50ccの原付を代替する「新基準原付」の運転上の取り扱いや車両基準がまもなく決まります。他方、排気量125ccの新基準原付の税金を、50ccバイクと同じにするための省庁間協議も開始。“土俵の外”にいる税制を司る総務省を揺り動かします。

税制未定で来春の通学に間に合うのかへ

 排ガス規制により消滅が見込まれるエンジン車の原付に代わる「新基準原付」の運転上の取り扱いや車両基準について、警察庁と国土交通省が2024年8月30日、相次いでパブリックコメントの募集に踏み切りました。経済産業省は3省庁合同で、新基準の原付に関する税制改正要望を総務省に提出。排気量125ccのバイクを50ccバイクと同じ税額にするための改正について協議が始まりました。


ピンク色のナンバープレートがつく125ccバイクのイメージ(画像:PIXTA)。

「新基準原付」とは、排気量125ccまでのバイクの性能を最高出力4kWに抑えることで、排気量50ccバイクと同等の取り扱いをする区分です。エンジンの性能が違うだけで、車体は同じ。講習を受けただけの原付ライダーでも安全に乗ることができるのか、警察庁は基準作りに足掛け3年をかけました。また、国土交通省は、従来の「定格出力」では不十分であるという前提で、「最高出力」を採用して新しい基準「新基準原付」を作りました。

 一方、総務省が担当する地方税法によるバイク課税は、排気量と定格出力が基準になっています。この基準は昭和の時代から見直しがされておらず、免許制度や車両制度の対応ができた後も、課税制度上の対応ができていません。そのため経済産業省、警察庁、国土交通省が揃って、総務省に対して新しい基準に対応する税制の検討を要望する内容を2024年8月30日に提出しました。

 経産省の地方税に関する要望内容には「現行の第一種原動機付自転車の軽自動車税の標準税率を参考としつつ、適切な税額の適用を要望する」とあり、排気量125ccのバイクに50ccの税額適用を求めていることがわかります。

 国土交通省は道路運送車両法の規則を改正して「新基準原付」に対応する理由を、省令案の中で次のように説明しています。

「大気環境の保全および国際基準調和の観点から新たな排出ガス規制が開始されることになった。一方規制をクリアする原付の開発は困難であり、かつ、開発費用に見合う事業性の見通しが立たず、今後、取得が容易な原付免許で運転できる総排気量50cc以下の現行区分に該当する原付の国内での生産・販売の継続が困難な状況であった」

 こうした状況を打開するため、3省庁は原付の新しい基準を作ったわけですが、総務省は、そうは考えませんでした。

“原付”の基準を変える――税制上は一大事!?

「新基準原付」は、「最高出力」で定義されているため税制にない――税制改正の手続きを踏むことを総務省は求めたわけです。そこで経産省が代表となって地方税の中の軽自動車税を改正する要望につながりました。

 この要望に関して、総務省は今後、約2か月かけて要望省庁と協議します。そこでは要望内容を認めるか否かの判断はされず、11月をめどに開催される自民党と公明党の国会議員で構成される与党税制調査会で検討されることになります。結論は税制調査会が2024年末に公表する令和7年度税制の大綱に示されます。

 さらに、その方針に沿った地方税法改正案が国会に提出された後に、国会での議決を経て新基準原付税制が決まります。

 なぜ、これほど審議の時間が必要なのか――大きな要因は、総務省が税制改正の必要性を判断した後に、省庁間の合意形成に参加するのをやめてしまったことです。

 税制における車種区分「種別割」は、四輪車の場合は、道路運送車両法の省令に連動しています。たとえば、仮に登録車との線引きが排気量360ccから660ccに引き上げられると、税制でも線引きが引き上げられるので、税制改正要望は必要ありません。しかし、税制におけるバイクの車種区分では、排気量125ccまでに50cc以下、90cc以下、125cc以下と税制独自の車種区分が存在しているため、“原付の基準”を変えるだけで、国会審議を必要とする大がかりな手続きが必要とするのです。


手軽なスクーターに代表される原付。実は125ccまでのなかで税制区分が3つに分かれる(画像:写真AC)。

 しかし、総務省は、こうした独自に決めた「種別割」について、自ら改革しようとはしませんでした。

道交法、道路運送車両法はパブコメで施行日を公表

 一方、警察庁と国土交通省が開始した新基準原付に関するパブリックコメントの概要は次の通りです。

 警察庁は道路交通法施行規則の一部改正で新基準原付を定めることについて、一般原付の総排気量等の大きさを「50cc」と定めつつ、「(最高出力4kW以下の原動機を有するものにあっては125cc)」と、カッコ内で新たな基準を設けました。

 国交省は道路運送車両法施行規則の一部改正で、第一種原動機付自転車の基準について「総排気量が50ccを超えて125cc以下かつ最高出力が4kW以下のものを第一種原付に追加する」と定めました。この変更について両省庁は9月28日までの30日間、意見を求めています。

 両省庁の改正の施行は、警察庁の道路交通法施行規則が2025年4月1日、国交省の道路運送車両法が2024年10月下旬を予定しています。

 税制以外が着々と新基準原付の規定を整える中で、「軽自動車税についても不断の見直しを続けている」(自動車税制企画室)と話す総務省。来春のバイクシーズンに新入生が通学の足に選ぶことは極めて難しい状況に陥っています。