医療扶助であり、これを国保で面倒みよ、ということなのです」
生活保護費負担金は全体で約3.7兆円(令和4年度)。そのうちここ10年はたしかに医療扶助が半分近くを占め、その額、約1.8兆円。
「今は主に国庫負担でまかなっている生活保護の医療費を国保に移行するのは、つまりは国庫負担の抑制でしょう。ただでさえ“所得なし”の層が3割を占める国保で、現在の支払いさえ苦しむ人たちに負担を押し付けるのは無理があります。しかも『骨太の方針2022』の“脚注”にそれが記されているのが姑息だと思いました」(長友氏) たしかに「骨太の方針2022」の31ページを確認すると、<後期高齢者医療制度の在り方、生活保護受給者の国保および後期高齢者医療制度への加入を含めた医療扶助の在り方の検討を深めることなどを含む>などと小さな文字で記されている。
■健保同士でいがみ合っている場合ではない
そして国保だけでなく、ほかの健康保険組合も厳しい財政状況が続いている。団塊世代(1947年~49年生まれ)が75歳になる2025年には医療費が一層膨らむ見通しだが、財源の半分近くを占める現役世代の人口は減少しているためだ。
長友氏は「現状、国からのお金を医療保険同士で奪い合う形になっている」と指摘する。
「それは医療保険に対する国庫負担を抑えているからです。会社員が加入する組合健保や協会けんぽも、後期高齢者医療保険制度へ支援し、そして65歳以上が加入する国保にも出資することになったため、しんどくなっています。組合健保や協会けんぽにすれば、なぜ後期高齢者や国保を支援しなければいけないんだ、おかげで赤字じゃないかと思うでしょう。もちろん国保側も厳しい。健保同士でいがみ合うのではなく、医療保険全体に対する国庫負担を求めていくべきです」
「1983年まで約6割を占めていた国庫支出金が年々低下し、現在は二十数%。このままでは国だけが支出を抑制でき、国民の負担が増え、ますます消費購買力が落ちる。こうした状況で保険料負担を引き上げるというのは理解に苦しみます。1980年代の水準に国庫負担を戻していけば、保険料負担、自治体の負担はかなり軽減されるでしょう」
■「保険診療のほうが医療費が増える」というのは幻想
「国の負担増」には厳しい声もある。前回、私が「国民健康保険料の真実」で同様の主張をした際も、批判のご指摘をいただいた。主な指摘は、「国の負担を増やすより、皆保険制度をやめるべきだ」「保険適用の範囲を狭め、民間保険のように医療機関を受診する人ほど保険料を上げるべき」というものだ。その主張もわからなくはない。私も、なぜ1年に1回程度しか医療機関を受診しない自分が、月に8万~9万円も支払わなければならないのか、と思う。
しかし、保険の範囲を狭めれば、医療費がさらに増えるという悪循環に陥る恐れがある。長友氏は、こう補足する。
「アメリカの医療費はものすごく高いでしょう。それは日本における診療報酬がなく、富裕層に対する“医者の言い値”だからです。ある治療を医者が10万円といえば10万円になる。風邪薬や湿布薬は保険診療から外すべきだ、とみなさん言いますが、自由診療が増えるほど医療費の総額が増えるのです。公的医療保険があり診療報酬制度があるから、医療費がコントロールされている。保険診療のほうが医療費が増えるというのは幻想です。国として大部分の庶民に対して医療提供しないわけにはいかないので、保険診療をゼロにはできません。となると、自由診療の部分におされて全体の医療費が上がってしまうのです」
■「コンビニ受診」ができたほうが医療費は安くなる
私はこれを聞いて、出産費用がそれを表していると思った。病気ではないという概念から、日本では妊娠・出産費用が保険適用ではない。そのかわり出産した者には出産育児一時金が支給される。これは国ではなく公的医療保険からの支給ではあるものの、出産費用も出産育児一時金も年々増額しているのだ。
出産育児一時金制度がスタートした約30年前は、30万円の支給額だったが、今では42万円。2023年4月から47万円まで増額される。出産育児一時金が増額されれば、医療機関の価格改定がされ、出産費用はさらに吊り上がるだろう。保険適用で「これがスタンダード」という規定を定めれば、医療機関が出産費用を吊り上げることはなくなるのではないだろうか。
また、日本では「命を救う」という“最後の砦”にどうしても注目がされるが、誰しも最初は「軽症」であり、この最初の段階で医療機関を受診したほうが医療費はかからない。
「医療機関に気軽にかかることは『コンビニ受診』として批判されますが、軽症段階で食い止めたほうが医療費を抑えることができます。政府が広報する“誰もが元気に長く働く”ことにもつながるはずです。ですから保険料の負担を軽くし、医療へのハードルを下げることが大事なのに、実際には保険料の負担を重くして受診を抑制するという逆方向に進んでいます」(長友氏)
■窓口負担が苦しいなら「無料低額診療事業」で検索を
国庫負担を上げる、すなわち国が医療にお金を出すということは、地域経済が循環することでもある。特に地方では医療機関は雇用を生み出す拠点でもあるからだ。
医療費のうち国の負担は約4分の1(11兆円)とされている。前回も述べたが、これ以上加入者に負担を押し付けるのではなく、国は公的医療保険への支出を決断するべきだろう。
最後に、保険証があっても窓口負担が払えないと悩む人に。全日本民主医療機関連合会(民医連)が窓口負担を払えずに重症化や死亡に至った事例を発表しているが、それを読むたびに胸が痛む。やっとの思いで保険料を払って、保険証があるのに、窓口で支払うお金がないために医療を受けられないなど本末転倒だ。
低所得者やDV被害者など生活困難者を対象として、無料または低額な料金で診療を行う事業所が全国に約680施設ある。体の調子が悪いなら、「無料低額診療事業」と検索して、該当する医療機関を早めに受診してほしい。
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『徳洲会 コロナと闘った800日』(飛鳥新社)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。
過去放送分は、番組HPより聴取可能。
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国はとんでもないことを知らないうちに計画しているというのが良くわかります。
しかも、それとわからないように脚注部分に小文字で書くというとても姑息なやり方です。
コロナのデータ隠蔽と何ら変わりないやり方です。
生活保護については
→https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/18.html
このように生活保護者の医療費は本来は国が負担しなければならないものです。
それを一般国民の中の国民健康保険税を払っている人に押し付けるというのは横暴と言う
以外の何物でもありません。
最近の財務省は重箱の隅をつつくように穴を探し出し国民に負担を押し付けるものばかりです。
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