有田芳生氏が暴く、永田町震撼の「拉致被害者2人帰国で解散総選挙」シナリオと安倍元総理「隠された重要問題」
解散総選挙で勝利を治め憲法改正あるいは緊急事態条項導入のシナリオ
永田町周辺で6月「ある機密情報」が広がりました。それは「岸田政権が北朝鮮に拉致された日本人2人を帰国させ、衆議院解散、総選挙」というもの。この情報は世間一般に広がることはありませんでしたが、永田町では大騒ぎだったようです。そんな国家レベルの情報を早い段階で入手し、その真偽について分析するのは、メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』を発行するジャーナリストの有田芳生氏。有田氏は、長年自身が取材して得た情報をもとに情報の真偽について言及。さらに、拉致被害者と家族を長年政治利用してきた故・安倍晋三元総理に「知られざる重要問題」があったことを明かしています。
※この記事は、メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2023年6月30日号、同7月7日号、同7月14日号より、拉致問題に関する記事の一部を抜粋したものです。7月中に有田氏のメルマガをご登録いただきますと、この続きを含む有田氏のメルマガ7月分の全コンテンツを初月無料でお読みいただけます。この機会にぜひご登録ください。
有田芳生(ありた・よしふ):
1952年生まれ、ジャーナリスト、テレビコメンテーター。立憲民主党所属の元参議院議員(2期)。出版社に勤務後、フリージャーナリストとして「朝日ジャーナル」「週刊文春」など霊感商法批判、統一教会報道の記事を手掛ける。2022年12月より、まぐまぐのメルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』が好評配信中
永田町周辺に激震が走った「拉致被害者2人が秋に帰国、解散・総選挙」の怪情報
通常国会が閉じた6月21日の数日前から国会周辺でこんな情報が広がった。
〈岸田政権が、秋に名前の知られていない拉致被害者2人を帰国させて、衆議院を解散、総選挙に打って出る〉
というのだ。さまざまな情報が入り組んで事実と願望、そして憶測が流れている。いくつかの要素に分けて解読していこう。
キーワードは、以下の3つだ。
(1)「秋」
(2)「拉致被害者2人」
(3)「解散・総選挙」
この情報の前提として確認しておきたいのは、メルマガ23号、24号で紹介した「日朝交渉の現状」だ。まとめておくと、水面下交渉が東南アジアの某国で行われ、日本側は北朝鮮に特使を派遣したいと申し入れた。岸田総理が5月27日の国民集会で「総理直属のハイレベル協議」と発言したのを受けて、北朝鮮側はかねてから準備していた朴サンギル外務次官が2日後に談話を公表、「関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由はない」とした。この「会えない理由はない」という部分がクローズアップされ、日本のメディアは何かが動くかのように肯定的に報道した。
まず(1)「秋」について。岸田政権は通常国会終盤で解散できなかった。ならばいつかといえば最速で秋の臨時国会冒頭に解散するといわれている。来年9月の自民党総裁選で岸田再選を実現するための判断だが、秋だけでなく、来年1月の通常国会冒頭の解散や、総裁選後の解散まで、予測はいくつもある。「予想(よそう)」を逆に読めば「うそよ」。政治動向は確定的なものなど何もない。しかし「秋」に焦点を絞れば、日朝交渉で成果があるのではないかという見方もできる。それが総理「直轄のハイレベル協議」だ。
これは永田町で流れている「岸田訪朝」ではない。北朝鮮のコロナ「鎖国」が終われば、日本側が提示する条件によっては「ハイレベル協議」を実現したいという意思だ。安倍政権時代の水面下交渉で、北朝鮮側は日本国内の差別政策など過去の清算を求めてきた。安倍政権も菅政権もこれまでの岸田政権も、新たな対応を取ることはなかった。それが日本側の「特使派遣」伝達で、いま新たな動きが出てきたのだ。
「名前の知られていない」拉致被害者2人とは誰か?
