なぜ最大4万頭の乳牛の殺処分が必要? 元農水省官僚「農政の失敗。それを国民が負担」【WBS】
牛乳不足で急遽増やした畜産業淘汰のため?
いま、日本の酪農家が経営の危機にあるのをご存知でしょうか。
北海道の酪農家では、牛乳などの原料となる生乳が余り、廃棄処分をせざるを得ない事態が起きているんです。そのため、国は1日から生乳の生産抑制のため、乳牛の殺処分に対し1頭あたり15万円の助成金を出します。なぜ、こうした事態に陥ってしまったのでしょうか。
日本で最も酪農が盛んな北海道。中でも代表的な酪農地帯が十勝地方です。酪農家からは悲痛な声が上がります。「今後が心配だよ。かわいい牛を殺してお金をもらうなんて」。カメラなしを条件に取材に応じた酪農家は悔しさをにじませました。
新型コロナの影響で生乳の需要減少が長期化。収入は得られず、生乳を廃棄しなくてはいけない事態となりました。さらにウクライナ危機による飼料価格などの高騰でコストは膨らみ、経営危機に陥っているのです。
1月30日の衆院予算委で立憲民主党の逢坂誠二議員は「乳を搾らないでくださいと言われている。加えて乳をまだ搾れる牛を減らしてくださいと言われている」と発言。岸田総理は「どういったことが可能なのか。農水省に検討させる」と答えました。
しかし、国は、生産を抑制するために3月以降、乳牛を処分すれば1頭当たり15万円の助成金を出す政策をスタート。22年度の補正予算に50億円分を計上し、年間で最大4万頭の処分を見込んでいます。
なぜこうした事態に陥ったのでしょうか。元農林水産省の官僚であるキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏によれば、問題の発端は10年ほど前にさかのぼると言います。
「酪農業界、政府も含めて乳製品の需給調整に失敗した。2014年にバター不足が起きた。足りなければ自由に輸入するのが普通だが、政府は輸入を制限した」
2014年ごろから起きたバター不足。輸入ではなく国産のバターを作るよう、政府は生乳の生産量を増やすための設備投資などに補助金を出し、後押し。多くの酪農家がこれに応える形で生乳の増産に踏み切ったのです。
山下さんはこの判断が間違いだったと指摘します。
「酪農団体は乳製品の輸入に反対。輸入しすぎると牛乳の供給が増えて価格が下がる。そうすると酪農家が大変となり、農水省は批判を受ける。その批判を受けないようにするために十分なバターを輸入しなかった。(国産バターを増やす政策の結果)生乳が余った、したがって牛を淘汰する、税金を使えばいい、ではない。国民が税金を払って需給調整の失敗を国民が負担している。本当はやってはいけないことだ」
山下さんは酪農業界の変革の必要性を訴えます。
「根本的な政策は酪農業界の体質を強化して、価格やコストを下げて世界と張り合うことができるように競争力ある農業、酪農をつくることだ。今の農政はそんなこと全く頭にない」
※ワールドビジネスサテライト
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