トラブル続出のマイナ保険証にさらなる疑念。マイナンバーカードを返納すると「無保険者」になる⁉
岸田首相の説明にあった重大な認識違い
岸田首相の説明にあった重大な認識違い
「紙の健康保険証廃止」(マイナ保険証の事実上義務化)をめぐって、医療現場でトラブルが相次いでいる。
7月下旬には全国保険医団体連合会(保団連)の独自調査によって医療費の自己負担率の誤登録(本来は3割負担の患者がマイナ保険証では2割負担と表示される等)という新たなトラブルが18以上の都道府県で発覚。
マイナンバーのひも付けトラブルを巡り、自身の閣僚給与3カ月分を自主返納すると発表した河野デジタル相。だが、その金額は35万円程度と見られている
ヒューマンエラーでは説明がつかない原因不明の事象で、マイナ保険証のトラブルはもはや底なし沼と化している。
*上記は7月26日に保団連が調査結果を詳しく説明した記者会見映像。外部サイト等で動画を再生できない場合、筆者のYouTubeチャンネル「犬飼淳 / Jun Inukai」で視聴可能。動画タイトルは「マイナトラブルは止まらない」
そして8月4日、岸田文雄総理は自ら命じた総点検の状況を踏まえて約1ヶ月半ぶりに首相会見を開催。筆者は運良く抽選に当選して現地参加を許された。
当日は来年秋の紙の健康保険証廃止の延期・中止を発表するかに注目が集まったが、岸田総理は会見全体を通して従来通り曖昧なメリットの強調に終始。保険証廃止の方向性に大きな変更は無く、多くの国民が落胆する結果となった。
この会見中、筆者は冒頭に岸田総理が読み上げた以下の原稿に度肝を抜かれていた。
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【岸田総理】現行の健康保険証を廃止する際にも、全ての国民が円滑に医療を受けられるようにマイナ保険証を保有していない方全員に資格確認書を発行し、その有効期間やカードの形状も現行の健康保険証を踏まえたものとするなど、きめ細かい対応を徹底いたします。
これにより、マイナ保険証を保有していない方も、現行の健康保険証を廃止してもなお、これまでどおり保険医療を受けることができます。このように、国民の不安払拭に万全の対応を採ります。
出典:2023年8月4日 首相会見 冒頭発言
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資格確認書とは、マイナンバーカードを持っていない人や、持っていても保険証とひも付けていない人などが保険診療を受けられるように、健康保険組合などの保険者が、保険証の代わりに発行する書類のこと。だが、この総理の説明には大変な認識違いが含まれている。
「マイナ保険証を返納したかどうか保険者側はわからない」という欠陥
なぜかと言えば、「マイナンバーカードの返納先」(=自治体)と「資格確認書の発行元」(=保険者)は異なるため、現行の仕組みでは保険者は誰がマイナンバーカードを返納したのかを確認する手段がないのだ。
つまり、カード返納者が続出する中、「マイナ保険証を保有しない全員に資格確認書を発行する」という総理説明の実現性は大変疑わしい。そして、この事実は問題の首相会見のわずか3日前(8月1日)の立憲民主党 国対ヒアリングで厚労省等の官僚が明確に認めている。
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【長妻昭議員】(続出するトラブルに不安を感じて)保険証を紐つけたマイナンバーカードを返した方にも自動的に資格確認書は送られる? つまり、マイナンバーカードを始めから持っていなかった方と同じ扱いになる?
【官僚】そういう扱いにしなければと考えているが、カードを返した先は地方公共団体である市町村のため、(保険者の)健康保険組合としては返したかどうか分からない。本人に聞いてみるとか、本人から連絡を頂くことも別途して頂かないといけない。
【長妻昭議員】保険証に紐づけたマイナンバーカードを役所に返しても、紐付けは解除されないと聞いたことがあるが本当か? そうだとするとカードを返しても(システム上は)マイナ保険証を持った認識のままなので、その方には資格確認書は送られないということ?