(2)「拉致被害者2人」について。永田町で流れた情報では「名前の知られていない」となっている。これは「横田めぐみさんたちのように知られていない」という意味だ。日朝間の政府交渉で2014年秋と15年に生存が伝達された政府認定拉致被害者の田中実さんと、拉致された可能性を排除できない金田龍光さんの2人以外には考えられない。小泉訪朝時に日本政府も知らなかった曽我ひとみさんが出てきたように、まったく知らない2人が登場する可能性もありうるが、これまでの交渉で日本政府が確認さえ拒否してきた田中さんたちを放っておいて、新たな人物を出してくるとは考えにくい。
田中さんは1978年に、働いていた神戸のラーメン店店主によって海外に導きだされ、ウィーンからモスクワ経由で平壌に行った。金田さんも田中さんと同じ施設で暮らし、翌1979年に何らかの手段で平壌に入った。日本政府はこの2人をふくむ北朝鮮の拉致問題などの報告書の受け取りを拒否したままだ〈その詳細は有田 『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書) に詳しい〉。
田中さん、金田さんの生存情報については、ストックホルム合意に関する水面下交渉において、外務省の担当者が「これを受け取っては危ない」と判断した。そのうえで日本帰国後に官邸と協議。とくに菅義偉官房長官が拉致問題の幕引きに利用されると強硬に反対、安倍晋三総理も同じ判断を下して放置されてきた。そのときの外務大臣が岸田文雄現総理だ。この田中、金田問題は共同通信が何度も報じており、私も何度か予算委員会と本会議で安倍総理などに質問したが、政府は頑として事実を認めなかった。
ところが、小泉訪朝から20年目の2022年9月17日に配信された『朝日新聞』のネット記事で、斎木昭隆・元外務事務次官が事実だと認めた。
政府関係者「もしそうだとしたら大変です」
「北朝鮮からは、拉致被害者の田中実さんや知人の金田龍光さんの生存情報が提供されたと報じられています」という問いに、〈北朝鮮からの調査報告の中に、そうした情報が入っていたというのは、その通りです。ただ、それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取りませんでした。〉外交当事者がはじめて証言したのだ。
ではこの2人は日本に戻ってくるのだろうか。北朝鮮側の説明では、2人とも平壌に家族がいるので、日本には戻らないという。私の取材では、田中さんの妻は日本人だという。いったい誰なのか。拉致被害者ではないのか。もしかしたら、田中実さんを「入境を確認できない」としてきたのと同じく政府認定拉致被害者の松本京子さんではないのか。
ある政府関係者は私に「もしそうだとしたら大変です」と語った。田中実さんは身寄りもなく、「家族会」に入っていないが、松本さんの兄である猛さんは、熱心に救出活動を行ってきた。日本政府はいまからでも田中実さんに面会し、可能な限りの情報収集をしなければならない。そこから「次」につながることもあるのは、私が紹介、分析した政府の機密文書からも明確な教訓だ。ところが岸田政権が日朝交渉を進めようとし、メディアもその方向で期待している局面で、北朝鮮外務省は冷や水をかけるような談話を6月27日に公表した。
北が突然、日本政府への「批判談話」を発表した意味
東南アジアでの水面下交渉を前提に岸田総理が「直属のハイレベル協議」と発言したのは、5月27日。北朝鮮は2日後に外務次官談話を出して、これまでと同じく「拉致問題は解決済み」としながら、「朝日が会えない理由はない」とした。ところが日本政府が6月29日に「拉致問題に関するオンライン国連シンポジウム」をアメリカ、オーストラリア、韓国、EUと共催で開く前日に、朝鮮中央通信はこの会合を主導した日本政府に対して批判談話を公表した。
