「世界のコメ不足は過去20年で最大になる」と信用格付機関フィッチが発表。
日本はこの先、数年は大丈夫と思われるが、農家の高齢化と高コストで廃業が相次ぐ数年後にはコメ不足となり、輸入米も高価格となれば大規模な食糧不足に陥る恐れがある。
日本の近年最大のコメ不足時と同様の強力エルニーニョが迫る中で
国際コメ市場はきわめて逼迫している
日本では、「コメが不足することだけはない」というような考えがありますが、現在世界で起きている状況と、今後の気候の推移によっては、それが「幻想に過ぎない」状況となる可能性もゼロではないかもしれません。
アメリカの信用格付大手であるフィッチ・レーティングスの子会社にフィッチ・ソリューションズというものがあります。フィッチのページによれば、データ、リサーチ及び分析の組織だそうです。
このフィッチ・ソリューションズが、
「2023年のコメ生産量は、過去 20年間で最大の不足を記録する」
という予測を発表しました。
コメだけではないですが、昨年以来、穀物に非常に不安定な状況が続いていまして、たとえば、日本の場合は、自国のコメを消費することが多いですが、国際的には、コメは主要な輸出入品でもあります。
その輸出国で最大「だった」のがインドで、昨年までは、「世界のコメ輸出の 40%」を担っていたコメ輸出大国でした。
ところが、昨年 9月に、天候不順による不作により「コメ輸出に高い関税をかけ、砕米の輸出を完全に禁止した」のです。以下にあります。
・世界のコメ輸出の40%を担う最大の生産国であるインドが、コメ輸出に20%の関税を課すと発表。砕米の輸出は完全に禁止
地球の記録 2022年9月10日
関税が高くなるということは、国際的なコメ価格が引き上げられることにつながるものです。
このインドの措置は現在も続いていますが、今後解除されるかどうかというと、現在のインドの「コメ価格」を見ますと、おそらくしばらくは解除されないと思われます。
コメ価格がいまだに史上最高価格を更新し続けているのです。
インド国内のコメ価格の推移 (史上最高値を更新中)
gro-intelligence.com
インド国内のコメ価格の高騰を抑えるための輸出の制限でしたので、国内の価格が上昇し続けている間は、輸出の制限は解除されないと見られます。
今年のインドは、早い段階で異常気象 (猛暑から一転して寒波に見舞われるというような)を受けています。
インドは小麦に関しても世界第 3位の生産大国ですが、この天候不順を受けて、3月に「小麦の輸入を開始する可能性」が報じられていました。
以下に翻訳しています。
・世界第3位の小麦生産国であるインドが、不作のため、小麦の「輸入」を開始する可能性が高まる (2023/03/07)
また、中国の「穀物の輸入」がさらに増加し続けていて、農業と食糧流通の分析企業であるグロ・インテリジェンスは、「中国の穀物輸入量が過去最高を記録した」とレポートしています。
以下の記事で翻訳等を載せています。
・中国の穀物「輸入」量が過去最高を記録。猛烈な勢いで世界中から食糧を買い続けている
地球の記録 2023年4月22日
中国は昨年、各地で天候不順(大雨被害の場所もあれば、猛暑の場所もあるというような)でしたが、これも仮に今年もそれが起きれば、「コメ」に関しても買いまくることがあるかもしれません。
東アジアの主食はどこまでいってもコメですので、それが不足するのは、最大の安全保障の問題となるはずです。
また、昨年のウクライナ戦争と対ロシア制裁により、「肥料価格が異常な高騰」を見せました。そのため、南米などでは採算がとれない生産者たちが、「コメ生産から撤退する」事例が相次ぎました。
・肥料価格の異常な高騰により、ペルーのコメ生産者たちが「不採算により農業から撤退」する中で米作崩壊の懸念(そして世界全体で起きる可能性)
地球の記録 2022年4月7日
今年の肥料価格がこれからどうなるかはわかりませんが、世界最大の肥料原料の生産国にロシアと中国がある以上、肥料価格に関して、あまり希望的な観測は出てこないような気もします。
このよう中で、フィッチから発表されたコメ不足の予測は、衝撃的ともいえます。
そして、今年の夏にかけて、「エルニーニョ」が始まる可能性が高まっていて、NOAA (アメリカ海洋大気庁)は、7月までに発生する確率は、62%としています。
