ロシアの経済戦争の巧妙さに愕然とする。むしろ西側の方がバカ正直だったとか?(前者の単語に比重あり)
ロシアはしたたかであり唯では転ばない!
戦争によりボロ儲けしている構図が明らかに
私がずっと疑問だったのは、ウクライナの戦争が、なぜこんなに長引いているかということでした。
まあ、いろいろと理由はあるのでしょうけれど、最近のいくつかのアメリカの記事や報告書を読んでいて、「こんなんなってるのかよ」と思う点がありました。
今回はメインとしては、イギリスのメディアであるスペクテーター誌の「対ロシア経済戦争はなぜ失敗したのか」という論説をご紹介したいと思います。
しかし、その前に、最近、世界の「貨物市場に焦点を当てた価格報告機関」であるフレイトウェーブ社 (Freight Waves)のひとつの記事を読みまして、とてもショックを受けながらも納得したということがありました。
以下の非常に長い記事です。
ロシアが黒海の穀物輸送を阻止したらどうなるだろうか?
What will happen if Russia blocks Black Sea grain ships?
ウクライナのトウモロコシと小麦の海上輸出をロシアが認めていた「黒海のウクライナ穀物に関するイニシアチブ」が 5月18日で切れまして、ロシアは「延長しない」としていますので、ウクライナ産の穀物が、再び世界に回らなくなる可能性があり、その場合どうなるのか、というのが主題の記事です。
また、最近、ヨーロッパのいくつかの国が、ウクライナからの穀物輸入を禁止しました。
ポーランド、ハンガリー、スロバキアなどが「自国の農家を守るために」ウクライナからの穀物の輸入を禁止したということがありました(ニュースの翻訳)。
その後、いくつかの農業分析計メディアでは、「またも食料価格や、食料供給に問題が起きるのではないか」としていたものが多かったです。
[記事] [欧州のウクライナ産小麦輸入の停止が世界の食料供給にリスクをもたらす]という報道(2023/04/20)
しかし、先ほどのフレイトウェーブ社は、分析と、専門家たちの話を総合し、
「それはない」
と断言しています。つまり、ウクライナからの穀物供給が停止されても、世界の穀物価格や供給には、ほぼ影響を与えないとしていました。
すでに、各国の商社等は、そのような事態に備えて、この 1年、供給網から輸入先までを開発し続けていたので、「今では、ウクライナからの食料等の影響はほとんどない」としていました。
また、ロシアのこの戦争期間での「小麦輸出量」は、米国農務省によると、「記録的なレベルで増加し、前年比 36%増」となったことが示されています。
昨年のロシアの小麦が豊作だったことも理由ですが、結局、「みんな、ロシアから小麦を購入している」という現実を示してもいます。
しかし、この報告で最もショッキングだったのは、「肥料」についてのことです。
ロシアは、多くの肥料原料の世界最大の生産地ですが、その肥料の原料の輸出を「停止」したのは、昨年の 2月のことでした。
対ロシア制裁が始まり、すぐのことです。
[記事] 肥料の原料「硝酸アンモニウム」の世界最大の輸出国であるロシアが、輸出を停止
地球の記録 2022年2月28日
その後、翌月の 3月には、「友好国への肥料の輸出は再開」されたと報じられていました。
その後は、肥料の精製に必要な天然ガス価格の高騰もあり、ご存じのように、世界中で肥料価格が急激に上昇しました。
昨年は、肥料に関する記事を何度も書かせていただきました。
そして、私は、この「友好国以外への肥料の輸出は停止されたまま」だと思っていたのです……が、そうではなかったのでした。
フレイトウェーブ社の報告記事の、その部分を抜粋します。
ロシアの肥料の脅威に関する「神話」
侵略後の食料安全保障への懸念は、ウクライナ産穀物の損失だけではなかった。それらはまた、ロシアの肥料と肥料原料へのアクセスの喪失に関するものでもあった。
アーガス社の肥料市場担当シニアエディターのマイク・ナッシュ氏は、以下のように述べる。
「ロシアは主要な肥料の供給国であるため、懸念は非常に現実的でした」
ロシアがウクライナに侵攻したとき、肥料の価格はすでに非常に高かったが、軍事行動後には高騰し、リン肥料の DAP (リン酸二アンモニウム)は一時 1トン当たり 1,200ドルを超えた。
しかし、小麦やトウモロコシと同様に、肥料の価格はその後下落した。
ナッシュ氏は「肥料価格は 2022年下半期に下がりました。それは大きく、比較的急速でした」と述べている。
「新たな肥料の供給源が開拓され、ロシア産の原料が流入し続けたため、市場は反応したのです。多くの場合、(ロシアからの)供給が増加したため、懸念は解消されました」
ロシアの DAP ともう 1つの主要なリン肥料である MAP (リン酸マグネシウムアンモニウム)の、ロシアから海外への輸出は、2021年と比べて 2022年に増加している。
「合計輸出量は 400万トンをはるかに超えて増加しました。肥料原料のリン酸塩のロシアからの供給が削減されたというこれまでの通説はまったく真実ではありません。実際にはロシアからの輸出量は従来より多かったのです」とナッシュ氏は語った。
