誰得?マイナ保険証ない人向け「資格確認書」 本人申請が必須で有効期限は最長1年、自動更新は未定
すべてはマイナカードを取得せざるを得ないようにするための悪策
マイナンバーカードと健康保険証を一体化させた「マイナ保険証」に絡み、岸田政権がまた物議を醸す仕組みを打ち出した。未取得者向けに保険証代わりの「資格確認書」を発行するという。取得には申請が必須で、有効期限は最長1年間。本人にも事務窓口にも手間がかかりすぎないか。面倒ならマイナカードを作ってね、と言わんばかりの対応だが、いったい誰が得をするのか。(岸本拓也)
◆取得に当初は有料化検討
2024年秋に健康保険証を廃止し、マイナ保険証への一本化を目指す岸田文雄首相は昨年10月、マイナカードを持たない人も保険診療を受けられるように「保険証に代わる制度をつくる」と表明。デジタル庁や総務省、厚生労働省が中心となって同12月から対応策を検討していた。
今月17日に公表した中間取りまとめでは、保険証の代わりとなる紙の資格確認書を発行する方針を明示した。当初は有料化も検討されたが、自民党内部からさえ「懲罰的にお金を取るのはおかしい」と反対の声が上がり、発行は無料になった。
一方で、取得するには本人申請が必要で、有効期限は最長1年とした。期限が切れたら更新もできるが、国民健康保険証のように自動更新されるかは未定だ。
厚労省の担当者は「基本的に必要な人が必要な時に申請するもの。自動更新していくかはそれも踏まえて検討する」と話し、更新時も申請が必要となる可能性に含みを残した。窓口の費用負担も、現行の保険証と同様に、マイナ保険証より重くなる。
◆うっかりすると無保険扱いに?
本人負担だけでなく、医療機関の窓口での新たな混乱の種になりそうだ。
首都圏で在宅医療に携わる木村知医師は「すでにマイナ保険証と従来の保険証が入り乱れている。もう1種類入ってきたとき、窓口がかなり混乱するのではないか。ただでさえ、コロナ対応で苦心しているのに、事務手続きを煩雑にして現場の足を引っ張ることはやめてほしい」と訴える。
制度の枠組みも大きく変わる。厚労省によると、現在の健康保険法では、保険料を支払っている被保険者に対し、健康保険組合などの保険者が健康保険証を発行・送付することが義務付けられている。今後は被保険者が申請しないと交付されなくなり、マイナ保険証がない人はわざわざ資格確認書の取得・更新の手続きを強いられることになる。
マイナ保険証への一体化に反対してきた全国保険医団体連合会(保団連)の本並省吾事務局次長は「資格確認書の取得が任意で1年限定となると、保険料を適切に支払っている人でも、うっかり申請を忘れるなどし、医療機関の窓口で資格喪失や無保険扱いとなることが懸念される」と語る。
問題は、医療現場にとどまらない。
政府の審議会では、老人介護施設の関係者らから「現在は緊急時の受診などに備えて施設で保険証を預かっているケースが大半だが、センシティブな情報があるマイナ保険証になると、預かるのは難しい」とマイナ保険証の一本化に懸念の声が上がった。
政府は資格確認書はそうした高齢者らへの対応策としているが、本並氏は「該当する高齢者は国内に数百万人いる。そうした人たちが新たに資格確認書を申請するのも大変だし、受ける自治体側も大変。現行の保険証で対応できていたことに、膨大な社会コストを払うことになる」と指摘した上で続ける。「政府がマイナ保険証ありきで、当事者のことを考えずに制度を考えたために、無用の混乱を招いている。国民も医療機関も望んでいない保険証の廃止は撤回すべきだ」
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