1993年に、日本で近年最大の稲作の不作によるコメ不足が起きましたが、その 1993年の夏にエルニーニョが始まったことが示されています。
まずは、フィッチの報告についての報道をご紹介します。
世界のコメ不足は過去20年で最大になる
Global rice shortage is set to be the biggest in 20 years
CNBC 2023/04/19
中国から米国、欧州連合に至るまで、コメの生産量は減少しており、世界のコメの 90%を消費するアジア太平洋地域を中心に、世界中の 35億人以上の人々に対してのコメ価格が上昇している。
フィッチ・ソリューションズによると、世界のコメ市場は 2023年に、過去 20年で最大の不足を記録する予測だという。
世界で最も栽培されている穀物の 1つであるコメのこの規模の不足は、主要な輸入業者に打撃を与えるだろうとアナリストは CNBC に語った。
フィッチ・ソリューションズのコモディティアナリストであるチャールズ・ハート氏は「世界的なコメ不足の最も明白な影響は、コメ価格であり、それは 10年ぶりの高値となっており、現在も続いています」と述べた。
フィッチ・ソリューションズの 4月4日付のレポートによると、コメ価格は 2024年まで現在の高値付近にとどまると予想されている。
報告書によると、コメの価格は 2023年までの年初来で平均 1Cwt (※ Cwt はコメなどの特定の商品の測定単位)あたり 17.30ドルであり、2024年には 1Cwt あたり 14.50ドルまでしか下がらないだろう。
「コメがアジアの複数の市場で主食であることを考えると、特に最貧世帯にとって、コメ価格は食料価格のインフレと食糧安全保障の主要な決定要因になります」とハート氏は述べた。
2022/2023 年の世界的なコメ不足は 870万トンになると、レポートは予測している。
これは、世界のコメ市場が 1,860万トンの不足を出した 2003/2004年以来、最大の世界のコメ不足となるだろう、とハート氏は述べた。
コメ生産国の状況
ウクライナで進行中の戦争や、中国やパキスタンなどのコメ生産国の悪天候の結果、コメの供給が不足している。
昨年後半、世界最大のコメ生産国である中国の農地は、夏のモンスーンによる豪雨と洪水に見舞われた。
農業分析会社グロ・インテリジェンスによると、中国のコメ生産の主要拠点である広西チワン族自治区と広東省の累積降雨量は、少なくとも 20年間で 2番目に多かった。
同様に、世界のコメ貿易の 7.6%を占めるパキスタンは、昨年の深刻な洪水により、年間生産量が前年比で 31% 減少したと米国農務省は述べ、その影響は「当初よりもさらに悪化した」と述べている。
コメ不足の原因の一部は、「猛暑と干ばつ、およびパキスタンでの深刻な洪水の影響、そして、中国本土の収穫量が毎年悪化している」ためであると、ハート氏は指摘した。
コメは脆弱な作物であり、科学的研究によると、エルニーニョの際に失われる可能性が最も高い作物がコメだという。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、他の主要な穀物の価格が急騰したことを受けて、供給の逼迫の問題に加えて、コメはますます魅力的な代替品になっているとハート氏は付け加えた。
どこが最も影響を受けるのか
米国や EU などの他の国でのコメ生産量が前年比で減少したことも、不足の一因となっていると、世界的な食品・農業銀行ラボバンクのシニア・アナリストであるオスカー・チャクラ氏は述べている。
「世界的なコメ生産不足の状況は、2023年にインドネシア、フィリピン、マレーシア、アフリカ諸国などの主要なコメ輸入国にとってコメの輸入コストを増加させるでしょう」とチャクラ氏は述べた。
グロ・インテリジェンスのシニア・リサーチ・アナリストであるケリー・ガーガリー氏は、多くの国が国内備蓄の削減を余儀なくされるだろうと述べた。
ガーガリー氏は、不足の影響を最も受けている国は、パキスタン、トルコ、シリア、およびアフリカの一部の国など、すでに高い国内食料価格のインフレに苦しんでいる国であると述べた。
フィッチ・ソリューションズのハート氏は、「世界のコメ輸出市場は、他の主要穀物よりも逼迫していますが、これはインドの輸出規制の影響を受けてのものです」と述べた。