【官僚】今のシステム上では、おっしゃる通り。
出典:2023年8月1日 立憲民主党 国対ヒアリング
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*映像は「立憲民主党国会情報」YouTube(リンク先の26分55秒〜28分50秒)で視聴可能
注)最後の方に動画を掲載しました。
このやり取りで官僚は「いちいち本人に確認しない限り、マイナ保険証を自治体に返納したかどうか保険者側は分からない」と素直に認めた。だとすると、このままではマイナンバーカード返納者を中心に資格確認者が送付されない人が続出することは必至だ。
このまま来年秋以降に紙の保険証が廃止されれば、マイナ保険証を所有せず資格確認書が届かなかった人は医療機関受診時に資格確認の手段が無くなる。つまり、保険料を支払っているにもかかわらず窓口で10割の自己負担を求められ、実質的な無保険状態に陥ってしまう。
国民の知る権利を侵害する「内閣記者会」
この事実が明らかになってから首相会見が開催されるまでの3日間で状況が大きく改善していない限り、同会見での岸田総理の「マイナ保険証を保有していない方もこれまで通り保険医療を受けられる」という主張は根底から崩れることになる。大前提である「マイナ保険証を持たない全員への資格確認書の送付」が不可能なのだから。
この矛盾を総理に問い質すために8月4日の首相会見で筆者は真っ先に挙手し続けたが、最後まで指名されないまま終了。会見3日前に露呈していた致命的な制度欠陥にも関わらず、会見で話題に挙がることはなかったため、多くの国民は問題の深刻さに気付いていない。
では、会見ではどのような質問が挙がったのか。 指名された全8名のうち5名は当日最大の関心事である保険証廃止に言及したものの、残念ながら総理のお考えを受け身で拝聴するスタンスの質問が大半を占めた。
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【テレビ朝日】総点検の結果を踏まえて、保険証廃止の延期はあり得るのか? また、将来的にはマイナ保険証に統一するのか、それとも資格確認書と併用するのか?
【朝日新聞】これまでのマイナンバーへの取組の反省点は? 関係閣僚は続投して対応するのか?
【日経新聞】マイナンバーの紐付け誤りが全体に占める割合や数は? 人為ミスがゼロになることはあり得ないと説明してないことが国民不安の原因という見方もあり、ごく少数のミスがあってもそれを上回るメリットがあればマイナ保険証を推進すべきと国民から声が挙がって然るべきだが、国民の理解が広がらない原因は?
【TBS】資格確認書は有効期間を除いて現行の紙の保険証と変わらないため野党からは必要性について批判が出ているが、紙の保険証との差別化は考えているのか? 運転免許証など他のマイナンバーカード一体化のプロセスも見直すのか?
【日本テレビ】マイナトラブルに関する国民不安の一番の原因は? マイナトラブルによって日本のデジタル化が遅れるという国民不安もあることについては?
出典:2023年8月4日 首相会見 マイナンバー関連質問(筆者要約)
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筆者が懸念していた致命的な矛盾を誰も指摘しないばかりか、マイナ保険証の制度欠陥(資格確認書は紙の保険証と同じ)に辛うじて言及したのはわずか1名(TBS)。
日経新聞に至っては、国民の理解不足に責任転嫁してまで「紙の保険証廃止」の後押しを意図したと判断せざるを得ない質問内容だった。全体的に質問が緩いため、岸田総理は冒頭に読み上げた原稿の使い回しで回答を済ませる場面も多々あった。
*質疑全文は首相官邸ウェブサイト参照
この会見では指名された全8名のうち、実に7名を内閣記者会常勤幹事社19社が独占した。この事実が示す通り、首相会見では総理の考えを受け身で拝聴するだけの質問をする内閣記者会(テレビ、新聞等のいわゆる「大手メディア」)が指名されやすい傾向にある。
*約2年間の首相会見36回分の指名状況の偏りを筆者が定量的に検証した結果は、集英社オンラインに寄稿した記事『なぜNHKの記者ばかりが指名されるのか? 指名回数のデータ化で見えた「不公平」と「メディア間格差」』(2023年1月31日)参照
結果、総理の回答は現実と著しく乖離した一方的主張の垂れ流しが大半を占め、国民生活に深刻な影響を与える問題(今回の会見で言えば、「資格確認書の全員送付」という大前提が崩れていること)に国民が気付く機会は奪われ続けている。内閣記者会はもはや国民の知る権利を侵害する存在と言える。
文/犬飼淳
まいこめんと
なにやらとんでもないことになりそうな気配です。
マイナカードを自主返納した人へのペナルティなのだろうか?
常識的に考えてあり得ない対応です。
病院へ行かなければならない事態が起きたときに政府から資格確認書が送られてきていない
ということになったらとんでもないことになるだろう。
本人にはマイナカードもなければ資格確認書もないわけだから、病院で診察を受けたら
当然のことながら支払いは10割全額負担になります。
収入の低い人ならその時点で破産に等しい事態に追い込まれるだろう。
いったいどうするのか?
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