中国が領空侵犯で「次の総理」候補たちの反応を見物!

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小泉環境相 政治・経済

中国が領空侵犯で「次の総理」候補たちの反応を見物!

小泉進次郎がとった「驚くべきリアクション」

「ポスト岸田」候補を試した中国の領空侵犯

中国の軍用機による領空侵犯事件は、何が目的だったのか。私は「ポスト岸田候補の出方を探るためだった」とみる。その目的は達成された。有力候補の1人、小泉進次郎元環境相は無反応だった。中国は「これなら、やりたい放題だ」と高笑いしているのではないか。

この事件は、タイミングといい、周到さといい「極めて洗練された作戦」だった。

中国軍機は長崎市の南西から接近して、男女群島上空に到達すると、いったん公海上空で大きく旋回(回数は不明)した後、周回軌道から外れて、男女群島上空の領空を侵犯した。その後、周回軌道に戻って、小さく旋回してから、元の航路に沿って帰っていった。この間、自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)している。

防衛省の発表によれば、中国軍機は設計図の上をなぞったように、正確に飛行している。誤って侵入した可能性は、ほとんどない。そもそも、情報収集機なのだから、決められた航路を正確に飛べるのは、当然だ。それが出来なかったら、任務を果たせるわけがない。

侵入した意図は、何だったのか。

6月から続いた靖国神社での放尿、落書き、8月19日のNHKラジオ国際放送の電波ジャックという「一連の事件の延長線上」にあった可能性が高い。今回が深刻なのは、前回までは「民間人と思われる人」が起こした事件だったが、今回は軍用機だった点だ。

靖国事件や電波ジャックも、民間人を装った「プロの工作員」の仕業だった可能性はあるが、正真正銘の軍用機が白昼堂々と領空を侵犯してきたのは、挑発レベルが一段と上ったことを示している。それだけ、深刻な事態である。

タイミングも絶妙だった。自民党総裁選と関連がある、と考えるのが自然だ。

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中国の立場で考えれば、ここで挑発すれば、岸田文雄政権や総裁選の候補者たちが、どんな反応を示すか、を見極める絶好の機会だった。岸田政権の腰抜けぶりは、2年前の非公式警察署問題への対応で明らかだったが、次の政権を狙う候補者たちが「中国の挑発にどんな対応をするか」を評価するチャンスだったのだ。

この程度の挑発で次の政権担当者が、どれほど動揺するか、激昂するか、あるいは無視するか、を事前に見極めることができれば、次の作戦を企画・立案するうえで、貴重な材料を得られるからだ。

要領を得ない総裁選候補者たち

はたして、候補者たちの反応はどうだったか。

8月28日付の読売新聞は、次のように報じている。

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〈小林鷹之・前経済安全保障相(49)は27日、東京都内で「極めて深刻かつ重大な事案だ。警戒監視をさらに強めなければならない」と記者団に語った。同日から訪中している超党派の日中友好議員連盟に対し、「強く抗議してほしい。毅然(きぜん)とした態度を伝えることが重要だ」と注文をつけた。

高市経済安保相(63)も記者会見で「全く受け入れられない」と批判し、「今後、首相や防衛相を中心に警戒監視に万全を期していく」と述べた。上川外相(71)は「日本の領土、領海、領空を断固として守るとの決意のもと、主張すべきは主張しつつ、冷静かつ毅然と対応する」と強調した。

 

石破茂・元幹事長(67)は党本部で、「領空侵犯措置の対応は今のままでいいのか。結論を出すことは政府・自民党の使命だ」と記者団に指摘し、航空自衛隊の体制強化や武器の使用権限などについて議論する考えを示した〉
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まず言えるのは、コメントが遅すぎた点だ。

事件が起きたのは、26日午前。その日午後には、外務事務次官が中国の臨時代理大使を呼び出して抗議しているのだから、遅くとも同日夜までには、コメントを出しているべきだった。ところが、出てきたのは、出した候補者でも、27日になってから。それが新聞に掲載されたのは、28日朝。丸2日も経っている。いまはSNSもあるのだから、もっと早く対応できたはずだ。

そのうえで、1人ずつ評価しよう。

小林氏は派閥(二階派)のボスである二階俊博氏率いる訪中団に「強く抗議してほしい」と注文を付けている。次の総理・総裁を目指している立場なのに、わざわざ訪中団に抗議を頼む神経が分からない。ここは、自分の声で抗議すべき局面ではないか。

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小林氏は総裁選に立候補している自分の立場の重さを分かっていない、と言わざるをえない。彼の軽さというか、未熟さがにじみ出てしまった、と思う。

高市氏は「首相や防衛相を中心に警戒監視に万全を期していく」と語っている。だが「保守派の代表」を名乗るのであれば、物足らない。ここは「抗議の意を示すために、在中国の日本大使を召喚する」くらいは語ってほしかったところだ。

