パラレルワールドが存在するならタイムトラベルは可能!
あの時に戻ってやり直したい。そう思ったことはないだろうか?SFの世界ではおなじみとなっている、時間の中を移動するタイムトラベル。これはただの夢物語などではなく、物理理論上も実現できる可能性があるとされている。
しかし、そのためには「親殺しのパラドックス」として知られる厄介な矛盾を解消しなければならない。
カナダの物理学者によれば、もしもこの宇宙に複数の世界線(パラレルワールド)が存在するならば、その矛盾を克服できるそうだ。
アインシュタインは時間と空間を時空という1つの概念にまとめ、その振る舞いについて驚くほど緻密に説明した。
発表から100年、この理論の正しさは何度も証明され、宇宙の因果構造についての理論として不動の地位を築いている。
何十年もの間、この一般相対性理論の枠組みの中でタイムトラベルを可能にする方法はないものかと、研究者は頭を捻らせてきた。
その結果、タイムトラベルが相対性と矛盾しておらず、それを等式として書き表せることが理論上は明らとなった。だが物理学は数学ではない。どんな等式も現実に即していなければ意味がない。
エキゾチック物質は、既知の物理法則を破りうる風変わりで奇妙な物性を持つ仮説上の物質を意味する。
通常の物質は正のエネルギーを帯びており、負のエネルギーを持つ物質はそのあたりに転がっている代物ではない。量子理論上はそれを作り出せるとされているが、ごく少量をほんの束の間だけだ。
それでも十分な量のエキゾチック物質を作れないと証明されたわけではない。
また、エキゾチック物質なしでもタイムトラベルを可能にする等式が見つからないとも限らない。ゆえに、この問題は今の技術や知識レベルでの問題と言えるかもしれない。
だがもう1つの問題はより深刻だ。
それはタイムトラベルが理論的に矛盾しているように見えるということだ。タイムトラベルを行うといくつかのパラドックスが生じてしまうのだ。とりわけ厄介なのは「親殺しのパラドックス」と知られる矛盾だ。
これは過去に行ったことで過去が変わり、それが最初の出来事を不可能にしてしまうというパラドックスで、SFでも人気のテーマだ。
たとえば、あなたがタイムマシンで5分前に戻って、そのタイムマシンを破壊したとしよう。すると5分後のあなたはタイムマシンを利用できなくなる。ならば、そもそも過去に戻ってタイムマシンを破壊できたはずがない。
つまりタイムマシンを破壊するには、タイムマシンを破壊してはいけないのだ。つまり矛盾した2つの条件を同時に満たさねばならないのである。そんなことは不可能に思える。
タイムトラベルをする人物は大抵、過去の出来事を大きく変えてはいけない、過去の自分にも会ってはならないと警告される。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズが有名だろう。
だが物理学におけるパラドックスは、そもそも起こり得ない出来事を指す。理論の矛盾を突くための概念でしかない。
つまり親殺しのパラドックスは、タイムトラベルの危険性を示唆しているわけではなく、それが不可能であるという意味なのだ。
イギリスの天才理論物理学者、スティーブン・ホーキングなどは、タイムトラベルが不可能であることを示すために「時間順序保護仮説」まで唱えた。
ただし、この仮説はまだ証明されていない。それどころか宇宙は想像以上にユニークな場所である可能性もある。パラドックス自体を消し去ってしまうかもしれないのだ。
たとえば親殺しのパラドックスを解消する試みの1つに、イゴール・ノヴィコフの「首尾一貫の原則」がある。彼の考えでは、あなたは過去に行くことはできるが、過去を変えることはできない。
ノヴィコフによれば、あなたが5分前に戻ってタイムマシンを破壊しようとしても、絶対にできない。物理法則が矛盾が生じないように一貫性を保とうとするからだ。
パラドックスがたった1つ残っただけでも、タイムトラベルは理論的に不可能だ。話は振り出しに戻ったことになる。
ではやはりタイムトラベルは不可能なのか?