インドは、昨年 9月に砕米の輸出を禁止した。これがコメの「主要な価格要因」であるとハート氏は述べている。
地平線の余剰
しかし、不足はすぐに過去のものになる可能性もある。
フィッチ・ソリューションズは、世界のコメ市場は「2023/24 年にはほぼバランスのとれた位置」に戻ると見積もっている。
これにより、コメの先物価格は前年比で 2022年の水準を下回る可能性があるが、「それでも、コロナウイルスの発生前(2015年から2019年)の平均値を 3分の1以上上回ったままです」と述べる。
「コメ市場は 2024/25年に余剰に戻り、その後中期的に緩み続けると信じています」
フィッチはさらに、2024年にはコメの価格が 10% 近く下落しする可能性があると予測している。
「世界のコメ生産量は 2023/24年に堅実な回復を見せ、総生産量は前年比で 2.5%増加すると予想している」とフィッチのレポートは予測し、次の 5年間、インドが世界のコメ生産量の「主要エンジン」であることを示唆している。
とはいえ、米作りは天候に左右される。
インドの気象局は、同国が「通常の」モンスーン降雨を期待している一方で、2023年の第 2四半期と第 3四半期までの猛暑と熱波の予測は、引き続きインドの小麦収穫に脅威を与えている、と報告書は警告している。
他の国も例外ではない。
「中国は世界最大のコメと小麦の生産国ですが、現在、中国のコメ生産地域では 20年以上で最高レベルの干ばつに見舞われています」とグロ・インテリジェンスのガーガリー氏は述べている。
フランス、ドイツ、英国などの主要なヨーロッパの稲作国も、過去 20年で最高レベルの干ばつに苦しんでいると彼女は付け加えた。
ここまでです。
このフィッチのレポートは、2024年から世界の稲作状況が改善するとしていますが、「エルニーニョの農作に対する重大性をあまり折り込んでいない」ように感じられます。
先ほどふれました、エル・ニーニョ下の夏に起きた、1993年の日本のコメ不足は、以下のようなものでした。
「1993年米騒動」より
1993年は、梅雨前線が長期間日本に停滞し、いったんは例年通りに梅雨明け宣言が発表されたものの、気象庁は 8月下旬に沖縄県以外の梅雨明け宣言を取り消しするという事態となった。
日照不足と長雨による影響で米の作柄が心配されるようになった。結果として、この年の日本全国の作況指数は「著しい不良」の水準となる 90を大きく下回る 74となった。
作況指数は北海道が 40、東北地方全体が 56、やませの影響が大きかった太平洋側の青森県が 28、岩手県が 30、宮城県が 37、福島県が 61、九州地方も宮崎県以外は 70台まで下落した。
第二次世界大戦後では格段に低い数字となり、下北半島では「収穫が皆無」を示す作況指数 0の地域も続出した。
1993年のコメ需要量は 1,000万トンあったが、収穫量が 783万トンになる事態となり、政府備蓄米の 23万トンをすべて放出しても、需要と供給の差で 200万トン以上不足し、東北の米農家が自家用の米を購入するほどであった。北東北では翌年の種籾の確保が出来なくなる地域もあった。
もちろん、エルニーニョになったからといって、同じような天候パターンになるということは決してないわけですが、しかし、どのような気象パターンになるにしても、強力なエルニーニョだった場合、
「世界的に気象パターンが崩れる」
ことは言えると思われます。
フィッチのレポートでは、2024年にはコメ市場は回復に向かうという予測を立てていますが、仮に 2024年もエルニーニョが継続していたような場合、この予測は崩壊すると思われます。
以前、米ニューサイエンティストの「モンスター・エルニーニョが不気味に迫る中、世界は準備をする段階に突入した」というタイトルの記事をご紹介したことがあります。先ほどの 2014年から 2016年のエルニーニョの頃の記事です。
以下の、2015年10月の記事の後半にあります。
・海の巨大な変化とミニ氷河期の関係(2):「温暖化が招く寒冷期」からの気温の回復に40年から100年かかるという気候モデルが提示される地球の海で成長する「モンスター・エルニーニョ」
In Deep 2015年10月16日
その冒頭は以下のようなものでした。
モンスター・エルニーニョが不気味に迫る中、世界は準備をする段階に突入した
