成長続ける日本のGDP、生活実感との乖離なぜ 「悪い物価上昇」で、支払い増えても得られるモノ増えず 

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GDP 政治・経済

成長続ける日本のGDP、生活実感との乖離なぜ 「悪い物価上昇」で、支払い増えても得られるモノ増えず 

名目GDPが初の600兆円越えでも豊かさを感じられない日本

昨年日本の名目GDPが、ドイツに抜かれ世界4位となり、「トップ3」から陥落したことが話題となった。来年にはインドにも抜かれる可能性がある。日本の名目GDPは依然増加を続けており、国際的にみればまだまだ豊かな国の一つといえるが、近年は特に物価高が家計を圧迫し、株価は乱高下し、歴史的円安の影響も尾を引く。経済成長を続ける国にいながら、私たちひとりひとりの生活における豊かさは感じにくい。統計上の数値と生活実感の乖離はどうして生まれているのか。専門家の解説から、その背景を探った。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:小林真一郎)

名目GDP、年率換算で初の600兆円越え でも実感に乏しく

内閣府が15日に発表した今年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、名目GDPが前期比1.8%増。年率換算の実額にすると607.9兆円となり、初めて600兆円を超えた。認証不正問題で停止していた自動車の生産再開や、春闘での高水準の賃上げなどで個人消費が5四半期ぶりにプラスに転じたことが、GDPを押し上げたとみられる。

いよいよ景気回復、暮らしが楽になるのかと期待したくなる数字だが、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏は「物価の変動を除いた実質でみると1.0%増加した個人消費も、これまでの落ち込みを考えると力強さに欠ける印象」という。「個人消費の増加分の半分が自動車の購入増加によるものということですが、これは1~3月期に販売できなかった反動。他に外食も増えましたたが、レジャー関連は伸び悩み、これらが含まれるサービス全体としては横ばいになっています。食料品やエネルギーなどの非耐久消費財の伸びも弱く、物価高の影響がまだ大きいことがわかります」。

今月に入り、東京株式市場では株価が乱高下。8日には宮崎県沖を震源とする地震の影響で、南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震への注意も呼びかけられた。こうした不安感や、首相の交代といった政治的な動きも消費者や企業経営者のマインドの変化を通じてGDPに影響を及ぼすことがあるという。私たちの生活に密接にかかわりながら、どこか実感に乏しいGDPとは、いったいどのようなものなのだろうか。

 

そもそもGDPって?その役割は?

GDPとは、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の合計をさす。一国内で生産されたモノやサービスすべての生産額から、原材料、電気・ガス、輸送サービスなど他の生産者から購入した中間投入額を差し引いた付加価値の合計額、とも言い換えられる。例えば,自動車メーカーの生み出したGDPであれば、完成品の値段から部品や原材料などの中間投入費を引いた部分になる。

GDPtとは?

GDPには名目値と実質値がある。名目GDPは、対象期間の付加価値の金額をそのまま合計して求めたもので、過去のある一時期と比較してインフレやデフレで物価が上下していたとしても、それをそのまま反映させる。一方、実質GDPは、過去のある一時期と比較してインフレやデフレで物価が上下した場合はその物価変動の影響を除外する。そのため、実質GDPは過去の一時期と比べてモノやサービスの量が増えたか減ったかを知る指標になり「数量ベースの評価」とも呼ばれる。名目GDPは「金額ベースの評価」と言われている。

また、数量に変化がなくても、高級化や高品質化が進むことでもGDPは増加する。先ほどの自動車メーカーの例でいうと、新型車を販売する際に価格が上がったとする。この値上げが部品の値上がり分を販売価格に転嫁しただけであれば名目GDPの増加にとどまるが、新機能を追加した分の値上げであれば、名目GDPだけでなく、実質GDPも増加させる。

名目GDPと実質GDP

一般的に、日本の経済規模がドイツに抜かれて世界4位などと国際比較する場合や、各国の債務をGDP比で示して比較する場合などは、市場で取引されている価格に基づき算出する名目GDPが使われている。他方、国内で一定期間の経済成長率を見る場合などには、物価上昇分を除外した実質GDPが用いられる。このため、名目GDPの値は、実質GDPに比べてより生活やビジネスの実感に近い数字といわれている。

 

GDPからみる日本の「豊かさ」と「悪い物価上昇」

経済の全体像を把握するためのGDPは、一見すると、私たちひとりひとりの生活とは遠く感じられるかもしれない。私たちの生活は、GDPにどう表れているのか。小林氏に解説してもらった。

例えば、2008年をピークに人口減少社会に転じた日本では、一般的には需要の減少とともにGDPも減っていくと考えられる。しかし2022年中頃まで、日本のGDPは名目・実質とも増加傾向にあった。

小林氏によると、これは、「我々が消費しているモノやサービスの『量』自体は増えておらず、長くデフレ状態にあった日本では価格もあまり上がっていないが、『質』が向上しているため」という。「より高度な医療や安全性の高い車、性能の高いスマホなど、人口が減って全体として必要な量が減っても、より高級な(付加価値の高い)商品やサービスが増えて一人当たりのGDPが増えれば、国全体のGDPも増えていきます」