いいや、だから彼らは複数の歴史、すなわち複数の世界線(パラレルワールド)があるならば、首尾一貫の原則では消えないパラドックスを乗り越えられると論じている。
それどころか、タイムトラベルにまつわるあらゆるパラドックスを解消できるのだという。
考え方はシンプルだ。あなたがタイムマシンを降りると、別の世界線に移る。あなたはその世界線でなんでも好きなことをできる。
タイムマシンを破壊してもいい。だが、たとえタイムマシンを破壊したとしても、あなたがやってきた元の世界線が変わることはない。よって矛盾は生じない。
もしこれが正しければ、タイムトラベルは可能ということなる。はたして、この宇宙は複数の世界線を受け入れてくれるのだろうか?
エヴェレットの多世界解釈は、量子力学の観測問題における解釈の一つである。この解釈では宇宙の波動関数を実在のものとみなし波束の収縮が生じない。そのかわり重ね合わせ状態が干渉性を失うことで、異なる世界に分岐していくと考える。
たとえば、かの有名なシュレーディンガーの猫が生きていたか、死んでいたかで歴史は2つに分裂する。あなたが過去にたどり着けたかどうかでも然りだ。
複数の世界線が存在し、かつ一般相対性理論と矛盾することのないタイムトラベルの理論だ。もちろん、この理論が完成したとしても、タイムトラベルが完全に可能であるという証明になるわけではない。
だが少なくとも、親殺しのパラドックスがあるからタイムトラベルは不可能と切り捨てる必要はなくなる。
SFにおいて、タイムトラベルと並行世界は切り離すことができないコインの両面のようなものだが、それは現実の科学にとっても同様である。
一般相対性理論と量子力学は、タイムトラベルが可能かもしれないと告げている。ならば複数の世界線もあり得るに違いない。
しかし、そのためには「親殺しのパラドックス」として知られる厄介な矛盾を解消しなければならない。
カナダの物理学者によれば、もしもこの宇宙に複数の世界線(パラレルワールド)が存在するならば、その矛盾を克服できるそうだ。
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タイムトラベルは可能なのか?
私たちの時間や因果関係についての理解は、「一般相対性理論」に基づいている。アインシュタインは時間と空間を時空という1つの概念にまとめ、その振る舞いについて驚くほど緻密に説明した。
発表から100年、この理論の正しさは何度も証明され、宇宙の因果構造についての理論として不動の地位を築いている。
何十年もの間、この一般相対性理論の枠組みの中でタイムトラベルを可能にする方法はないものかと、研究者は頭を捻らせてきた。
その結果、タイムトラベルが相対性と矛盾しておらず、それを等式として書き表せることが理論上は明らとなった。だが物理学は数学ではない。どんな等式も現実に即していなければ意味がない。
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タイムトラベルの矛盾
タイムトラベル等式が非現実的とされる理由は2つある。1つは実行する上での問題だ。タイムマシンを作るには負のエネルギーを持つ「エキゾチック物質」が必要と考えられている。エキゾチック物質は、既知の物理法則を破りうる風変わりで奇妙な物性を持つ仮説上の物質を意味する。
通常の物質は正のエネルギーを帯びており、負のエネルギーを持つ物質はそのあたりに転がっている代物ではない。量子理論上はそれを作り出せるとされているが、ごく少量をほんの束の間だけだ。
それでも十分な量のエキゾチック物質を作れないと証明されたわけではない。
また、エキゾチック物質なしでもタイムトラベルを可能にする等式が見つからないとも限らない。ゆえに、この問題は今の技術や知識レベルでの問題と言えるかもしれない。
だがもう1つの問題はより深刻だ。
それはタイムトラベルが理論的に矛盾しているように見えるということだ。タイムトラベルを行うといくつかのパラドックスが生じてしまうのだ。とりわけ厄介なのは「親殺しのパラドックス」と知られる矛盾だ。
たとえば、あなたがタイムマシンで5分前に戻って、そのタイムマシンを破壊したとしよう。すると5分後のあなたはタイムマシンを利用できなくなる。ならば、そもそも過去に戻ってタイムマシンを破壊できたはずがない。
つまりタイムマシンを破壊するには、タイムマシンを破壊してはいけないのだ。つまり矛盾した2つの条件を同時に満たさねばならないのである。そんなことは不可能に思える。
