なぜいま消費税率アップ発言?「自民党は統一地方選で惨敗、経済政策の正常化を」森永卓郎氏
結局は財務省内における点取りゲームなのか?
岸田文雄首相が防衛費増額のための増税の考えを公表し、国民から反発の声が上がる中、自民党の甘利明前幹事長が、少子化対策のために「将来的な消費税率の引き上げも」などと発言。火に油を注いだかたちとなり、SNSでは批判のコメントが殺到して“炎上”した。「岸田首相は『税金倍増計画』を断行している」と苦言を呈する経済アナリストの森永卓郎氏に、岸田首相の狙い、今後の国民生活などについて聞いた。
――防衛増税について、どう見ていますか?
防衛費の増額の必要はないと私は考えていますが、最近の国際情勢を踏まえて、増額するということは受け入れたとしても、増税でその費用を賄う必要はないです。
現在でも国民の税負担はかなり過酷なものになっています。国民の所得がどのくらい税金や社会保障費に持っていかれているかを示す国民負担率を見ると、2021年度は48%です。11年度は38.9%だったので、この10年で10%近く上がっています。
岸田首相は「10年程度は消費増税はしない」、「国民の所得を倍増させる」と言った人です。その人がなぜ、国民の生活にしわ寄せがくる増税をしようと考えたのか。それは、増税による財政の健全化に固執する財務省の考え方を受け入れたからでしょう。
今のような社会経済状況で、増税などするべきではありません。安倍(晋三)元首相は「防衛費増額の財源は国債でやればいい」と主張していました。私もこの主張には賛成です。
岸田首相は、国債だと「将来の子ども世代の負担になる」という考えのようですが、国債を日銀に買ってもらい、満期になったら日銀が再び国債を買えば、国は元本の返済の必要はなくなります。国が日銀に支払う利子は、日銀の経費を差し引いて、ほとんどが国民の財産として国庫に戻ってきます。ここには将来世代への負担などありません。
これをやりすぎると「インフレになる」という、リスクを指摘する声もあります。ただし、アベノミクスで行われた日銀の異次元緩和で、14年から年間80兆円もの国債を購入できるようになりました。それでもインフレは起きなかった。日銀の購入できる“天井”はものすごく高いことがわかっています。80兆円からすれば、増税で賄おうとしている1兆円くらいは“ゴミ”のような金額ですよ。
――国債以外に財源を賄う方法はないのでしょうか。
もし国債がダメでも、庶民への増税に頼らない方法はいくらでもあります。政治家の文書通信費(現、調査研究広報滞在費)や、赤坂にありながらも超格安の議員宿舎など、見直しをするべきです。国家公務員の給与も大企業の正社員の給与並みになっており、非正規や中小企業なども含めた民間給与の平均より54%も高いです。極論ですが、国家公務員の給与を民間給与並に削減すると、2・9兆円も捻出できます。
年間所得が1億円を超えると、所得税の負担率が下がる「1億円の壁」もおかしな話です。財務省によると、所得税と社会保険料の負担率が、年間所得300万~400万円の人と比べ、100億円の人のほうが低いことがわかっています。
また、日本人がドバイで暗号資産を売ってもうけると課税されない、といった抜け道もある。富裕層に課税すれば、2兆円でも3兆円でも出てくるのではないかと見ています。
増税前にこうした構造的な問題を一つひとつ議論していくべきです。こうした状況を放置して、搾れるところから搾り取ろうなんて、こんなバカなことがあっていいわけありません。
――岸田首相は当初、「所得倍増計画」を掲げていましたが、負担が増えています。
防衛費増額による増税のほかにも、岸田首相が掲げる「子ども予算の倍増」のためには「消費増税が必要」と自民党から声が上がっています。さらには、これまで免税事業者だった中小企業や個人事業主から消費税を徴収しようとしています。
このままでは国民負担率は50%を超えるように思えます。江戸時代では四公六民(収穫高の4割が税、6割が農民の所得)だったのが、幕府の財政悪化で五公五民になり、農民が窮乏化した結果、全国で百姓一揆が起きました。今の日本でもこれ以上負担が増えると経済が窒息し、国民の生活も回らなくなりますよ。
岸田首相は就任当初、金融所得課税を強化し、富裕層からの富を分配すれば、経済成長の好循環が始まると主張し、国民の所得を増やす「所得倍増計画」を掲げていました。それを聞いたときは、「正しい考えだな」と思いましたね。だけど、いまや完全にうそつきだとわかりました。これまでの施策を見ていると、「税金倍増計画」を断行しているように見えます。