上川氏は話にならない。「何を主張するのか」が問われているのに「主張すべきは主張する」では、まるで中身がない。普段から「日中関係の何が問題か」「自分は何を語るのか」をしっかり考えていないから、こういうときに語るべき言葉が出てこないのだ。

外相という、ど真ん中の所管大臣の職にあってさえ、この体たらくでは、とても総理は務まらないだろう。

石破氏は総裁選に立候補しているのだから「結論を出す」のは自分の仕事ではないか。中国に対する怒りのかけらも伝わってこない。彼は全然、怒ってないようだ。これまた、石破氏の本性が見えてしまった。

進次郎がとった驚くべきリアクション

そこで、小泉氏である。

驚くべきことに、彼は「無反応」だった(28日時点)。ネットで検索した限り、小泉氏が、この事件に何らかのコメントをした形跡がない。有力候補の1人と目されている小泉氏の「無反応」は、中国にとって、今回の最大の収穫だったのではないか。

ベテランの石破氏や高市氏については、情報収集が進んでいたと思われるが、ライジング・スターの小泉氏については、情報が乏しかったはずだ。

その小泉氏が無反応ということは「こうした挑発に、彼はまったく準備がなかった」ことを示している。批判も警戒強化も言えないくらい、白紙だったのだ。

そうだとすれば、今後、挑発をレベルアップしていくと、どうなるか。「小泉政権になれば、右往左往して、ほとんど実のある対応ができない可能性が高い」。中国は、そう判断しただろう。周りを官僚が固めたとしても、重要案件で決定を下すのは総理なのだから、ドタバタするだけだ。

 

中国は大喜びしているかもしれない。「この調子なら、選択肢はいくらでもある。煮て食おうと、焼いて食おうと、オレたちのやりたい放題だ」と思っているはずだ。まったく、残念な展開である。

国民民主党の玉木雄一郎代表からもコメントが出た。

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27日付の産経新聞は、玉木氏が「『日米の権力移行期に、我が国を試すような行為だ」と意図を推測した」と伝えている。Xには「権力の移行時期に領空を犯す行為を仕掛けるのは、偶発的行為ではなく、計画的かつ戦略的な行為である。権力の空白を作らないよう、対処に万全を期すことが必要だ。中国には厳重に抗議する」と投稿している。

これは、私の受け止め方と同じだ。与党の政治家らに比べて、はるかに「芯を食っていた」と評価したい。

以上のような候補者たちのコメントを見ていると、日本の最重要課題である対中関係について、はなはだ心もとない、と言わざるをえない。自民党は次の総選挙で、いわゆる「保守岩盤層」を取り戻したいはずだが、この調子では、それも難しいのではないか。

日中外交の主導権は既に中国にある

訪中した二階氏は28日、中国の外交トップ、王毅共産党政治局員兼外相と会談した。ところが、会談の大半を王毅氏が発言していたため、なんと「二階氏は領空侵犯問題を提起できなかった」と報じられている。「会談後の夕食会で、双方が意見を述べあった」ようだが、鼻であしらわれたどころか、完全に無視されてしまった。これが「二階外交」の実態である。

中国外務省の林剣報道官は28日の記者会見で「中国軍機はいかなる国の領空にも侵入するつもりはない」と語り、前日の説明を繰り返した。「中日双方は、これについてコミュニケーションを維持している」とも語っている。

中国は「目的は達成した。二階はコントロールした。後は『何も不都合はなかった』で終わりだ」とみているのだ。勝ち誇った顔が目に浮かぶようだ。

こうなったのも、元をただせば、岸田文雄政権が終始一貫して中国に甘い対応をしてきたことが原因である。中国に完全に主導権を握られてしまった。はたして、次の政権は主導権を奪い返せるか。今回の総裁選候補者たちの対応を見る限り、私は悲観的だ。

 
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今回のコラムが最終回になる。2010年1月にスタートして以来、14年間にわたって、延べ760回以上、連載を続けてきた。長い間、支えてくださった読者のみなさまには、心から感謝を申し上げたい。

その代わりというわけではないが、8月から投稿プラットフォームの「note」で、新たな連載「長谷川幸洋の『ニュース展望』」をスタートした。

現代ビジネスで培ったノウハウや知見を活かして、今後は「note」を主舞台にして、私の活字による言論活動を展開していく。原則として週1回(目下は毎日更新中)掲載で、月額500円。他媒体の連載内容も、事情が許す限り「note」に収容していくつもりだ。

現代ビジネス・コラムのクオリティを維持しながら、「note」コラムでは、私の率直な意見、主張も盛り込んでいく。動画はこれまで通り、YouTubeの「長谷川幸洋と高橋洋一のニュースチャンネル」、ニコ生の「長谷川幸洋Tonight」の2本立てで配信する。ぜひ、「note」の定期購読マガジンを、ご愛読いただければ、幸いだ。

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