国民年金加入5年延長見送りで放置される「保険料の“取られ損”」

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厚生労働省 政治・経済

国民年金加入5年延長見送りで放置される「保険料の“取られ損”」

60歳以上のサラリーマンは1人270万円もの年金損失

 今年は5年に一度の年金財政検証の年で、来年には年金制度改正がある。今回の制度見直しの柱の一つが国民年金(サラリーマンは基礎年金)の加入期間を現行の最大40年(20~59歳)から最大45年(20~64歳)に「5年延長」する計画だった。

 

 来年4月にサラリーマンの「定年延長」(65歳までの雇用継続)が完全義務化され、60歳以降も働くことが一般的になるのに合わせて国民年金の加入期間を延長するものだ。自営業者などは64歳まで加入になると保険料負担が5年分で合計約100万円増えるが、その分、もらえる年金額も増える。

保険料が“取られ損”に

 ところが、去る7月3日、政府は突然、この計画の見送りを発表した。政府の社会保障審議会年金部会の会合で厚労省の年金局長が、「残念ながら批判を一掃できているとはいえない。力不足をお詫びしたい」と異例の謝罪を行ない、理由は「国民の負担増を回避した」と報じられたが、実際は違う。年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。

「国民年金の給付財源の半分は国庫負担です。加入期間を5年延長すると、当然、将来支払わなければならない年金が増えるので国庫負担は年間ざっと1兆円増える。その財源がまとまらなかったのでしょう」

 年間1兆円の年金財源を出し渋ったわけである。それだけではない。実は、今回の計画見送りで60代サラリーマンの巨額の“年金損失”が放置されることになった。

 ほとんど知られていないが、60歳以上の厚生年金加入者は年金を損している。これは、厚生年金は70歳到達まで加入できるが、国民年金は原則60歳(最長40年)まで加入という制度の違いにより起きる。

60歳以降の会社員は年金保険料が10年“取られ損”に

60歳以降の会社員は年金保険料が10年“取られ損”に

 
写真2枚

 サラリーマンが支払う厚生年金保険料には、国民年金に相当する1階部分の「基礎年金」と2階部分の「報酬比例年金」の保険料が含まれている。このうち報酬比例年金は加入期間が長くなるほど増えていくが、基礎年金(国民年金)は加入期間40年で満額となり、その後はどれだけ保険料を払い続けても年金額が増額されない。にもかかわらず40年以上加入しても基礎年金分の保険料は減額されない。

 その結果、高齢サラリーマンには、保険料を払っても基礎年金が増えない“取られ損”が発生している。20歳入社の人は60歳から、大卒22歳入社なら62歳以降に払う保険料がそうなる。

 一体、いくらの損失になるのか。20歳入社で70歳到達まで厚生年金に加入したサラリーマンが支払った保険料がキチンと年金額に反映された場合、65歳からの支給額は現在より年約10万円アップし、80歳までの総支給額は270万円増える計算だ。逆に言えば、制度が見直されない限り、60歳以上のサラリーマンには1人270万円もの年金損失が生じる(掲載図)

14兆円が奪われていく

 本来、国民年金の加入期間延長は、こうした保険料“取られ損”の解消につながるはずだった。前出の北村氏の指摘だ。

「国民年金を45年加入にすれば、60歳以降も厚生年金に加入しているサラリーマンは支払った保険料が基礎年金の金額に反映されることになり、制度の矛盾はかなり解消されたはずです。しかし、見送りにより保険料を払っても増えるのは2階部分だけという矛盾がそのまま残ることになった」

 年金局長が「力不足をお詫び」すべき相手は政府の審議委員ではなくサラリーマンのはずなのだ。しかも、政府がサラリーマンの「年金収奪」システムを温存した裏には、さらなる悪だくみがある。

 現在、雇用延長等で働く60~69歳の会社員は全国に約532万人。政府が保険料を取りながら払わずに済ませている年金額を1人270万円と計算すると、ざっと14兆円もの年金が奪われている。

 そのうえ、雇用延長で60歳以降も会社で働く人は今後さらに増えていく。この仕組みを残したうえで、厚生年金の適用拡大で加入者を増やし、「年金収奪」を加速させようとしているのだ。岸田首相は見せかけの減税や「酷暑対策」はこれでもかとアピールするくせに、やるべき改革をやらず国民の年金損失を拡大させているのである。

※週刊ポスト2024年8月16・23日号

マイコメント

これも財務省の小賢しい計算の上であろう。
いかに国民からお金を騙して搾り取るかという事に余念がない証拠です。

反発は政府に行くと思われるが本当に糾弾しなければならないのは財務省です。
税金を上げることを省定として掲げる財務省は国民の生活の安定よりは省の
権益確保の方を優先するからです。

国民はこの財務省の欺瞞に気付かないといけません。
政府と財務省にその批判の矛先を向けるべきでしょう。

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