GDPの国際比較

国全体のGDPを国民の数で割った一人当たりのGDPは、その国・地域に住む人々の平均的な豊かさを表す一つの指標として、国同士の比較によく使われる。一人当たりの名目GDPで常に上位にいるルクセンブルク、アイルランド、スイスは、いずれも人口は少ないが、金融業や化学・製薬業、情報通信産業など付加価値の高い産業が集中していることが特徴だ。

「国全体の名目GDPで日本は来年にもインドに抜かれるといわれています。ただ、2023年の一人当たりの名目GDPで見ると、日本は34位(3万3806米ドル)ですがインドは144位(2500米ドル)と大きな開きがあります。一人当たりGDPは、社会インフラや福祉の充実度といった社会の豊かさ、生活の質の高さを反映しているともいえます」

人口減少社会に転じても一人当たりGDPが増え、経済成長を続けている日本は、国際的にみれば豊かな国の一つといえる。しかし、近年は特に物価高が家計を圧迫している。経済成長を続ける国にいながら、私たちひとりひとりの生活における豊かさは感じられないという、現実と実感の乖離はどうして生まれているのか。

その理由の一つとして、「実質GDPを伴わない、名目GDPの上昇が原因」と小林氏は指摘する。

名目GDPと実質GDPの乖離

「物価の上昇には、『良い物価上昇』と『悪い物価上昇』があります。現在の日本の物価上昇は、長く続いた円安や資源高といった輸入物価の高騰が国内にも波及した結果、名目GDPのみが膨らんだ『悪い物価上昇』です。物価が高くなって支払うお金は増えているのに、得られるモノやサービスは増えない、または減っている状態といえます。

一方、本来目指すべきは需要の増加を伴って価格が上昇する『良い物価上昇』。『買いたい』という消費者意欲が強くなると価格に上昇圧力がかかりますが、労働者の給与など使えるお金が増えていることで、販売価格を引き上げても需要の増加が維持されるケースです。この場合、金額ベースの名目GDPの伸びに伴い、数量ベースの実質GDPも伸びて、『需要(支出)』の側面からみるとより多くのお金を支払うようになっていますが、得られるモノやサービスの数や量もそれに応じて増えていきます」

実際、物価上昇で外食を控えたり、旅行の機会を減らしたりするなど、生活防衛のために支出を減らしている人も多いのではないだろうか。個人消費が少ないと、実質GDPは伸び悩む。私たちの行動の変化はGDPの変化にも表れているのだ。


どうなる、これからの日本 進む少子高齢化、豊かさを実現するには

どうすれば、「良い物価上昇」の流れを作れるのか。小林氏は、賃金の増加がカギになるという。

生産活動によって得られた付加価値(GDP)のうち、労働者がどれだけ受け取ったかを示す「労働分配率」が、日本は主要先進国の中でも低く推移してきたといわれる。

労働分配率の酷使比較

「物価の上昇とともに賃金が増え、個人消費が増えることが重要です。人々が使うお金が増えれば企業の売り上げが増え、利益も増える、そしてまた賃金が上がる。今年の春闘の賃上げ率が高水準になったことが話題になりましたが、この流れが続くかがポイントになります」

低賃金が続くことは、人材の海外流出などさらなる人手不足を招き、経済成長を妨げる要因になる。しかし一方で、賃金が上がり経済がうまく循環したとして、少子高齢化と人口減少が続く日本で、GDPの拡大を続けることは現実的に可能なのだろうか。

GDPが多い、つまり経済規模が大きいということは、国際社会での影響力を維持し、企業間の取引における交渉でも有利に働く。そのため、国としてはできるだけその経済規模を維持しておきたいという考えが一般的だが、人口減によりそれも難しくなってきているのが日本の現状だ。

「人口が増えていない状態で経済規模を増やしていくというのは相当難しい。その中で、必要となるのが『生産性の向上』です」

労働生産性は、GDP(付加価値の総量)を労働投入量(何人が何時間働いたか)で割って求められる。つまり、一定の労働投入量でより多くのGDPが生み出される、または、同じGDPであっても、より少ない労働投入量で実現できれば、生産性が向上したといえる。

生産性とGDPの関係

「今の日本は労働力人口が減り、できるだけ残業を減らす動きもあり労働投入量が減っています。この状態でGDPを増やすためには、二つの方法が考えられます。一つには、量ではなく質でGDPを増やす方法。これはイノベーションにより新たな価値を生み出したり、新たな産業をつくったりすることです。もう一つは、設備投資や効率化で労働投入量をさらに減らすことです。機械やAIに任せられる部分は任せて、例えば今まで10人でやっていた仕事を9人で回せるようにする。そして、手が空いた1人に新規ビジネスを任せる。それが収益化すれば、全体としてGDPが増える、という考え方です」

物流の「2024年問題」での共同配送やキャッシュレス決済、AIの活用など、人手不足解消やコスト削減のための効率化の動きはここ数年一気に進んでいる。効率化を単なるコスト削減だけにとどめず、それによって得た余力をいかにイノベーションへの起爆剤として投資できるかに、日本の今後がかかっているといえる。

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