「国債なんて返済しなくていい」…最新の貨幣理論MMTが唱える本当の「財政のあり方」

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日本銀行 政治・経済

「国債なんて返済しなくていい」…最新の貨幣理論MMTが唱える本当の「財政のあり方」

日銀に国債を購入してもらえばそれで済む!

「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」

そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。

本連載では「新自由主義の権化」に経済学を学び、20年以上経済のリアルを追いかけてきた記者が、海外の著名なパイオニアたちと共に資本主義の「教義」を問い直した『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井手壮平著)より抜粋して、「現実的な方策」をお届けする。

『世界の賢人と語る「資本主義の先」』連載第23回

「日銀は政府の子会社だ…」安倍晋三の発言のウラに隠されていた「衝撃の貨幣理論」』より続く

貸し手のいない「負債」

MMT的な考え方が具体的にどういうことを意味するのか、政府が公共事業を発注する場合を例にとって見てみよう。政府はあらかじめ国会で議決を得た予算に基づき、たとえば一億円で道路の補修をゼネコンA社に発注する。政府はA社がB銀行に持っている口座に対し、1億円の振り込みを日銀に指示する。

現行のルールでは、この1億円は国の歳入の中から支出することになっている。歳入とは、大まかに言って税金と公債金、つまり国債を発行して民間から借りるお金の合計だ。

しかし、歳入の範囲内で歳出(政府の支出)を賄わなければいけないというのは、あくまで政府が自らを縛るルールとして定めたものである。ルールの存在さえ脇に置けば、B銀行にあるA社の口座に対して1億円を振り込むよう政府が日銀に指示するのに、原資は必要ない。日銀がB銀行に1億円を送金する際も、単に帳簿(電子データ)の上で1億円を書き足すだけで、何らかの資産による裏付けが必要になるわけではない。

厳密に言うと、その1億円は日銀の負債として計上されるが、企業や家計の借金とは根本的に異なり、その負債は返す必要もなければ、誰かに返済を迫られる恐れもない。というか、そもそも貸し手は存在せず、ただ便宜上、一般的な貸借対照表のスタイルに則って負債として計上しているだけである。

異なる解釈

以上はどんなに厳格な財政健全化論者でも否定できない事実だろう。大きく異なるのは、それが何を意味するかだ。MMT論者は、ゆえに財源など気にする必要がないと考える。

ただ、およそすべての国で、歳出は歳入の範囲内で賄うルールになっている。多くの積極財政派も含めて伝統的な見方は、金本位制から管理通貨制に移行して以来、貨幣の価値を裏付けるものは政府の信用に変わったため、その信用が何よりも大事で、信用を維持するためにはそうしたルールが不可欠だからだと考える。

MMTは、こうしたルールは今日では必要なく、にもかかわらず存在するのは、アメリカが金本位制を採用し、多くの国が自国通貨と米ドルの固定相場制を採用していたブレトンウッズ体制のなごりで一種の思い込みに過ぎないとの立場をとる。1971年に米ニクソン大統領が金とドルの交換停止を発表し、ブレトンウッズ体制が崩壊したことにより(ニクソン・ショックやドルショックとも呼ばれる)、実際は不要になったにもかかわらず、いわば惰性で残り続けたとの解釈だ。

固定相場制の場合も、たとえば日本は1971年まで1ドル=360円の固定レートを採用していたが、無制限に貨幣を発行すると、変動相場制では円の下落というかたちで調整がなされるが、そうした調整はできなくなる。決められた交換レートを維持するためには政府・日銀がドル売り円買い介入をすることが必要になるが、自由に刷れる円と違ってドルの保有量には限りがあるため、レートの維持ができなくなる。

MMT的な財政の在り方

なお、過去にアルゼンチンやロシアがデフォルト(債務不履行)に陥ったのは、外貨(主に米ドル)での借り入れがあったためで、この場合の返済能力も外貨保有量及び外貨獲得能力に縛られ、変動相場制をとっていたとしても財政には大幅な制約が課せられる。財政危機に陥り、同じくデフォルトしたギリシャも、ユーロは自国の法定通貨だが、発行権はドイツ・フランクフルトにある欧州中央銀行(ECB)にしかなく、事実上外貨で借り入れ、外貨建てで経済を運営しているのと変わらない。

MMT的な考え方でいけば、管理通貨制と固定相場制をとる限り、国家は好きなときに好きなだけ自国通貨を発行し、少なくとも国内で販売されるモノやサービスを買うことができる。あるいは年金をはじめ、各種の給付を行うこともできる。

また、税収が足りないからといって国債を発行して借金をする必要も実はなく、政府は日銀に指示するだけでマネーを作り出し、伝統的に国債に頼っていた不足分をいくらでも補うことができる(これをOvert Monetary Financing=明示的財政ファイナンスと呼ぶ)。

ならば税金を取る必要もなくなるではないかという疑問が浮かぶだろうが、MMTの考え方に立つと、税金とは財政支出の原資を作るために必要なのではない。税金は主に、所得を再分配し、社会的な公正さを高める目的と、インフレを制御するために必要だということになる。つまり、景気が過熱し、物価が上がりすぎた(あるいは上がりすぎる兆候が見られる)場合、政府は増税や歳出削減を通じて通貨の流通量を減らすことで、インフレを抑えることができる。

もう一つ、かなり抽象的だが、納税は貨幣で行われ、国家はさまざまな強制力をもって納税を義務付けることができるため、税の存在自体が貨幣に対する需要を作り出し、ひいては貨幣の価値を裏付けるとの説を採用しているのもMMTの特徴だ。

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