首相〝洗脳〟か「岸田増税」財務省の思惑　安倍元首相の遺志「防衛国債」を排除　東日本の被災者を犠牲にして防衛力強化か

　自民、公明両党の税制調査会は１５日、２０２３年度税制改正大綱案を了承した。岸田文雄首相が掲げる防衛費増額のための「増税（岸田増税）」は、法人税額に４～４・５％を上乗せし、たばこ税は１本換算で３円引き上げ、復興特別所得税を１％転用する。安倍晋三元首相が生前、デフレ下での増税による「国力衰退」を避けるために提示した「防衛国債」発行などは排除された。自民党内の強い反発に配慮し、実施のタイミングは「２４年以降の適切な時期」とし、制度の詳細は決着を来年に先送りした。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、岸田首相の増税執着に「財務省の洗脳」の可能性を指摘した。

 

　防衛費をめぐる増税問題について、岸田首相が１３日、自民党の役員会で、「今を生きる国民が自らの責任として、しっかり重みを背負って対応すべきものである」と語った。 これには、思わずのけぞった人も多かっただろう。茂木敏充幹事長が紹介した発言だったが、世論の反発に驚いたのか、後になって、首相の発言は「主語が国民ではなく、われわれだった」と修正した。お得意の「朝令暮改」である。これで、首相発言は側近が台本を用意していることが明らかになった。

　岸田首相は、財務省に完全に「洗脳」されている。これまで、財務省の意向に左右されてきた首相は何人もいたが、「増税は国民の責任」とまで言い切った首相は、記憶にある限り、岸田首相が初めてだ。 岸田首相は昨年、自民党総裁選に立候補したときから、増税路線を掲げていた。裏で絵を描いていたのは財務省である。

　株式の売却利益などに課税する金融所得課税案が典型だ。株式市場の急落に直面し、慌てて引っ込めた形になっているが、今回はそのリベンジマッチなのだ。 自民党内からは、異論が噴出しているが、首相がここまで言い切った以上、政権は強行突破を図るだろう。反対派に巻き返しの突破口があるとすれば、まずは復興特別所得税の流用を盛り込んだ部分である。

　ここは、財務省のチョンボだ。 この通りになったら、「東日本大震災の被災者を犠牲にして防衛力を強化する」という話になってしまう。政策論として筋が通らないだけでなく、国民感情としても受け入れられない。 「国民全員が心を一つにして国を守る」。これが防衛の基本であるにもかかわらず、被災者を犠牲にしたら、彼らを切り捨てるのも同然だからだ。これでは「増税は国民の責任」どころか、「被災者はもっと泣いてくれ」と言っているようなものだ。

　こんな姑息な案を思いつく財務官僚は、いくら立派そうなセリフを首相に吹き込んだとしても、被災者の苦しみなど所詮、他人事なのだ。彼らの頭にあるのは、自分の利権だけだ。復興特別所得税の流用を言ったことで、それがバレてしまった。 もしも、「利権など考えてない」と言うなら、自分たちの天下り先に配っているカネを止めたらどうか。各種特別会計がその小道具になっている。 国の財務書類によれば、その金額は有価証券と貸付金を合わせて約６００兆円に上っている。わずか１％を整理・削減しただけでも、たちまち６兆円が浮いてくる。

　私は新聞の論説委員を務めていた１０年以上も前に、この案を当時の財務事務次官に言ったことがあるが、返事はにべもなかった。私が財務省を信用しなくなったのは、それが発端である。

　彼らの最優先事項は「天下り先の確保」、次が「国債減らし」だ。ただし、国債を減らした結果、天下り先に配るカネがなくなったら元も子もないので、増税を言っている。 財務省にとって、これで「岸田政権は用済み」になるだろう。増税路線に道筋を付けてくれさえすれば、政権が倒れても一向にかまわない。後は、また次の政権で勝負すればいい。これが彼らの本心である。来年春には統一地方選がある。

　自民党は、それでいいのか。 日本の政権政党がいつまでも、財務省に支配されていてはならない。この問題を深く認識していたのは、亡くなった安倍晋三元首相だった。自民党内の良識ある人々は、いまこそ、元首相の遺志を継ぐ決意を行動に移すべきだ。