米国は、ロシアから肥料を追加で購入
ロシアの尿素輸出は、2021年と比較して 2022年に 10%増加した。インドとトルコへのロシアの輸出量の増加は、石油とディーゼル市場の動きを反映している。
驚くべきことは、ロシアは、米国、オランダ、フランス、ドイツにも、以前より多くの尿素を販売していた。
ナッシュ氏は以下のように述べる。
「もう一つの神話は、ヨーロッパと西側の企業がロシア産の肥料に背を向けたという話です。そんなことは起こりませんでした」
「ロシアの肥料製品に制裁はかけられていません。理論上はどこにでも自由に輸出できますし、実際にそうなっています」
「ロシアの肥料の供給喪失について主流メディアが懸念していたにもかかわらず、それはまったく起こりませんでした」
穀物と同様に、入手可能であることの証拠は価格にある。肥料価格は下落している。
ナッシュ氏は、「市場は(現状に)適応してきました。新しい貿易の流れが生まれました。世界中に肥料は豊富にあります」と述べた。
ここまでですが、これを読んで、思わず眼振が起きました。
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「世界中に肥料は豊富にあります」
ですと。
あと、よく制裁の対象としていわれるロシア産原油ですが、昨年の以下の記事で書きましたように、香港のサウスチャイナ・モーニングポストが中国の税関のデータを分析したところ、
「ロシアから中国に移動した石油が、大量にヨーロッパに転売されている」
ということで、価格の問題は別として、「ロシア産石油の欧米による購入には何の問題も起きていない」ことがわかっています。
[記事] 架空の世界に生きる : 欧州のエネルギー危機は回避される模様。なぜならヨーロッパは、中国経由で「こっそりロシア産ガスを大量に輸入している」から。覇権はさらにロシアと中国に
In Deep 2022年8月31日
しかも、後半でご紹介するスペクテーター誌によれば、ロシア側はロシア側で、「制裁でロシアへの輸出を禁止とされた自動車にしろ、化学製品にしろ、なんでもかんでも、旧ソ連国の周辺国から入手していた」ことが示されています。
輸入も輸出も、制裁は何にも機能していないんです。
そして、小麦にしても肥料にしても石油にしても、「ロシアは、ウクライナ戦争以前より輸出ルートを広げ、輸出量も大幅に増加し、以前より大儲けしている」という構図だけが浮かび上がるのです。
これなら、ロシアにとって、「戦争はすぐに終わらないほうがいい」と考えても不思議ではありません。
フレイトウェーブ社の記事は、以下のように締めくくられていました。
ロシアがさらなる市場シェアを獲得
これらすべてを総合すると、農産物と肥料の貿易における戦後のあらゆる変化の中で、ロシアが大きな勝者として浮上してくる。
同国は原油とディーゼル市場で制裁に直面しているが、人道的懸念を考慮し、食品と肥料商品に関しては、制裁の検討の対象外となっている。
アメリカもまた、ロシアから肥料を買っている。
戦争が始まって以来、ロシアは小麦のほか、尿素、DAP、MAPの市場シェアと売上高を伸ばした。
黒海穀物イニシアチブを阻止すれば、ウクライナの代わりにさらに多くのロシア産小麦が海外に売れる可能性がある。
世界市場におけるウクライナの役割へのダメージはすでに出ている。黒海の回廊の喪失はロシア経済への影響を強め、新たな取引パターンをさらに強固なものにするだろう。
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歌手の森高千里さんの約 30年前の歌に『気分爽快』というのがあります。
冒頭はこんな歌詞でした。
♪ やったね おめでとう いよいよあいつとデートか
まったく やるわね 私の知らないうちに
デートはしてないでしょうが、西側は制裁、制裁と叫びながら、どんどんロシアからさまざまなものを「以前より大量に」購入していたようです。そして、ロシアは、西側から輸出禁止とされたものを周辺国を迂回して輸入しています。
あるいは、この歌とほぼ同時期の「ダイハード3」というアメリカ映画がありましたが、犯人の集団は、「思想的なテロリストを演じ、資本主義社会に制裁を課す」というスローガンで、アメリカの中央銀行を襲撃しますが、「実は単にゴールド強奪(しかも準備金全部)だけが目的の強盗だった」という概念も彷彿とさせます。
今後もこんな感じなんでしょうか。
もともと昨年の時点で、以下の記事のように、「なんかいろいろとおかしい」とは思っていました。これじゃ西側は単なるイディオットじゃないかと。…それが明らかになってきたのかもしれません。そして、ロシアの、巧妙…というより、考えようによっては、悪辣ともいえるシルエットも見えないでもないです (戦争を利用しているなら)。
[記事] 誰を崩壊させるための対ロシア制裁なのか。目指すのは西の自死? それともこれもいわゆるグレートリセットへの道?
