感染力は強いが重症化しやすい傾向はないと米や英で報告されている
新型コロナの患者数が増えています。都内にある病院では感染力が強いとされる新たな変異株、通称「エリス」の割合が増えて一般の医療にも影響が出ています。
新型コロナウイルスの感染者数がいわゆる“第9波”を迎えています。先月28日から今月3日までの1週間に報告された感染者数は全国で10万1289人。医療機関1カ所あたりの平均は20.50人で、5月8日に「5類」に引き下げられて以降、最も多くなっています。
昭和大学病院 相良博典院長:「感染拡大していく強さというのは今、流行しているEG.5は強いんじゃないかなと思っています」
現在、感染が広まっているのは世界保健機関が先月、注目すべき変異株に指定したオミクロン株の新たな系統「EG.5」、通称「エリス」とみられています。
東京・品川区にある昭和大学病院です。コロナ患者が増えるなか、解析の結果、約6割がEG.5だということです。現在、コロナ病床12床に対して5類移行後、最多となる44人が入院しています。
昭和大学病院 相良博典院長:「(入院患者の)7割ぐらいが高齢者かなと思います。通常の医療業務に関してもかなり影響が出てきている。恐らく、かなり市中感染は増えているだろうと思います。まだまだ、もうちょっと増えていくだろうと思います」
感染力がやや強いとされるEG.5。その特徴については…。
昭和大学病院 相良博典院長:「ほとんどが中等症から軽症。重症はそれほど多くない。今、流行しているEG.5に関しては、従来、我々が接種してきたワクチンは効きにくいと思いますので今度、認められた新たなワクチン、それを早めに接種する必要性があろうかと思います」
相良院長は高齢者など重症化リスクの高い人に感染を広げないよう、場面に応じた感染対策を取るよう呼び掛けています。
【エリス】新型コロナ「EG.5株」「EG.5.1株」の特徴について解説【症状・重症化・オミクロン】
2019年から私たちの生活を脅かし続けてきた新型コロナ感染症。これまでさまざまに変異し、季節を問わず何回も「感染の波」を作ってきましたね。
そして最近、XBB株についで非常に短いスパンで新しい変異株である「EG.5株」が台頭してきています。どんな変異株なのでしょう。今回、EG.5株の特徴を感染力や症状・重症化などを中心に現時点でわかっていることを解説していきます。
EG.5株に関する解説動画も最後にありますので、あわせてご参照ください。
目次
EG.5株・EG.5.1株とは?
EG.5株・EG.5.1株とはオミクロン株の派生株「XBB株」からさらに枝分かれした株の1つです。EG.5株は2023年2月17日に初めてインドネシアで報告され、2023年7月19日にVariant under monitoring (VUM)に指定され、8月9日に瞬く間に注目バリアント(VOI)に指定されました。
新型コロナオミクロン株の系統樹が上図になります。BA.1が従来のオミクロン株で、BA.2株がステルスオミクロン株。去年5月流行ったものです。BA2.75 株が「ケンタウルス」といわれていたものですね。
その中で、BJ.1株とBM1.1.1株が組み合わさったのが「XBB株」。その後非常にバリエーションにとんださまざまな「XBB株」が生み出されます。その中の「XBB.1.9.1株」から派生した株が「EG.5株」「EG.5.1株」です。
全体を見てもらうとわかる通り、XBB系統はバリエーションに富んだ変異をしながら、ここ最近まとまりつつあるような変異の仕方をしているのがわかりますね。
遺伝子配列に関しては、難しいので簡略化しますが、EG.5は、親株のXBB.1.9.2と比較して、スパイクタンパク質にF456Lのアミノ酸変異が追加されています。そして、亜種およびXBB.1.5と比較して、スパイクタンパク質にF456Lのアミノ酸変異があり、EG.5系統の中で、EG.5.1亜種はさらにスパイク変異Q52Hを持っています。
ここ最近、記号で呼ぶのも大変なので、名称が使われています。EG.5株はギリシア神話の不和と争いの女神にちなんで「エリス」とSNS上で呼称されたりもしますね。
(参照:SARS-CoV-2 genome sequence prevalence and growth rate update: 16 August 2023)
(参照:WHO「EG.5 Initial Risk Evaluation, 9 August 2023」)
日本でも主流株となった「EG.5株」「EG5.1株」
EG.5株は他のウイルスに比べて後述するように、これまでのウイルス以上に成長優位性が高いのが特徴の1つ。8月7日時点で中国(30.7%)をはじめ、アメリカ、韓国、日本、カナダ、オーストラリアを中心に広がっており、WHOでも8月7日時点で「世界的に患者発生率が上昇し、優勢になる可能性がある」と発表しています。
そして、日本では東京都の資料によるとすでにEG.5株が7月最終週時点での主流株になっています。8月31日には主流株であったXBB.1.16株が22%と低下し、EG.5株が31%に上昇しています。ここまで短いスパンで主流株が入れ替わることはありませんでしたね。
ただし、もともとXBB系統の一亜型ですので、基本的なEG.5株の性質はXBB株と似通ったものになると思われます。XBB株についてはオミクロン「XBB株」「XBB1.16株」の症状や重症度などについて解説をご参照ください。
(参照:東京都保険医療局「最新のモニタリング項目の分析について」)
EG.5株・EG.5.1株の症状は?
