「マイナ保険証は患者の人命にかかわる」と医師が訴える理由
https://president.jp/articles/-/85307
写真=共同通信社
健康保険証の代わりにマイナンバーカードを利用するための読み取り機=2021年10月、東京都内の病院
“現行の健康保険証が廃止”とされるのは、今年の12月からだ。テレビCMでも、なかやまきんに君や王林、内藤剛志(敬称略)といった芸能人が画面に登場、いかにマイナ保険証が便利であるかを宣伝するし、現行の健康保険証の新規発行が終了することがさんざん強調されるので、12月までに急いでマイナ保険証を作らないと大変なことになるかのように思ってしまっている人も少なくないかもしれない。
しかし心配はご無用だ。マイナ保険証を作っていなくても、マイナンバーカードを持っていなくても、これまでどおりに医療機関で保険診療を受けることはできるからだ。ちなみに私は勤務医だが、マイナ保険証どころかマイナンバーカードさえ持っていない。
「そりゃ医者は自分で処方や検査を自由にできるから必要ないでしょ」と思う人もいるかもしれないが、そんなことはない。私事だが、股関節と頚椎に持病のある私は、整形外科を患者として受診するから健康保険証はつねに携帯している。
「マイナ保険証のどこが問題?」に答える本
それでもマイナ保険証を慌てて作ろうと焦っていないのはなぜか。マイナンバーカードもマイナ保険証も、その取得や登録はあくまでも「任意」だからである。この法的たてつけが変わらない以上、これらを所持していない人を医療から排除することは、法的にも完全に不可能なのだ。
だからまったく慌てることはないのである。なんなら慌てて作ってしまったものの、マイナンバーカードをめぐるトラブルが後を絶たない現状をみて不安に思っている人などは、返納しても問題ない。そのようにマイナンバーカードを返納した人であっても、従前と変わらず保険診療を受けられるからだ。
先日、非常に面白く役に立つ書籍が出版された。『マイナ保険証 6つの嘘』(せせらぎ出版)である。著者は“哲学系ゆーちゅーばー”こと北畑淳也氏。この肩書きを見て、「信用できるのか?」と眉を顰める向きもあろうが、中身は至極真っ当。
マイナ保険証のどこが問題なのかわからない人こそ読んでほしいし、モヤモヤした気持ちを持ちつつも、周りの友人などに「なぜまだ作っていないの?」と嘲笑されたときにどう反論したら良いか困っている人にとっては、最適な指南書ともいえるだろう。
以下、本稿では同書の内容の受け売りをしつつ、現在の政府がおこなっている卑怯な「手口」と欺瞞を詳らかにしていこうと思う。
あと4カ月なのに、いまだに9割の人が使っていない
最も重要かつ広く多くの人が知るべき政府がついている「嘘」は、マイナ保険証によって医療を受ける人に大きな便益がもたらされるという点である。
医療を受ける人にとっての便益とはなにか。当然ながらそれは人それぞれ。なにを便益と感じるかは異なるだろう。だがもたらされるであろう「不便益」は多くの人に共通するものだ。よってマイナ保険証導入によって、いかなる不便益がもたらされる可能性があるかを、まず考えてみよう。
あなたが医療機関を受診する状況をイメージしてみてほしい。どの医療機関でも、玄関をくぐっていきなり医師の診察室に入れることはない。まずは受付を済ませる必要がある。そこで健康保険証を提示して、保険診療を受けられる資格を確認する必要があるからだ。
現時点では、健康保険証を提示するか、マイナ保険証を使える医療機関ではカードリーダーでこれらの確認をおこなう。この2通りだ。
ちなみに厚生労働省の説明では、一般の人のマイナ保険証の利用率は今年の3月時点で5.47%。つまりマイナンバーカードを持っていながら保険証として使っていない人が9割以上もいるわけだ。さらに驚きなのは、マイナ保険証を普及させる側ともいえる国家公務員の利用率。これが一般の人とさほど変わらない5.73%という低率なのだ。
2通りで済む確認方法が、一気に9パターンに増える
各省庁別では、総務省組合の10.31%や厚生労働省第一共済組合の8.4%は例外的に高い数値で、外務省では4.5%、防衛省にいたっては3.54%と一般の人よりも低い。外交や防衛というセキュリティ重視の省庁で働く公務員ゆえ、メリットよりもデメリットを恐れているのではなかろうか、と勘ぐりたくもなる低さといえるだろう。