In Deep 2022年4月2日
でもまあ、日本の農家さんにしてみれば、昨年より大幅に安い肥料が、今後、手に入ることになるのかもしれず、エネルギー価格のほうはよくわからないですが、昨年ほど厳しくはないのかもしれません。
ただし、農作に関しては、今年、強力なエルニーニョが発生する可能性がきわめて高いということを考える必要はあるかとも思います。
タイ政府は、すでに「水不足に備えて、米農家にコメ生産の減少を要請した」とバンコクポストが報じていました。以下で翻訳しています。
[記事] タイ政府が米作農家に「エルニーニョによる水不足に備えて、コメの生産量を減らすように」要求 (2023/05/13)
以下の記事で書きましたように、今年は、もともと世界的な激しいコメ不足が予想される中で、世界第 3位のコメ輸出国であるタイのコメ生産が半減した場合(タイ政府は、二期作目をやめるようにと述べているため)、拍車がかかるかもしれません。
[記事] 「世界のコメ不足は過去20年で最大になる」と信用格付機関フィッチが発表。…日本の近年最大のコメ不足時と同様の強力エルニーニョが迫る中で
In Deep 2023年4月22日
1993年の日本の極端なコメ不足の時には、タイ米を輸入して乗り切りましたが、今年あるいは来年などに同じような不作があった場合、1993年の場合のようにはいかない可能性が高そうです。
というわけで、ちょっとここまで長くなっちゃったんですけど、英国スペクテーター誌の論説をご紹介させていただきます。
ここからです。あふれかえるお金の海の中を泳ぎ回るプーチン氏のイラストが添えられています。
対ロシア経済戦争はなぜ失敗したのか
Why the economic war against Russia has failed
Spectator 2023/05/13
今週おこなわれた、ウラジーミル・プーチン大統領が赤の広場を通る戦勝記念日のパレードに参加している戦車が、博物館の遺物であるようなもの 1台だけだったのを見た時、西側諸国では大きな歓声が上がった。
ロシアがウクライナであまりにも多くの軍事装備を失ったため、かつての軍事大国だったソ連の面影はなくなったという推論だ。
ロシアは確かに多大な損失を被った (ただし、戦争を行っている国では、おそらく、戦車などの軍事装備は式典パレードではなく戦場で運用しているだろうが)。しかし、西側は独りよがりになるのは避けるべきだ。真実は、西側にとっても戦争は少なくともある点でうまくいっていないということだ。
昨年2月24日にプーチン氏がウクライナ侵攻した際、西側諸国は急速に二本立ての戦略を採用した。
一つ目の戦略は、西側は、直接的な軍事衝突には関与しないが、武器やその他の軍事装備をウクライナに送り支援するというものだった。戦略のこの部分は目覚ましい成功を収めた。
ウクライナは、結果がまだ確実ではないにもかかわらず、ロシア軍に抵抗し、多くの地域からロシア軍を押し返すことに成功した。
しかし、西側のもう一方の戦略は露骨だった。それは、ロシアに経済戦争を仕掛け、これまでに見たことのない規模で経済的衝撃と恐怖をロシアに解き放つ計画だった。
ロシアに対して、医薬品などの人道的なものを除くすべての輸出入に対して制裁とボイコットを行い、ほぼ完全に遮断されることになった。当初、この理論によれば、プーチン大統領のロシアは疲弊して降伏すると見られた。
西側諸国では、戦争のこの側面がどれほどひどい状況にあるのかを知っている人はほとんどいない。
欧州は自ら、ロシアの石油とガスの部分的ボイコットを実現するために高い代償を払った。英国のロシアからの化石燃料輸入は 2021年に総額 45億ポンド (約 7300億円)に達した。
