東大名誉教授が教える「物価上昇」続く根本原因

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インフレ 政治・経済

東大名誉教授が教える「物価上昇」続く根本原因

よいインフレ・悪いインフレの決定的な違い

NETFLIXから見る需要と供給

突然ですが、皆さんは動画配信サービスの「NETFLIX」を利用したことがありますか?

生徒 はい、家や電車などの移動中に映画やドラマを観たことがあります。

NETFLIXはインターネットを通して、好きなだけドラマや映画を視聴できる月額料金制の動画配信サービスです。同社は2015年に1026円だったスタンダードプランを2021年には1490円にするなど、6年間で45%程度の値上げをしました。

一般的に45%も値上げするのはかなり強気といえます。しかし、経済学の視点で考えれば納得のいく説明ができます。

まず、あるモノに対して欲しいと思う量を「需要」といいます。NETFLIXにおける需要は、視聴者が観たいと思うコンテンツ量のことです。一方、そのモノが世の中に出回る量のことを「供給」といいます。NETFLIXでは提供しているコンテンツの量を指します。

需要と供給とは
需要……欲しいと思う量
供給……世の中に出回る量

NETFLIXが値上げした理由はこの需要と供給によって説明できます。値上げのきっかけは会員数の増加にありました(=需要の増加)。人によって見たいコンテンツはさまざまなため、会員数が増えれば、魅力的なコンテンツを多数提供する必要が生じます。

ただ、コンテンツの数を増やすなどサービスの質を高めるためには資金が必要です。そこでNETFLIXは値上げを実行し、得た資金で新たに投資。多数のコンテンツの供給を実施しました。

つまり、NETFLIXは増加した需要に合わせて供給も増やすために値上げを実施したわけです。供給を増やすためには、新たな投資をするためのお金が必要だからです。このように需要が供給を上回ると、一般的にモノの値段は上がります。

(出所)『超速・経済学の授業』

スーパーマーケットから見る需要と供給

逆に、供給が需要を上回るケースもよくあります。皆さんが目にしたことのある光景ですよ。閉店間際のスーパーマーケットを想像してみてください。23時閉店のお店で、現在の時間は22時とします。

惣菜コーナーでは夕食のお弁当が売れ残ってしまっています。閉店間際で時間も遅いためにこれから売れる可能性も低いでしょう。実は、この状態こそ供給が需要を上回っている状態です。

なぜならお弁当はたくさんあるのに、買いたい人がいないためです。このとき、あなたがお店の責任者だったらどうしますか。

生徒 値段を下げてでも、お弁当を売り切りたいです。

そうですよね。もし廃棄になってしまえば、売上を増やすことができず、売れ残り分だけ損失が出てしまいます。このように欲しいと思う量よりも実際に出回っている量が多ければ、モノの価格は下がります。

これを一般化すると、次のように説明できます。

需要と供給の関係
「需要」が「供給」を上回る……モノの価格は上がる
「供給」が「需要」を上回る……モノの価格は下がる

欲しいと思う量が実際に出回っている量よりも多ければ、モノの価格は上がる。

一方で、欲しいと思う量が実際に出回っている量よりも少なければ、モノの価格は下がる。

これが基本です。モノの価格は需要と供給の関係性で決まります。基本をしっかりと頭に入れた上で、インフレとバブルについて理解していきましょう。

インフレでは需要が供給を上回っている

インフレ(インフレーション)は、私たちが普段購入している日用品やサービスの価格がどんどん上がる現象です。後述するように、私たちの生活に大きく影響を及ぼします。

では、質問です。モノやサービスの値段がどんどん上がっているとき、需要と供給の関係はどのようになっているか、説明できますか?

生徒 モノの値段が上がっているということは、需要が供給を上回っている状態だと思います。

正解です。需要が供給を上回っている状態です。言い換えれば、需要が大きく拡大しているのに、供給する量が追いついていない状態です。基本的には、これでインフレが発生します。

例えば、100円のおにぎりが値上げされて120円になったとすると、600円で購入できるおにぎりの数は6個から5個に減ります。同じ金額で購入できる数量が減るため、お金の価値が下がったといえます。こういった値上げが継続的に続いているときがまさにインフレです。

(出所)『超速・経済学の授業』

なお、特定の商品だけが値上がりしている状態はインフレとは言えませんので注意しましょう。世の中に出回っているさまざまな商品の価格がどんどん上がっていく状態がインフレです。