New Scientist 2015/10/07
今、世界は 1998年以来で最も強い可能性のある大規模エルニーニョ現象のために準備している。1998年のエルニーニョでは、世界で推定2万人の死者を出し、100億ドル( 1兆3400億円)の損害を引き起こした。
そして、今回のエルニーニョでの経済的・人的損失はすでに始まっている。
太平洋を西に渡る風が弱まる時にエルニーニョは出現し、暖かい海水が南米に向かって広がり、降雨をもたらす。その結果、アジアとオーストラリアに乾燥をもたらし、南北アメリカの多くには雨をもたらす。
エル・ニーニョは不規則なもので、2〜 7年の間隔で成長し、9ヵ月から 2年間持続する。
アフリカでは、激しい洪水により食糧不足が悪化することが予想されるとして、サハラ以南のアフリカに対して、赤十字国際連盟は緊急アピールを発表した。
エルニーニョの詳細な分析データを発表し続けているシビア・ウェザー・ヨーロッパが引用している NOAA (アメリカ海洋大気庁)の最近のデータでは、すでに、エルニーニョ発生と関係する海域の海洋温度がかなり上昇していることがわかります。
黒のラインで囲んだ海域が全体的に赤く(温度が高いことを示す)なっていくと、エルニーニョ発生といえる状態となります。この海域は 4月になり急激に温度が上昇しているようです。
NOAA, severe-weather.eu
日本、あるいは日本人の場合、ともかくコメさえキープできていれば、生きていくことだけはできるのですから、1993年のような奇妙な天候にならないことを願っています。
1993年のコメ騒動の時は、タイ米など海外のコメが輸入されましたが、今はそれさえ難しいことが先ほどのフィッチのレポートでわかります。
書くまでもないことですが、日本政府の食糧安全保障を信用していると、おそらく数年内に命が消える可能性があります。
農業基本法改正案など5法案提出へ、政府 食料安保強化
政府は27日、食料安全保障の強化などに向け、食料・農業・農村基本法改正案といった5法案について2024年の通常国会への提出を目指すと明らかにした。不測の事態の際の司令塔として首相がトップの「対策本部」の新設を定める法整備や、スマート農業振興のための新法などを出す。
27日に首相官邸で「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の会合を開いた。
複数法案の概要を示し、早期に取り組む対策をまとめた政策大綱を改訂した。ロボットやデータを駆使した「スマート農業」の普及、安定輸入の確保などを新たに盛った。基本法の改正を映した政策の工程表も決めた。
岸田文雄首相は会合で「農政を抜本的に見直す」と述べた。「食料や肥料の需給変動、国内の急激な人口減少と担い手不足といった国内外の社会課題を正面から捉える」と語った。
→https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA276TK0X21C23A2000000/
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日本の食料自給率は7%になっているという説もあるが、いずれにしてもこうした食料自給率の
低下を招いたのは政府自身です。意図的にそうしてきたとしか思えません。その背景には米国の
農産物を日本に買ってもらうために日本の農業力を落としてきたのでしょう。それが結果として
日本の食料自給力低下を招いたのです。
減反政策が廃止になってからかなりになるが、今でも自主的な減反は続いている。それは米価格
が安すぎるからであり、それが農家の収入を大幅に減らしている。戦後の食管制度の下では政府
が米を一定の価格で買い上げるので米長者が誕生するくらいであった。
しかし、それが廃止されてからのコメ価格は下がる一方です。
それに加えて近年の肥料高騰が重なり、農家の収入は激減し、続けていけないために廃業する
農家もあり、それに高齢化が拍車をかけている。
農家の平均年齢が70歳と言われ、出来ても75歳が限界なので、このままだと、後数年で大規模な
農家の廃業が進むと思われます。
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