外務省のリビョンドク日本研究所研究員は、〈日本人らが言っている「拉致問題」について言うなら、われわれの雅量と誠意ある努力によって、すでに逆戻りできないように最終的かつ完全無欠に解決された〉〈日本が実現不可能な問題を旧態依然として前面に掲げ、国際舞台に持ち歩くのは無駄な時間の浪費であり、「前提条件のない日朝首脳会談」を希望すると、機会あるたびに言及している日本当局者の立場を自ら否定するのと同じである。〉
北朝鮮側にすれば「前提条件のない日朝首脳会談」を求めていながら、拉致問題を前提にしているではないかという。ある政府関係者は「本音をいえば北朝鮮が総理に前提条件なしですぐに訪朝してくださいと言ってきたら困りますよ」と私に語った。なぜかといえば「前提条件なし」で首脳会談などできるはずがないからだ。首脳会談の前には必ず議題が設定される。当たり前のことだ。
北朝鮮外務省の日本研究員の談話に対して、日本政府は沈黙している。シンポジウムで松野博一官房長官は、「総理の決意をあらゆる機会を逃さず金正恩委員長に伝え続けるとともに、首脳会談を早期に実現すべく、岸田総理直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」と公式見解を語るだけだった。
家族会会長が発言した「政府の立場を損なう」刺激的な内容
そもそも日本政府のルートが北朝鮮トップにつながっているかも確認できていない。メディアは遠慮して報じないが、シンポジウムが終わってから行われた「家族会」の横田拓也会長のぶらさがり会見の発言は、政府の立場を損なう刺激的な内容だった。
たとえば〈私たち家族会は、日朝の今後の交渉が進む中で、拉致被害者が帰国することが約束されれば、日本政府が人道支援をすることは反対はしないという立場を表明していますが、この言葉の裏には、この問題が解決されない限り、北朝鮮への制裁は緩めない、そういった意味も込められています。〉日本側の発信が金正恩委員長に届いていると信じて語る流れで、政府が慎重に対応している局面で、「制裁は緩めない」とわざわざ口にする。金正恩委員長でなくとも、日本担当とそれを指導する幹部には確実に伝わる。被害者家族の発言は難しい。
横田早紀江さんはよく言っていた。「私たちには難しいことはわかりません。ただ、めぐみを返してほしい。それだけです」。「救う会」が方針を決め、「家族会」が追認し、それを政府に求めていく。それで外交が進めば問題はないのだが、そうはならない。日本政府は世論に惑わされず外交を進めなければならない。
6月29日に行われた国連のシンポジウムは、5月27日の国民集会の前から準備されたものだ。結果としていかにもタイミングが悪かった。岸田総理は日朝首脳会談に向けて「直轄のハイレベル協議」を口にしている。そこに賭けて9月の臨時国会冒頭で衆議院を解散すると与党や野党からも観測が広がる。日朝交渉は簡単ではない。
8月末には北朝鮮の核問題を議題に日米韓首脳会談が開かれる予定だ。北朝鮮の反発は必至。岸田外交には戦略がない。韓国の「東亜日報」(7月3日)は、日本政府と北朝鮮の非公式協議が6月に北京やシンガポールで行われたが、意見は対立したと一面で報じた。
それに対して松野官房長官は報道を「事実ではない」と否定した。日本政府は、一部で報じられたように、韓国政府の了解をとって動いているというが、そうでもないようだ。その探りを入れるため、韓国政府筋が「東亜日報」を利用した。私の理解では、水面下交渉の時期と場所が違うだけだ。
結局、拉致被害者の帰国と解散・総選挙はあるのか?
