ワクチン接種後の自己免疫力低下が感染を増やしているが、これまでよりも薬剤抵抗性が強い可能性があり要注意!
中国などで流行する呼吸器感染症「マイコプラズマ肺炎」への警戒が高まっている。比較的軽症で済む人が多く〝歩く肺炎〟とも呼ばれるが、しつこい咳(せき)が特徴で、重症化することも。中国では薬が効きにくい「薬剤耐性」の問題が指摘されており、国内でも抗生剤不足が影を落とす。人の往来が活発化する年末年始を控え、医療現場からは不安の声が挙がっている。
コロナ禍で抵抗力減
マイコプラズマ肺炎は主に飛沫(ひまつ)や接触で広がるとされ、発熱、咳、倦怠(けんたい)感など風邪に似た症状を引き起こす。国内では患者の約8割が14歳以下とされるが、大人の感染報告もある。近年は全国的流行は起きていない。
こうした中、中国では今冬、北部を中心にインフルエンザやマイコプラズマ肺炎などが複合的に流行し、小児科に患者が殺到。韓国などでもマイコプラズマ肺炎の感染拡大が伝えられる。
帝京大大学院教授で小児科医の高橋謙造氏は、新型コロナウイルス禍の感染防止対策により季節性の病原体から遠ざかってきたことで、多くの人は抵抗力が下がった状態にあると指摘。こうした〝免疫負債〟を抱えた国内に病原菌が持ち込まれれば「感染拡大につながる恐れがある」と話す。
発熱治まっても咳
高橋氏によると、マイコプラズマ肺炎は感染しても比較的軽い症状で済み、その人が持つ免疫力で自然治癒することも多い。そのため、感染に気づかず出歩き、周囲にうつしてしまう恐れがある。患者による菌の排出期間は1カ月~1カ月半ほどと長いという。
やっかいなのは、この病原菌が気道の粘膜上皮を痛める性質を持つことだといい、発熱などの症状が治まっても咳が続く患者が目立つ。人によっては激しい咳に変わり、ぜんそくのような「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」といった異常な呼吸音を伴うまでに悪化してしまうこともある。肺機能の低下に見舞われた患者の報告もあるという。
手洗い、うがい、マスクを
ワクチンはなく、治療にはマクロライド系抗生剤などが使われるが、気になる情報もある。
国立感染症研究所によると、中国はマクロライド系抗生剤への耐性率が高いことで知られる。今年報告されているマイコプラズマ肺炎の原因となる細菌も遺伝子変異により、一定の「薬剤耐性」を持つ可能性が指摘されているという。
中国では以前から抗生剤の過剰使用が懸念されており、マイコプラズマ肺炎で入院が必要な子供が増えている背景には、抗生剤が効きにくいという深刻な問題が潜んでいる恐れもある。
一方、日本では、医薬品の供給不足が深刻だ。「マクロライド系抗生剤は入手が難しい状況。今まさに患者が増えている溶連菌感染症に用いるペニシリン系の抗生剤なども手に入りにくい」と高橋氏。別の種類の薬を処方して様子をみるしかないが、完全には治りにくく、症状がぶり返すケースもあるなど、対応に苦慮する。
高橋氏は「今のままでは、マイコプラズマ肺炎の患者が治療を希望しても、『適切な薬を出せない』といったことが起こりかねない。手洗いや咳症状がある人はマスクをするなど、基本的な感染対策を心がけてほしい」と呼びかけている。(三宅陽子)
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