EVが「若者のクルマ離れ」に加担していた? 実態は「買わない」ではなく「買えない」だった
いくら作っても売れなければ経済は沈下で購買力が低下し、しさらに売れなくなる悪循環を招いていることが原因
20歳の半数「クルマに憧れ」
自動車業界は電気自動車(EV)化やカーシェアに新たな希望を見いだして久しい。しかし、それでも「車離れ」という泥沼から抜け出す道筋はまだ見えていない。
そんな中、ソニー損害保険は1月5日、20歳の若者を対象に実施した「2023年 20歳のカーライフ意識調査」というアンケートの結果を発表した。その結果によると、運転免許保有率は61.2%で、2022年発表の調査から4.0ポイント上昇した。また、「車を所有している大人(自分より上の世代の人)は格好いいと思う」という質問には、約半分にあたる全体の53.4%がイエスと回答した。つまり、20歳の2人に1人は、車に憧れを抱いているのだ。
もちろん、一世代前の調査であれば車に対する憧れはもっと高かったと思われるが、いまだに20歳の2人に1人は車に憧れを持っている上、運転免許も6割がしっかりと取得しているという事実には驚かされる。
ちなみに同調査では、都市部と地方での比較も実施している。免許保有率は都市部49.1%に対し、地方は64.5%である。都市部と地方でこれだけの差がある理由は、単純に交通手段の問題だと思われる。都市部と地方では公共交通機関の発達に言わずもがな差があるため、先のインターネットを利用したアンケートでの運転免許保有率も、地方が底上げをしているという事実はあるだろう。それでも、都市部で約半数の若者(しかも20歳)がいまだに運転免許を取得するというのも、驚くべき数字だと筆者(永田諭生、ウェブライター)は考える。
「経済的余裕なし」過半数
ここまでの話を聞けば、「車離れは、メディアがつくり上げた幻想では?」という考えさえ頭に浮かぶ人もいるだろう。だが、今まで挙げた数字とは裏腹に、「車離れ」は日本の経済状況の悪化とともに、実際訪れているのだと思わせる数字も、同調査には出てくる。実は筆者は、「車離れ」は、「車を欲しくなくなった」のではなく、日本人が「車を買えなくなった」だけだと考えている。
今回のアンケートでも、現在車を持っているかという問いに対しては「購入する予定はないが、いずれは欲しい」が44.8%を占めた。また、車に対する意識への質問では「車を所有する経済的な余裕がない」と答えた人が57.9%を占めた。つまり、購入したい意思はあるものの、経済的な問題からなかなか行動に移せないという人が多いのだ。
その中で、今はやりの「EVへのシフトチェンジ」は、車は欲しいけど手を出せない、という“車離れせざるを得ない人”を増やす結果になり、結果的に業界を衰退させてしまうのではないかと考えている。
ガソリン車より高価なEV
政府は、2035年に全ての新車販売において電動車(バッテリー式電気自動車のほか、ハイブリッド車なども含む)の比率100%を目標にしている。そのため、自動車メーカー各社はEV化を進めている。EV化によってユーザーにはどのような変化が訪れるのだろうか。
EVの本体価格は現在300万~400万円、ガソリン車は新車で120万~300万円と本体価格では差が開いている。もちろんEVの供給が増えていけば価格は抑えられていくだろうが、今のガソリン車よりも安くなっていくかと言われれば、そのような予想はあまり出てきていない。この時点で、経済的にも今後厳しい環境が待っているとされる日本では、車の購入はますます敬遠されることになるだろう。
それに加えて、EVは充電環境が必要だ。ガソリン車の給油とEVの充電コストでは、同じ距離を走るのに2.25倍EVの方が安くなるという試算が出ている。しかし、これは家で充電した場合の試算だ。先にも述べた通り、そもそも経済的に苦しくなっていっているがゆえに「車離れ」をしているという筆者の主張なので、「所有している家」で充電することは車を所有するよりも難しくなっているはずである。
賃貸の家で充電ができるのかと言えば、もちろんそれも難しいだろう。車の所有が難しいほど経済的に困窮している中で、充電設備が整っている家を借りるのもまた難しくなると簡単に予想できるからである。
自宅以外での充電については、車の使用頻度や利用する充電ステーションによって決まるため、一概にガソリン車とEVでどちらが安くなるかを述べることは困難だが、結局はどちらも、そこまで変わらないという結果に落ち着くと筆者は見ている。そのため、EV化をしてもやはり「車離れ」は変わらない。
カーシェアリングが最後の手段
となれば、最後の手段は「カーシェアリング」である。カーシェアリングであれば、所有するよりも負担は少なくなる。ここに車業界が流れ着くのは当然の結果である。
カーシェアリングについては、交通エコロジー・モビリティ財団の「カーシェアリング車両台数と会員数の推移」調査結果(2022年3月調査)を見れば、伸びていることが分かる。
・車両ステーション数 2万371カ所(前年比5.3%増)
・車両台数 5万1745台(前年比19.1%増)
・会員数 263万6121人(前年比17.4%増)
上記の通り、その数は前年(2021年)比で増加していて、それは毎年増加傾向にある。「車離れせざるを得ない人」が、やはり多く、そのような人にカーシェアは刺さっていると思われる。
ただし、カーシェアに業界がすがれば何とかなるか、と言えばそうではない。今度は、今はやりのシェアサイクルが競合として出てきてしまう。リサーチ・コンサルティング会社のJ.D.パワー ジャパンが行った「J.D. パワー 2021年カーシェアリングサービス満足度調査SM」によれば、カーシェアの利用目的は「旅行」の次に「近隣への買い物」が多い。シナネンホールディングスなどが行った「シェアサイクルに関するアンケート」によれば、シェアサイクルの利用目的は「近隣への買い物」が最も多く、需要が大きくかぶってしまっているのだ。
このように、そもそも経済的に困難な状況になってきた日本では、EV化をしてもカーシェアを推進しても、車離れを防ぐのは容易ではない。とはいえ、一筋の光明はカーシェアにある。今後の車業界によるカーシェア周辺事業の取り組みには、要注目である。
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