新たな物理法則が「我々はシミュレーションの中に生きている」という仮説を裏付けていると研究者

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この世界はシミュレーション 宇宙

新たな物理法則が「我々はシミュレーションの中に生きている」という仮説を裏付けていると研究者

この世界は現実ではなく仮想世界である

人類が生活しているこの世界はコンピューターの中に作られたシミュレーションであるとする仮説がある

 この「シミュレーション仮説」を立証するために様々な研究が行われているが、少なくともイギリス、ポーツマス大学の物理学者は、彼が発見した新しい物理法則がこの仮説の正しさを裏付けていると主張している。

 彼によれば、情報はエネルギーや質量と等価であり、この宇宙を構成する基本的な構成単位なのだという。

 最新の論文では、こうした仮説を物理学や宇宙論の中で検証し、その正しさが裏付けられたとしている。
 

シミュレーション仮説とは?

 シミュレーション仮説とは、我々が現実ではなく、コンピューターシミュレーションの中に生きているとする考え方のことだ。

 つまり我々が経験するすべてが、何らかの高度なコンピューター上で作られたモデルであるというもので、コーヒーの香りや風の音など、私たちが感じることは、実際の現実世界ではなく、シミュレーション内でのものである可能性があるということ。

 もともとは哲学的な考えだったが、最近では科学的な研究を通じてシミュレーション仮説の検証が行われている。

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情報力学の第二法則でシミュレーション仮説を検証

 常人にはなかなか理解が及ばないシミュレーション仮説だが、英ポーツマス大学の物理学者メルビン・ヴォプソン博士の基本的な主張は、形がないと思われている情報が、じつは宇宙の基本的な構成要素で、物理的な質量を持っているというものだ。

 彼は2022年には、「情報力学の第二法則」という新しい物理法則を発見したとも主張し、ウィルスも含む生物の遺伝子変異やその結果を予測できる可能性を示している。

 その新法則は「熱力学の第二法則」に基づくものだ。熱力学の第二法則によるなら、エントロピー(この世界の無秩序さのレベル)はどんどんと大きくなり、それが小さくなることはない。

 ところが情報系の場合、そのエントロピーは一定であるか、減少することさえあると、ヴォプソン博士は主張する。これが情報力学の第二法則である。
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生物学・原子物理学・宇宙論の常識をくつがえす理論

 『AIP Advances』(2023年10月6日付)に掲載された新しい論文で、ヴォプソン博士は、情報力学の第二法則を生物学・原子物理学・宇宙論といった分野に当てはめ、それがシミュレーション仮説にとってどのような意味合いがあるのか検証している。

 それぞれの分野における主な発見は次の通りだ。
生物学
遺伝子の突然変異は情報エントロピーが作り出すパターンにしたがっている。この事実は、これまでの遺伝子突然変異の理解をくつがえすものだ。この発見は、遺伝子学・進化生物学・遺伝子治療・薬理学・ウイルス学・感染症流行のモニタリングといった分野に大きな影響を与える可能性がある。

原子物理学
情報力学の第二法則は、複数の電子をもつ原子における電子の振る舞いを説明でき、たとえばフントの法則(電子の配置について述べた物理学のルール)などへの示唆に富んでいる。電子は情報エントロピーが最小になるように並ぶという発見は、原子物理学や化学物質の安定性を理解するヒントになる。

宇宙論
断熱膨張する宇宙を熱力学的に考察することで、情報力学の第二法則が宇宙論的に欠かせないものであることが示された。これは第二法則の正しさを裏付けている。
 さらに今回の論文は、宇宙に対称性(同じような形やパターンが繰り返される性質のこと)が存在する理由を説明することもできると、ヴォプソン博士は主張する。
対称性は自然の法則において重要な役割を果たしていますが、そうなる理由についてほとんど説明されていません。

私の発見は、高い対称性が情報エントロピーが最低の状態に対応することを示しており、自然に対称性がある理由を説明できるかもしれません
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対称性のいくつかの例 / image credit:Vopson, AIP Advances, 2023

シミュレーション仮説の正しさを示唆

 こうした発見は、シミュレーション仮説の正しさを裏付けている可能性があるという。このことについて、ヴォプソン博士は次のように説明している。

余計な情報が削除されるこのアプローチは、コンピューターが無駄なコードを削除したり、圧縮したりして、ストレージの節約や消費電力の最適化をはかるのにも似ています。

その結果として、私たちはシミュレーションの中で生きているという仮説を支持しているのです(メルビン・ヴォプソン博士)

 ヴォプソン博士のこれまでの研究は、情報が宇宙の基本的な構成要素であり、物理的な質量を持っていることを伝えている。

 それどころか情報は宇宙の3分の1を占めるとされる謎めいたダークマターの正体であるとさえ、彼は主張している(これを質量・エネルギー・情報の等価原理と呼んでいる)。

 そして今回の論文では、情報力学の第二法則は、情報が質量やエネルギーと等価の物理的実体であるという考えの正しさを裏付けていると論じている。

 こうした理論を完成させるために、今度はそれを実験によって実証する必要があるとのこと。

 その方法として、粒子と反粒子の衝突を利用することで、物質の第5の状態を確かめるというアイデアも提唱されている。

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