話を元に戻そう。健康保険証かマイナ保険証のどちらかという2通りで資格確認ができている現状が、今後はどうなるのか。それこそが大問題なのである。同書によれば「健康保険証廃止」によって、この2通りがなんと9通りのパターンに増えてしまう可能性があるというのだ。
①マイナ保険証+資格情報のお知らせ
②資格確認書
③マイナ保険証+資格確認書
④これまでの健康保険証
⑤パスワードなしの保険証用途限定のマイナンバーカード
⑥マイナンバーカード+マイナポータルのPDFの写し
⑦被保険者資格申立書
⑧スマホマイナンバーカード
⑨新マイナンバーカード
これらのそれぞれが、どういう場合に使われるかの詳細については、ここでは説明できないくらい複雑なので、ぜひ同書を参照いただきたいが、最も重要なのは、これほど多様なパターンがあった場合に、医療現場でなにが起きるかということだ。
窓口が大混乱に陥るのは目に見えている
体調の悪い時や、時間がなくて早くいつもの薬が欲しいという時に、受付から診察室に入るまで、いくらでも待てるという人はまずいないだろう。なるべく事務的な手続きは早く終えてもらって、さっさと診察を受けて帰りたいというのが、ほとんどの人の要望ではないだろうか。
だが残念ながら、今年の12月以降はそうはいかない。窓口業務が大混乱に陥るからだ。医療機関によく行く人ならわかると思うが、現状でさえ患者さんが集中する時間帯は、受付してから診察室に呼び入れられるまで1時間かかることも珍しくない。
それが患者さんによって資格確認パターンがこれだけ多様で異なってしまうのだから、今より時間が短くなるはずは絶対にないのである。間違いも起こりやすくなるだろうし、機械の不具合などで確認のやり直しが必要となれば、そろそろ診察室に呼ばれるかなと思っていたところで、「もう一度確認させてください」あるいは「今までの健康保険証を持ってきてください」などということも起こるだろう。
マイナンバーカードを持っていなくても心配なし
私の実家の両親宛に「最後の健康保険証」が送られてきた。
来年の7月31日まで有効と記載されているものだが、現行の健康保険証を廃止しマイナンバーカードと一体化させるという政府の方針がこのまま押し通されるのであれば、来年の7月には次の新しい「紙の健康保険証」は送られてこない。つまり、これが最後の紙の健康保険証ということになる。
写真=共同通信社
健康保険証の代わりにマイナンバーカードを利用するための読み取り機=2021年10月、東京都内の病院
“現行の健康保険証が廃止”とされるのは、今年の12月からだ。テレビCMでも、なかやまきんに君や王林、内藤剛志(敬称略)といった芸能人が画面に登場、いかにマイナ保険証が便利であるかを宣伝するし、現行の健康保険証の新規発行が終了することがさんざん強調されるので、12月までに急いでマイナ保険証を作らないと大変なことになるかのように思ってしまっている人も少なくないかもしれない。
しかし心配はご無用だ。マイナ保険証を作っていなくても、マイナンバーカードを持っていなくても、これまでどおりに医療機関で保険診療を受けることはできるからだ。ちなみに私は勤務医だが、マイナ保険証どころかマイナンバーカードさえ持っていない。
「そりゃ医者は自分で処方や検査を自由にできるから必要ないでしょ」と思う人もいるかもしれないが、そんなことはない。私事だが、股関節と頚椎に持病のある私は、整形外科を患者として受診するから健康保険証はつねに携帯している。
「マイナ保険証のどこが問題?」に答える本
それでもマイナ保険証を慌てて作ろうと焦っていないのはなぜか。マイナンバーカードもマイナ保険証も、その取得や登録はあくまでも「任意」だからである。この法的たてつけが変わらない以上、これらを所持していない人を医療から排除することは、法的にも完全に不可能なのだ。
だからまったく慌てることはないのである。なんなら慌てて作ってしまったものの、マイナンバーカードをめぐるトラブルが後を絶たない現状をみて不安に思っている人などは、返納しても問題ない。そのようにマイナンバーカードを返納した人であっても、従前と変わらず保険診療を受けられるからだ。
先日、非常に面白く役に立つ書籍が出版された。『マイナ保険証 6つの嘘』(せせらぎ出版)である。著者は“哲学系ゆーちゅーばー”こと北畑淳也氏。この肩書きを見て、「信用できるのか?」と眉を顰める向きもあろうが、中身は至極真っ当。
