「がんを治さない」高齢者が増加中。医師が“がんは幸せな病気”だと考える理由
60代以降なら、がんが見つかっても「治療しない」選択肢もある
日本人の最大の死因となる病気・がん。この病気を未然に防ぐため、検診や生活習慣の見直しに余念がないという人も少なくない。
ただ、長年高齢者医療に携わってきた医師・和田秀樹氏は、「60代以降は、がんは“治さない”という選択肢も視野に入れるべき」と指摘する。
「治療」を目的とする長期の入院や手術、抗がん剤などのリスクを鑑みた上で、60代以降はがんという病気とどのように向き合うべきなのか。
和田秀樹氏の新刊『60歳からはやりたい放題[実践編]』(扶桑社刊)より、ご紹介する。(以下、同書より一部編集のうえ抜粋)。
◆がんは必ずしも治療するべき病気とは限らない
検査と言うと、多くの人が「がん検診」を受けます。
私自身は、がん検診も受けなくて良いと思っていますが、もし受けるのならば、仮に自分にがんが発覚した場合はどんな対応をしたいのか、治療を受ける場合はどんな方法が良いと思っているのかをきちんと考えてから受けるべきです。
「がんが見つかったら治療するのが当たり前でしょ?」と思われたかもしれませんが、60代以降は、がんなどの病気が見つかったら即治療することが、必ずしも良いとは限りません。
これはがんに限った話ではありませんが、大きな病気の治療は、60代以上にとって体にかかる負担が大きいからです。
◆60代以降の手術や入院に伴うリスクは大きい
若い人であれば、回復力が早いので、入院や手術をしても、すぐに元の健康な体に戻り、以前の日常生活を再開させることができるでしょう。
しかし、60代以降は、一度病気になると、回復に時間がかかります。
外科的な手術を受ける場合、手術で体を開き、臓器を切るので、体に与える負担は大きいものです。
まして、日本ではがんだけでなく周りの臓器も大きく取ることが多いのでなおのことです。
抗がん剤治療も、吐き気などで食事が全く食べられなくなり、栄養が十分に体へ行き渡らず、どんどん体力が弱まっていくことで知られています。
若い人ならば耐えられるかもしれませんが、60代以上の方がその治療に耐えるのはかなりの覚悟が必要です。
また、入院生活も長期にわたるため、その間に筋肉が衰え、自分の力で歩くことすらままならなくなるというケースもあります。
人によっては、手術自体は成功したものの、回復が芳しくなく、そのまま寝たきりになったり、亡くなってしまう……という方もいるでしょう。
◆高齢者になれば、誰しもいつかはがんになる
これは大事なことなのでぜひ忘れないでいただきたいのですが、がんは高齢者になれば必ず発生する病気です。
私が高齢者専門病院に勤めていた際、毎年、亡くなった高齢者の方の解剖結果を年に100くらいみてきました。
そこで驚いたのが、85歳を過ぎると人間誰しも体のどこかにがんがあるということです。
がんは細胞の老化によって起こるとも言える病気なので、年を取れば、体のどこかが必ずがん化しています。
60代を過ぎてがんが見つかるのは、人間の体のしくみを考えれば、ごくごく自然なことなのです。
◆がんが見つかっても「治療しない」選択肢もある
だから、がんが発覚したときは、思い切って「治療しない」という選択肢を取ってもいいのではないかと私自身は思っています。
医師の間では、「シニア世代にとっては、がんは最も幸せな病気」と言われることもあります。
若い人ががんにかかるとまだ細胞が若いので進行が速いのですが、シニア世代の場合、症状はゆっくり進むことが多いものです。
そのため、治療をせずに放置していても、亡くなる直前まではさほど体力も落ちず、痛みも感じません。がんがつらい病気だと思われるのは、抗がん剤治療や手術が大変だからこそです。がんを患った場合は、突然、亡くなるわけではないので、死ぬまでの間、自分の人生でやり残したことや気になっていることを整理する時間もあります。
それゆえ、患者さんの中には「つらい治療はせず、残りの日々を最大限、楽しく生きていきたい」という選択をされる方も少なくありません。
以前、70代のとある患者さんは、ご自身の体に重度のがんが見つかった際、「高齢だから自分は治療をしないと決めていた」とおっしゃいました。
発覚後、2年後に亡くなりましたが、最後いよいよ調子が悪くなって入院するまでの間は、家の中でいつもどおりに暮らし、好きなことをして暮らしたそうです。
人によっては「治療すれば良かったのに」と考えるかもしれませんが、仮にこの方が手術をしていたら、その後体力が戻らず、病院の中で亡くなっていた可能性も十分にあります。
人間、いつかは死に至るもの。
60代以降になったらがんにおびえて暮らすよりは、「いざがんになったらどうするか」を考えて、心の準備をしておくほうが、過剰なストレスを抱かずに済むのではないでしょうか。
和田秀樹 構成/日刊SPA!編集部
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