私からすれば岸田首相は、弱い農民から搾り取ろうとする江戸時代の悪代官のようです。昔、小学校で、江戸幕府の役人が「菜種と百姓は絞れば絞るほど出る」と発言したのを学びましたが、この思想はいまの岸田首相の考え方と重なって見えます。
――岸田首相はどのような政策を目指しているのでしょうか。
岸田首相の政策では、これから国民の生活はどんどん厳しくなります。
現在、輸入原材料が高騰しており、物価も上がっています。他方で、輸入品を除いた物価指数を表すGDPデフレーターを見ると、実はマイナスになっている。つまり、日本の経済はいまデフレになっている。賃金が上がらないのも、そのためです。
デフレ下では金融緩和と財政出動をしないといけないのに、岸田首相は逆に財政と金融の引き締めをやろうとしています。
例えば、国の借金を見てみると、一昨年度に102兆円増えましたが、昨年度は25兆円と、大幅に赤字の増加額が減りました。これは岸田首相が財政引き締めに、すでに舵を切っている証拠だと見ています。
また、金融引き締めについては昨年12月、日銀は長期金利を引き上げる方針を出しました。これは岸田首相の意向を反映したものだと見るべきです。今年4月、日銀の黒田東彦総裁が任期を終えます。金利を上げる、つまり、金融引き締めをする新総裁が選ばれ、超低金利政策は、おそらくここで終わると見ています。
岸田首相の財政健全化と金融正常化は、信念なのでしょう。そこには経済政策という科学的な論理はなく、宗教的な信仰に見えます。岸田首相のような政策から財政再建や経済成長を実現できた国を、私は一つも知りません。逆に大不況に陥った事例ならあります。
1929年に就任した浜口雄幸首相の時代です。世界で景気が後退し、日本でもデフレ下にあるときに、財政と金融を引き締めてしまい、昭和恐慌になりました。
――国民生活は今年、どうなるでしょうか。
日本では今年、経済が一気に失速するかもしれません。金利が上がることで、住宅ローンも上がります。住宅ローンの4分の3は変動金利ですから、住宅ローン破産が増えるでしょう。
また、コロナ禍で中小企業を支援するために行われた「ゼロゼロ融資」(実質無利子・無担保)が今年5月ころから有利子化、つまり、利子を払う必要が出てくるため、ここでも破綻する企業が出てくるでしょう。
政府はリスキリング(学びなおし)をして成長産業に転職すればいい、と考えているようですが、中高年にとってそれはかなりハードルが高い。結局は、非正規職にしか就けず、年収が激減。そうした人たちを、強い企業が安い賃金で雇うような状況になるのではないでしょうか。
昭和恐慌では4人に1人が失業しましたが、同じような恐慌になるかもしれません。私は、大学を卒業する学生の就職口がないような社会にはしたくないと思っていますが、就職氷河期が再び来るような強い懸念を持っています。
岸田首相は、憲政史上最悪の首相になるかもしれません。今年の統一地方選で、自民党は惨敗するのではないでしょうか。早く経済政策が正常化することを望んでいます。
(構成/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)
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森永卓郎氏の指摘はもっともだと思います。
なぜ、岸田首相は財務省の増税論に反対できないのか?
まるで何か弱みを握られているような感じですね。
そもそも1兆円という金額をなぜ増税して賄わなければならないのか?
そのあたりの理由は一切説明されず、余剰財源がありながら手を付けない。
この国はまさに防汚国の一途をたどっているとしか思えません。
結局は日本は今支配層によって最後のとどめを刺されようとしているのです。
日本は亡国の民になっても構わない。
そういう思想が根底にあるのでしょう。
財務省は今は15%に消費税を上げ、将来的には25%にしたいと目論んでいて
その布石を今いろんな形で打っているようです。
そして、国民が消費税アップやむ無しと言う世論が醸成される機会をうかがい
醸成されたとなれば、時の総理に命じて増税に踏み切るでしょう。
果たして、世論や政治家がこれに反論できるのか?
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