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物理学から見る「親殺しのパラドックス」
SFのよくある誤解として、パラドックス(ある命題とその否定命題が、ともに論理的に同等と思われる論拠をもって主張されている)は作り出せるというものがある。タイムトラベルをする人物は大抵、過去の出来事を大きく変えてはいけない、過去の自分にも会ってはならないと警告される。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズが有名だろう。
だが物理学におけるパラドックスは、そもそも起こり得ない出来事を指す。理論の矛盾を突くための概念でしかない。
つまり親殺しのパラドックスは、タイムトラベルの危険性を示唆しているわけではなく、それが不可能であるという意味なのだ。
イギリスの天才理論物理学者、スティーブン・ホーキングなどは、タイムトラベルが不可能であることを示すために「時間順序保護仮説」まで唱えた。
ただし、この仮説はまだ証明されていない。それどころか宇宙は想像以上にユニークな場所である可能性もある。パラドックス自体を消し去ってしまうかもしれないのだ。
たとえば親殺しのパラドックスを解消する試みの1つに、イゴール・ノヴィコフの「首尾一貫の原則」がある。彼の考えでは、あなたは過去に行くことはできるが、過去を変えることはできない。
ノヴィコフによれば、あなたが5分前に戻ってタイムマシンを破壊しようとしても、絶対にできない。物理法則が矛盾が生じないように一貫性を保とうとするからだ。
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複数の世界線があれば矛盾が解消されタイムトラベルが可能に
しかし過去を変えられないのであれば、過去に戻ることに何の意味があるだろうか? こう問うブロック大学のバラク・シューシャニーらは、ノヴィコフの首尾一貫の原則では解消できないパラドックスがあると指摘する。ではやはりタイムトラベルは不可能なのか?
いいや、だから彼らは複数の歴史、すなわち複数の世界線(パラレルワールド)があるならば、首尾一貫の原則では消えないパラドックスを乗り越えられると論じている。
それどころか、タイムトラベルにまつわるあらゆるパラドックスを解消できるのだという。
考え方はシンプルだ。あなたがタイムマシンを降りると、別の世界線に移る。あなたはその世界線でなんでも好きなことをできる。
タイムマシンを破壊してもいい。だが、たとえタイムマシンを破壊したとしても、あなたがやってきた元の世界線が変わることはない。よって矛盾は生じない。
もしこれが正しければ、タイムトラベルは可能ということなる。はたして、この宇宙は複数の世界線を受け入れてくれるのだろうか?
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量子力学は確かにその可能性を示唆している。少なくともエヴェレットの「多世界解釈」では、あり得る観測結果に応じて、1つの歴史が複数の歴史に分裂するとされている。エヴェレットの多世界解釈は、量子力学の観測問題における解釈の一つである。この解釈では宇宙の波動関数を実在のものとみなし波束の収縮が生じない。そのかわり重ね合わせ状態が干渉性を失うことで、異なる世界に分岐していくと考える。
たとえば、かの有名なシュレーディンガーの猫が生きていたか、死んでいたかで歴史は2つに分裂する。あなたが過去にたどり着けたかどうかでも然りだ。
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複数の世界線し一般相対性理論と矛盾しないタイムトラベル理論
これはただの推測に過ぎない。だがシューシャニーらは今、それをもっと具体的な理論にしようと取り組んでいる。複数の世界線が存在し、かつ一般相対性理論と矛盾することのないタイムトラベルの理論だ。もちろん、この理論が完成したとしても、タイムトラベルが完全に可能であるという証明になるわけではない。
だが少なくとも、親殺しのパラドックスがあるからタイムトラベルは不可能と切り捨てる必要はなくなる。
SFにおいて、タイムトラベルと並行世界は切り離すことができないコインの両面のようなものだが、それは現実の科学にとっても同様である。
一般相対性理論と量子力学は、タイムトラベルが可能かもしれないと告げている。ならば複数の世界線もあり得るに違いない。
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