マイナ保険証のどこが問題なのかわからない人こそ読んでほしいし、モヤモヤした気持ちを持ちつつも、周りの友人などに「なぜまだ作っていないの?」と嘲笑されたときにどう反論したら良いか困っている人にとっては、最適な指南書ともいえるだろう。
以下、本稿では同書の内容の受け売りをしつつ、現在の政府がおこなっている卑怯な「手口」と欺瞞を詳らかにしていこうと思う。
あと4カ月なのに、いまだに9割の人が使っていない
最も重要かつ広く多くの人が知るべき政府がついている「嘘」は、マイナ保険証によって医療を受ける人に大きな便益がもたらされるという点である。
医療を受ける人にとっての便益とはなにか。当然ながらそれは人それぞれ。なにを便益と感じるかは異なるだろう。だがもたらされるであろう「不便益」は多くの人に共通するものだ。よってマイナ保険証導入によって、いかなる不便益がもたらされる可能性があるかを、まず考えてみよう。
あなたが医療機関を受診する状況をイメージしてみてほしい。どの医療機関でも、玄関をくぐっていきなり医師の診察室に入れることはない。まずは受付を済ませる必要がある。そこで健康保険証を提示して、保険診療を受けられる資格を確認する必要があるからだ。
現時点では、健康保険証を提示するか、マイナ保険証を使える医療機関ではカードリーダーでこれらの確認をおこなう。この2通りだ。
ちなみに厚生労働省の説明では、一般の人のマイナ保険証の利用率は今年の3月時点で5.47%。つまりマイナンバーカードを持っていながら保険証として使っていない人が9割以上もいるわけだ。さらに驚きなのは、マイナ保険証を普及させる側ともいえる国家公務員の利用率。これが一般の人とさほど変わらない5.73%という低率なのだ。
2通りで済む確認方法が、一気に9パターンに増える
各省庁別では、総務省組合の10.31%や厚生労働省第一共済組合の8.4%は例外的に高い数値で、外務省では4.5%、防衛省にいたっては3.54%と一般の人よりも低い。外交や防衛というセキュリティ重視の省庁で働く公務員ゆえ、メリットよりもデメリットを恐れているのではなかろうか、と勘ぐりたくもなる低さといえるだろう。
話を元に戻そう。健康保険証かマイナ保険証のどちらかという2通りで資格確認ができている現状が、今後はどうなるのか。それこそが大問題なのである。同書によれば「健康保険証廃止」によって、この2通りがなんと9通りのパターンに増えてしまう可能性があるというのだ。
①マイナ保険証+資格情報のお知らせ
②資格確認書
③マイナ保険証+資格確認書
④これまでの健康保険証
⑤パスワードなしの保険証用途限定のマイナンバーカード
⑥マイナンバーカード+マイナポータルのPDFの写し
⑦被保険者資格申立書
⑧スマホマイナンバーカード
⑨新マイナンバーカード
これらのそれぞれが、どういう場合に使われるかの詳細については、ここでは説明できないくらい複雑なので、ぜひ同書を参照いただきたいが、最も重要なのは、これほど多様なパターンがあった場合に、医療現場でなにが起きるかということだ。
窓口が大混乱に陥るのは目に見えている
体調の悪い時や、時間がなくて早くいつもの薬が欲しいという時に、受付から診察室に入るまで、いくらでも待てるという人はまずいないだろう。なるべく事務的な手続きは早く終えてもらって、さっさと診察を受けて帰りたいというのが、ほとんどの人の要望ではないだろうか。
だが残念ながら、今年の12月以降はそうはいかない。窓口業務が大混乱に陥るからだ。医療機関によく行く人ならわかると思うが、現状でさえ患者さんが集中する時間帯は、受付してから診察室に呼び入れられるまで1時間かかることも珍しくない。
それが患者さんによって資格確認パターンがこれだけ多様で異なってしまうのだから、今より時間が短くなるはずは絶対にないのである。間違いも起こりやすくなるだろうし、機械の不具合などで確認のやり直しが必要となれば、そろそろ診察室に呼ばれるかなと思っていたところで、「もう一度確認させてください」あるいは「今までの健康保険証を持ってきてください」などということも起こるだろう。
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写真=iStock.com/Chinnapong
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