北京で蔓延している肺炎の抗生物質への耐性率は 70%〜 90%…
それは、ほぼ抗生物質が効かない肺炎
中国で唐突に「子どもたちを中心とした謎の肺炎」が広がっています。
最初は、北京と遼寧省という省で始まりました。その後、あっという間に上海にまで拡大したことが報じられています。
(記事)中国の「謎の感染症」が上海にまで拡大。1日で40万人の感染者が出たという話も
2023年11月24日
さらに、今日の中国語の報道を見ますと、中国南部などにも広がってきているようで、各地で学校が閉鎖されているようです。
冒頭のような「街頭や学校の消毒」が中国で始まっている光景を見ますと、2019年の再来のような雰囲気もないではないですが、武漢のコロナと異なるのは、
「実際に子どもたちが、多数発症している」
と思われることです(しかも肺炎率がとても高い)。
病院の満床状態、あるいは、相次ぐ学校閉鎖がさまざまな媒体で報じられています。
それにしても、今回の正体不明の感染症の出現の仕方は何となく奇妙であり、こちらの報道では、家族がほとんど発熱して入院しているという広東省の人の以下の言葉が書かれています。
「ウイルスの発生源は非常に奇妙だと感じています。いくつかの場所で突然発生し、その後急速に(中国)全土に広がりました」
あまり関係ないかもしれないですが(あるいは、関係あるかもしれないですが)、ヨーロッパでも「謎の肺炎」や「謎の風邪」が蔓延していることが報じられています。以下などに翻訳があります。
(記事)オランダで、5歳から14歳までの「肺炎」患者の数が過去最大に
BDW 2023年11月28日
(記事)英国で「数週間続く謎の風邪」が大流行中
BDW 2023年11月27日
各国において何が主に拡大しているのかは相変わらず不明です。
11月27日の科学誌サイエンスが、ニュース解説として、中国の肺炎のことを取り上げていましたが、研究によると、北京で流行している肺炎の、
「 70 〜 90%が抗生物質への耐性菌」
によるものなのだそうです。
もともと中国の医療における抗生物質の濫用はかなりのもので、新しい耐性菌への懸念はむかしからありました。
以下は、畜産動物への抗生物質使用量の比較ですが、中国はダントツです。
畜産動物への抗生物質の消費量の比較(2010年)
indeep.jp
ともかく、感染力も症状も強い「耐性菌」というのは、どうにも困った話ですが、特に今は「子どもを中心とした感染となっている」ことも、やや困ったことだとも思います。
ネイチャーのニュース解説をご紹介します。
太字はこちらでしています。
中国における謎の小児肺炎の波の背後にあるものは何だろうか?
What’s behind China’s mysterious wave of childhood pneumonia?
nature.com 2023/11/27
科学者たちは呼吸器疾患の急増自体は予想していたが、現在の中国で起きていることは異常だ。
中国は現在、小児における肺炎を含む呼吸器疾患の急増に取り組んでいる。
世界保健機関(WHO)は先週、入院患者急増の原因は新たな病原体ではなく、一般的な冬の感染症であると発表した。
もともと、この冬、中国で感染者の急増は予想されており、2020年にパンデミックが始まって以来、中国で新型コロナウイルス感染症の規制(ゼロコロナ政策)がなかった初めての冬となる。
疫学者たちによると、異常なのは中国での肺炎の有病率の高さだという。他国で新型コロナウイルス感染症の規制が緩和された際には、インフルエンザと RSウイルスによる病気が急増したが、肺炎の急増は見られなかった。
WHO は先週、中国保健当局に対し、検査結果や呼吸器疾患の蔓延の最近の傾向に関するデータなどの情報を要請した。これは、「原因未確定の肺炎」のクラスターに関するメディアおよび新興疾患監視プログラム(国際感染症学会が運営する公的システム)からの報道を受けてのことだった。
11月23日の声明で、WHO は中国保健当局が 10月以降の入院者数の増加は、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルスなどの既知の病原体が原因であると述べ、これらは軽度の風邪のような症状のみを引き起こすと述べた。
しかし、5月以降、特に北京など北部都市で入院する子どもの数の増加は、主に肺に感染する細菌であるマイコプラズマ・ニューモニエによるものだ。これは、「歩く肺炎 (walking pneumonia)」の一般的な原因であり、通常は比較的軽度で、床上安静や入院を必要としない病気の一種だが、本来軽微な症状であるこの肺炎が、今年は子どもたちに大きな打撃を与えている。
マスク着用や渡航制限などのパンデミック対策が緩和された最初の冬に一般的な呼吸器疾患が再発するのは、他の国ではよく見られるパターンだ。2022年11月、米国でインフルエンザで入院した人の数は、2010年以来その時期としては最高となった。
新型コロナウイルス感染症の蔓延を遅らせるために実施された全国的なロックダウンやその他の措置により、季節性病原体の循環が妨げられ、人々がこれらの微生物に対する免疫を獲得する機会が減った。
これは「免疫負債」として知られる現象だ、と大学の計算生物学者フランソワ・バルー氏は述べた。カレッジ・ロンドンは英国サイエンス・メディア・センターに宛てた声明でバルー氏はこう述べた。「中国は地球上の他のどの国よりもはるかに長く厳しいロックダウンを経験したため、こうした『ロックダウンからの脱出』の波が中国でもかなりのものになる可能性があると予想されていた
しかし、現在の中国の病気の波は他の国で見られるものとは異なる。
一部の国では、新型コロナウイルス感染症後の冬の急増中にインフルエンザや RSウイルス感染症に対処していたが、中国では肺炎球菌感染症が一般的だ。細菌感染は多くの場合、日和見的であり、現状は驚くべきことだとカウリング氏は言う。
この細菌によって引き起こされる肺炎は通常、マクロライドとして知られる抗生物質で治療されるが、これらの薬に過度に依存することで病原体の耐性が生じている。
研究によると、北京における肺炎球菌のマクロライド系抗生物質への耐性率は 70% ~ 90% であることが示されている(論文)。
この耐性は、治療を妨げ、細菌性肺炎感染からの回復を遅らせる可能性があるため、今年の肺炎マイコプラズマによる大量の入院の一因となっている可能性があるとカウリング氏は述べている。
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