ラットに移植した人間のミニ脳が見事に結合。視覚刺激に反応

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ヒトミニ脳マウス 科学

ラットに移植した人間のミニ脳が見事に結合。視覚刺激に反応

ラットの損傷した脳の一部をヒトのミニ脳でふさいだ結果

 生きているラットの脳に、人間の幹細胞から培養したミニ脳(ヒト脳オルガノイド)を移植したところ、見事に一体化したそうだ。

 視覚野に傷があるラットの脳に、ミニ脳を移植したところ(上の画像の緑色の部分)、網膜から入ってくる信号(視覚刺激)に対して反応したという。

 ペンシルベニア大学の研究チームによれば、将来的にはこの方法で、人間の脳を治療できるようになるかもしれないという。

 「脳を治す新戦略開発の第一歩だと思います」と、論文の筆頭著者、ハン・チャオ・アイザック・チェン博士は語っている。

ラット脳の損傷を人間のミニ脳でふさぐ実験

 『Cell Stem Cell』(2023年2月2日付け)に掲載された今回の研究では、人間の幹細胞から育てた「ヒト脳オルガノイド」を、傷を負ったラットの脳の「視覚野」に移植している。

 オルカノイドとは、試験管内など生体外でつくられたミニ臓器のことである。今回は人間の幹細胞から培養したヒト脳オルカノイド、つまりミニ脳が使用された。

 目の網膜に光が当たると、そこから脳の「一次視覚野」に電気シグナルが送られる。これが目の前の風景を”見る”ための最初のステップだ。ここで光の情報が分析されると、そのデータはさらに「二次視覚野」に送られて、さらに詳しく分析される。

 今回の研究では、この二次視覚野に穴を開けられたラットの脳に、人間のミニ脳が移植された。

 このミニ脳は、人間の幹細胞を80日間培養して作られたもので、完全ではないにしても、人間の大脳皮質と同じような層構造と細胞を備えている。

 つまり私たちの頭に詰まっている脳のミニチュア版と思えばいい。

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人間のミニ脳がラットの脳と結合し、きちんと機能

 それを外科手術でラットの脳の傷に移植し、免疫抑制剤で拒絶反応を予防する。

 するとそれから3ヶ月の間、ラット脳側からオルガノイド内へと血管が枝を伸ばし、オルガノイド側からはその細胞がラット脳へと混ざっていった。

 こうした両脳の結合をもっと詳しく調べるために、特殊な蛍光染料でマーキングしたところ、ヒト脳オルガノイドがラット脳ときちんと結びついていることが確認されたという。

 それどころか、脳オルガノイドはラットの網膜から送られてくるシグナルをもしっかり受け取れている。

 ラットの目を光の点滅などで刺激してみると、オルガノイドがきちんと反応することが観察されたのだ。
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人間の幹細胞から培養したヒト脳オルガノイド(緑の部分)は、生きているラットの脳に見事に結合し、網膜からのシグナルを受け取った / image credit:Jgamadze et al.

ラットの視力は回復したのか?

 今回の研究では、視覚野に傷をつけ、それを脳オルガノイドでふさいだ結果、ラットの視力がどう変化したのかまでは確認されなかった。

 それは次のテーマとして、研究チームが今取り組んでいることだ。

 将来的な研究テーマとしては、体の動きを司る運動野など、ほかの部分にも脳オルガノイドを移植できるのか? 脳とオルガイドが結合するスピードや程度に影響する要因は何か? などが挙げられている。

 また研究チームは、ヒト脳オルガノイドをさらに本物に近づけようと画策しているとのこと。

 人間に近いミニチュア脳ほど、より本物に近い機能があるはずだ。「脳の様子をより忠実に再現する基板が欲しいのです」と、チェン博士は話している。
 

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