2023年1月までの 1年間では、公式には 13億ポンド (約 2200億円)まで減少した。
2020年、EUはガスの 39パーセントと石油の 23パーセントをロシアから調達した。昨年の第 3四半期には、これはそれぞれ 15パーセントと 14パーセントに減少した。
しかし、これらの数字はロシア経済に与える失敗の規模を説明するものではない。西側諸国は経済戦争に熱心だが、世界の他の国々はそうではないことがすぐに明らかになった。
ヨーロッパへの石油とガスの輸出が減少する中、ロシアは中国とインドへの輸出を急速に増やした。両国ともウクライナ侵攻に抵抗するよりも安く石油を買うことを好んだ。
さらに悪いことに、インドに輸出されたロシア産石油の一部はヨーロッパに吸い上げられたようで、スエズ運河を通じてインドから精製油を受け取る船の数が増加している。
反対方向にも吸い上げがあるようだ。
ドイツの新聞ビルト紙の調査では、ロシアと国境を接する国々への輸出が憂慮すべき伸びを示していることを明らかにした。
例えば、カザフスタンへのドイツ自動車の輸入量は 2021年から 2022年にかけて 507%増加し、アルメニアへは 761%増加した。
アルメニアへの化学製品の輸出は 110パーセント、カザフスタンへの輸出は 129パーセント増加した。アルメニアへの電気およびコンピュータ機器の売上高は 343%増加した。
これらの商品がこれらの旧ソ連諸国に到着した後にどうなるかを立証するのは簡単ではないが、可能性のある説明の 1つは、これらの商品が迂回された貿易の流れとしてロシアに行き着くということだ。
そのような商品が正式に再輸出されていないとしても、多くのロシア国民はこれらの国へのビザなしアクセスを維持しており、国境を越えて商品を持ち込むことができる。
西側諸国は、特に裕福なロシア人たちを経済制裁の対象にしようとする政策をとってきた。しかし皮肉なことに、彼らは迂回貿易を通じて西側の製品を最も容易に入手できる人々なのだ。
二重パスポートを持っているのは彼らのような人たちだ。高級品を買うために海外旅行に行く余裕のある人たちだ。ロシアに対する大規模な世界的ボイコットがなければ、西側製品が裕福なロシア人の手に渡るのを阻止することは非常に困難だ。
西側諸国は、世界中で自らの影響力を誇張して制裁戦争に乗り出した。私たちが発見したように、非西側諸国には、ロシアにもロシアの寡頭政治にも制裁を課す意志が欠けている。
この誤算の結果は誰もが目にするところにある。
昨年 4月、IMF はロシア経済が 2022年に 8.5%縮小し、今年はさらに 2.3%縮小すると予想した。結局のところ、昨年の GDPはわずか 2.1%の減少で、IMF は今年は 0.7%の小幅な増加を予想している。
これは、昨年 2月に多くの人が想像していたよりもはるかにひどい状況にウクライナ戦争が進んでいたにもかかわらずだ。
ロシア経済は破壊されていない。それは単に再構成され、西ではなく、東と南を向くように方向が変更されただけだ。
ロシアに対して経済戦争を宣言したことは、必ずしも間違っていたわけではない。
この国は、たとえ私たちが与えることができると想像していたほどの規模ではなかったとしても、西側諸国の制裁によって被害を受けてきた。しかし、西側諸国が将来、爆弾や銃弾を使わずに純粋に経済的手段だけで戦争ができると考えているとしたら、それは大きな間違いだ。
西側の軍事装備のおかげで、ウクライナはダビデ対ゴリアテの戦いを仕掛けることができた。勝利する可能性さえあるかもしれない。それによりプーチン氏による併合を確実に回避できる。
しかし、経済制裁については、もう一度考えなければならない。
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