インフレは主に4種類に分けられる

インフレには4種類あり、よいインフレと悪いインフレに分けることができます。

よいインフレ
1 「ディマンド・プル・インフレ」
悪いインフレ
2 「コスト・プッシュ・インフレ」
3 「スタグフレーション」
4 「ハイパーインフレーション」

このなかで重要な1「ディマンド・プル・インフレ」と2「コスト・プッシュ・インフレ」を説明していきましょう。

ディマインド・プル・インフレの「ディマンド」は日本語で「需要」を意味します。その意味の通り、需要の増加によって引き起こされるインフレを指します。世の中にお金が出回って、人々の財布のヒモが緩んでいて、欲しいモノを買う余裕がある。そのため、需要が供給を上回るほど増えてインフレが起きている状態です。

(出所)『超速・経済学の授業』

モノが売れる状況では、企業は供給を増やそうとします。製品やサービスの供給を増やすことで売上を伸ばせるためです。生産の増加は、雇用を増やすことになるので失業率は低下して、経済が活性化する道筋を描けます。

このようなディマンド・プル・インフレはよいインフレと呼ばれます。企業が労働者の賃金を上げるきっかけにもなるからです。物価が上昇しているために、給与を上げて実質的な賃金の価値を増やそうとする流れが起きるのです。企業の収益が増加して、物価以上に賃金が上昇するという理想的な流れが生まれます。

ただ、ディマンド・プル・インフレが起きればよいのかというとそうではありません。なぜなら、大切なのは「インフレの程度」だからです。

もし物価の上昇が激しすぎて、賃金の上昇がそれに追いつかない場合、消費者の購買力が低下します。例えば、日本を代表するテーマパーク「ディズニーランド」が入園料を値上げしたと仮定しましょう。

8000円から8500円の値上がりであれば、大きな負担は感じないでしょう。ところが、8000円から1万円に値上がり、その後も1万1000円、1万2000円へと値上がりが続いたらどうでしょうか。同時に私たちの給料も上がれば問題ありませんが、給料の上昇が追いつかなかったら、実質的に賃金の価値が下がります。

私たちの負担が増えたことになり、生活が苦しくなってしまいます。つまり、ディマンド・プル・インフレが起きても、賃金の引き上げがそれに追いつかなければ問題なのです。

生徒 よいインフレとは、ディマンド・プル・インフレが起きて、かつ賃金も同時にアップする現象ということですね。

はい、その通りです。よいインフレであれば、経済が活性化して、私たちも企業も豊かになっていき、国全体が経済的には理想の方向へと進みます。

コスト・プッシュ・ インフレの原因とは?

次に「悪いインフレ」を見ていきましょう。2コスト・プッシュ・インフレは、モノを供給するとき、その原材料を仕入れる費用=コストが上昇することで起こるインフレです。

(出所)『超速・経済学の授業』

なぜこれが悪いインフレなのか。コスト・プッシュ・インフレは需要が供給を上回って発生している現象ではありません。そのため、モノがどんどん売れる状況ではなく、経済の活性化につながりません。あくまでモノを生産するためのコストが上がって、インフレ(物価上昇)が起きているだけなのです。

生徒 モノが売れている状況ではないのに、コストが上がったら大変な気がします。

はい。その通りです。例えば、普段通っているスーパーで、原材料の高騰などによってマヨネーズ1本当たりの値段が200円から、300円に値上げされました。消費者からすれば、食費の負担が増えたことになります。給料が上がらなければ、消費者の購買力は減少するでしょう。

一方で、企業にとってはコスト・プッシュ・インフレの背景となる原材料などのコストの上昇によって、収益が減少している状況です。販売価格を値上げして収益の改善を図ろうとしても、それだけでは企業の経営が苦しい状況に変わりありません。

企業はコスト上昇分を販売価格へ転嫁しようとしますが、すぐに反映できるわけでもなく、値上げができたとしても需要が減ることで、利益が圧迫されやすくなります。企業の利益が上がらなければ、私たちの賃金が大きく上昇することもありません。それでも物価が上がっているために、生活品への支出金額が増加。私たちの生活の負担感が高まるのです。

深刻な事態を引き起こすスタグフレーション


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コスト・プッシュ・インフレが悪い方向へ進むと、より深刻なインフレ「スタグフレーション」を引き起こすことがあります。たくさんの会社が人件費を抑えるために雇用を抑えると社会全体の失業率が増加して、一国の経済が大きく停滞するため、最も避けるべき状況のひとつと言われています。

ここまで駆け足で3つのインフレについて解説してきました。2024年現在、日本でインフレが起きていますが、これは日本経済が活性化したことが原因とは言えないでしょう。

つまり、現時点ではよいインフレではありません。今後、大企業だけではなく、中小企業の賃金上昇が物価上昇率を上回って経済の好循環が生まれるかが焦点となっています。

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