近くにコンビニやファストフード店しかない「食の沼地」に住むとがんで死ぬ確率が77%も高くなる
生鮮食品が買えるスーパーなどがほとんどないという問題がガンを発症させる
身近なお店で食材を調達できるかどうかは暮らしやすさを考える上で重要なポイントで、特に生鮮食品が買えるスーパーなどがほとんどないという問題を抱える地域は「食の砂漠(フードデザート)」と呼ばれています。こうした問題に加え、不健康な食事を提供する店ばかりが軒を連ねる「食の沼地(フードスワンプ)」に住む人は、肥満との関係が深いがんでの死亡率が非常に高いことが確かめられました。
Association of Food Deserts and Food Swamps With Obesity-Related Cancer Mortality in the US | Lifestyle Behaviors | JAMA Oncology | JAMA Network
https://doi.org/10.1001%2Fjamaoncol.2023.0634
‘Food Swamps’: Scientists Explain The Health Risks of Living Inside Them : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/food-swamps-scientists-explain-the-health-risks-of-living-inside-them
「食の砂漠」という言葉が生まれた1990年代以降、多くの研究によりこの問題の具体像が明らかになってきました。例えばアメリカの場合、裕福な地区には貧しい地区の3倍のスーパーマーケットがあり、白人が多く住む地区には黒人が多数を占める地区に比べて4倍のスーパーマーケットがあるとのこと。また、自動車への依存度が高いオーストラリア・西シドニーの郊外の多くは飲食店がなく、あったとしても85%がファストフード店で占められています。
健康的な食事に欠かせない生鮮食品を扱うスーパーへのアクセスの悪さが、住人の健康にどのような影響を与えるのかを調べるべく、アメリカ・オーガスタ大学のマルコム・セス・ベベル氏らの研究チームは、全米3142郡の96.7%に相当する3038の郡を対象とした調査を行いました。
研究チームは、都市部では半径1マイル(約1.6km)、農村部では半径10マイル(約16km)以内に健康的な食料が買えるスーパーマーケットがないことを「食料品店アクセスが悪い」と定義し、アクセス性の悪さと地域の所得の低さから「食の砂漠スコア」を算出しました。また、スーパーマーケットに対するファストフード店とコンビニの割合からは、その地域の「食の沼地スコア」が算出されました。そして、2010年~2020年の医療データを元に肥満を主な原因とする13種類のがん、いわゆる「肥満関連がん」での死亡率を求め、「食の砂漠/沼地スコア」と照合しました。
この研究の結果、健康的な食べ物を選べる地域に住む人に比べて、「食の沼地」に住む人が肥満関連のがんで死亡する確率は77%も高いということがわかりました。以下は、結果の詳細をまとめた表です。食の砂漠スコアが高い地域の人が肥満関連がんで死亡する確率は、スコアが低い地域の1.59倍(上の赤枠)、食の沼地スコアが高い地域では、スコアが低い地域の1.77倍(下の赤枠)でした。
肥満関連がんでの死亡率が高い地域は、黒人住民や高齢者の割合が高い傾向がありましたが、これらの要素の影響を調整しても、食の沼地に住む人は死亡率が30%高いという結果になりました。この研究結果は、「食事は本人の努力で変えられる要素のひとつであり、賢い選択さえすればがんのリスクを減らすことが可能である」という従来の固定観念を覆すものだと位置づけられています。
国立衛生研究所のカリーム・S・ワトソン氏らは、研究結果の解説論文の中で「健康的な食品へのアクセスを妨げる困難な問題は、コミュニティへの投資不足や組織的人種差別といった、歴史的および構造的要因に根ざしています」と述べました。
また、ベベル氏らは「食料品へのアクセスを公平にするためには、単に健康的な食料品店を増やすだけでなく、車を持たない人々でも買い物に行けるよう、歩きやすい地域を作ることが重要です」と指摘しました。
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