現在、アメリカではEG.5株が8月19日時点で20.6%のシェアを広げ、もっとも流通している変異株となりましたが、アメリカCDCで発表されている症状は変わりがありません。つまり、EG.5株が主流株になっても症状として大きな変化はないと考えられます。
現時点でアメリカCDCであげられている、新型コロナの代表的な症状としては以下の通りです。
- 発熱または悪寒
- 咳
- 息切れまたは呼吸困難
- 倦怠感
- 筋肉痛や体の痛み
- 頭痛
- 味覚嗅覚の喪失
- 喉の痛み
- 鼻づまりや鼻水
- 吐き気または嘔吐
- 下痢
日本でもEG.5が台頭してきていますので、ここ2023年8月時点での外来で診ている印象を述べますと、大体以下の5つのパターンが多いように思います。
- 発熱が39度出て、頭痛や関節痛、筋肉痛など、まるでインフルエンザのような症状がくるケース
- 38~39度くらいの発熱とともに喉の痛み、鼻水、咳などのいずれかの症状がかなり強くでて来院されるケース。稀に「ハアハア」しながら息も絶え絶えで診察室に入ってくることもあります。
- 発熱もなく、症状としてはすこし軽いのどの痛みや痰のからみがあるかなというくらいのケース(頭痛と突然の倦怠感だけというケースもありましたね)
- 胃の痛みや下痢などの消化器症状がでてきて、後にのどの痛みや咳・鼻水などの症状が出てくるなど、消化器症状がからむケース
- のどだけやたら痛くてなんとかしてほしい、というケース(しばしば発熱を伴う)
判断に難しいのは「症状に乏しい場合」です。5類になった後、確定診断を本人の強い希望で行わず、後遺症や重症化につながった苦い経験もしました。そのため、特に流行期の場合や重症化リスクの高い場合は、新型コロナのことも考慮に十分入れながら慎重に対処するようにしていますね。
当院では「全例にPCR検査を行う」ということなどはしておりませんが、症状や診察上リスクが高いと判断された場合は検査をして「きちんと診断する」ことを大切にしています。
なので、症状や辛い人や重症化リスクが高い方が周りにいる人は、自己判断せず医療機関に受診して、原因を確定させることが大切です。(これはどんな病気でも同じです)
また、症状になんらかの特徴があると判断した場合は適宜アップデートいたします。
(参照:CDC「Symptoms of COVID-19」)
EG.5株・EG.5.1株は重症化しやすい?
では、EG.5株は重症化しやすいウイルスなのでしょうか?結論からいうと、少なくとも現時点では「重症化しやすい傾向はない」ように見えます。
アメリカでのEG.5株の割合の推移と1週間あたりのコロナの入院数、救急外来での新型コロナ診断率の推移を見たものです。アメリカでは、7月から徐々にEG.5株が増えて、8月では20%強になり最も多い変異株となりました。
それに伴い、救急外来で診断される確率も上昇してきましたが、それに比して入院患者数の上昇率は緩やかです。
もちろん、社会的な背景もあるので一概には言えませんが、少なくとも極端に重症化率があがったことを示唆するものではないでしょう。
WHOの報告書でも「EG.5 は有病率の増加、成長優位性、免疫逃避性を示しているが、重症度の変化は報告されていない。」としていますね。
しかし、まだEG.5株の感染の波は始まったばかりです。重症度に変化がみられるようなら、適宜アップデートしていきます。
(参照:WHO「EG.5 Initial Risk Evaluation, 9 August 2023」)
(参照:Trends in United States COVID-19 Hospitalizations, Deaths, Emergency Department (ED) Visits, and Test Positivity by Geographic Area)
(参照:CDC「Monitoring Variant Proportions」)
EG.5株・EG.5.1株の特徴や日本の現状は?
オミクロン変異株である「EG.5株」の一番の特徴は、WHOの報告書でも見られている「成長優位性」と「免疫回避能」にあります。
イギリスからの報告によると、EG.5.1株の週間成長率は46%となっており、他の変異株よりも感染力が高いことが示唆されています。
また、日本の査読前研究によると、相対的な実効再生産数は、これまで主流株であったXBB.1.5株よりも約1.2倍ほど大きいといわれています。
しかし同研究によると、感染力価はXBB.1.5株よりも若干低下しており、免疫回避能もXBB変異株と同等といわれています。ですので、EG.5.1株が有意株になりつつある背景として別の因子があるのではないかと考えられていますね。
後遺症のことなど含め、さらに詳細な情報がわかり次第、適宜アップデートしていきます。
(参照:Antiviral efficacy of the SARS-CoV-2 XBB breakthrough infection sera against Omicron subvariants including EG.5)
(参照:SARS-CoV-2 genome sequence prevalence and growth rate update: 16 August 2023)
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
引用→https://soujinkai.or.jp/himawariNaiHifu/eg5-covid19/
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