さて、拉致問題で2人の被害者が帰国して、解散・総選挙はあるのか。ない、と私は見る。
(1)日朝交渉はそう簡単には進まない。北朝鮮がコロナ「鎖国」にあって平壌での「総理直轄のハイレベル協議」も見通しが立たない。そこに至る水面下交渉もこれからだ。
(2)ましてや安倍政権でさえ実現できなかった首脳会談を行うには、歴代政権の方針を大きく変更する必要がある。
(3)解散、総選挙は岸田総理の判断だが、マイナンバーカードでの混乱、10月からのインボイス制度の導入など、国民生活に直結する諸問題で果たして実行できるのか。もし北朝鮮との首脳会談を実現する方向で外交が進むにしても、来年9月の総裁選挙に向けての課題となるだろう。
小泉訪朝が1年間にわたる秘密交渉で実現し、横田滋さん、早紀江さんのモンゴルでのウンギョンさんとの出会いを成功させた安倍政権も秘密を保持していた。岸田総理のように、水面下交渉があることを公然と国民に語る政治手法で、果たして課題は成就するのか。私は強い疑問を持っている。
安倍晋三元総理「話せないことがあるんですよ」
安倍晋三元総理は北朝鮮による拉致問題をどのように進めようとしていたのだろうか。私には大きな疑問がある。安倍元総理と親しかった大臣経験者は、私の質問にこう答えた。「本当に解決したかったはずですよ」。一般論としてはそうだろう。私の疑問とは「解決」の内実である。
安倍晋三元総理にとって拉致問題の解決とは何だったのか。私は政府が帰国した5人の拉致被害者から聞き取り調査を行った報告書を分析し、 『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書、2022年) を出版した。じつは報告書には機微に触れる記述があるため、引用することを避けた部分がある。拉致被害者の生存に関わる分析だ。その報告書を安倍総理は何度も読んでいた。その前提で解決を求めていくのは、実際にはかなり困難な課題でもあった。確実な死亡情報もなければ、生存情報もないからだ。予算委員会で私が質問を終えたとき、安倍総理は「話せないことがあるんですよ」と声をかけてきたこともあった。それは何のことだったか。いまではわからないままだ。
安倍晋三元総理の心境はわからないにしても、北朝鮮側から2014年、15年に政府認定拉致被害者の田中実さんとラーメン店と施設の同僚で、拉致された可能性のある金田龍光さんの生存を伝達されたことは事実だ。北朝鮮が渡そうとした報告書には、田中さん、金田さんの生存情報以外には、2002年9月17日から変わらない横田めぐみさんたち「8人死亡」の内容が書かれていたようだ。外務省の担当者は「受け取っては危ない」と判断して、メモだけ取って帰国した。それが安倍晋三総理、菅義偉官房長官、岸田文雄外相(いずれも当時)に報告された。とくに菅官房長官が受け取り拒否に強硬で、安倍総理も同意した、という。生存情報は横田めぐみさんや田口八重子さんたちでなければ受け取れないのだ。
しかし小泉訪朝からすでに21年。福田康夫政権と安倍晋三政権の交渉で、北朝鮮側が拉致被害者の「再調査」を行っても、「8人死亡」はまったく変わらなかった。北朝鮮が被害者を厳格に管理していることは、帰国した被害者たちの聞き取り調査報告書を見ても明らかだ。日本政府にとって「再調査」とは、北朝鮮側に便宜的に与える時間と政治的判断なのだ。
「安倍氏関連本」には書かれていない、知られざる重要問題
安倍晋三元総理は拉致被害者について何を語っていたのか。それを解明することは、どこまで日朝交渉に本気であったのかだけではなく、岸田政権がこれから難関を打開する道がどこにあるかを明らかにすることにもなる。そのために『安倍晋三回顧録』(中央公論新社、2023年) 、岩田明子 『安倍晋三実録』(文藝春秋、2023年) 、西岡力・阿比留瑠比 『安倍晋三の歴史戦』(産経新聞出版、2023年) で拉致問題に関して書かれていること、書いていないこと、隠されたことなどを紹介することで、岸田政権に与えられた解題について分析していく。安倍元総理は、コロナ対策、「アベノミクス」、森友学園問題についてはじつに饒舌に語っているのだが、都合の悪いロシアとの北方領土問題や拉致問題では、本当のことを語っていない。この3冊に収録された北朝鮮問題への記述には、いまだ知られていない重要問題が隠されている──(つづく)
(この記事は、メルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』2023年6月30日号、同7月7日号、同7月14日号より、拉致問題に関する記事の一部を抜粋したものです。7月中に有田さんのメルマガをご登録いただきますと、この続きを含む有田さんのメルマガ7月分の全コンテンツを初月無料でお読みいただけます。この機会にぜひご登録ください)
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