マイナ保険証を取得しないと本当にまずい?

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マイナ保険証 マイナンバーカード

マイナ保険証を取得しないと本当にまずい?

「“切り替えなくて大丈夫”と伝えている」 医師が解説

「事実上強制に」

 今年12月2日をもって現行の保険証は「廃止」され、「マイナ保険証」に移行する。その期限まで80日を切ったが、直近のマイナ保険証の利用率は約11%にとどまっている。切り替えるべきか現状維持か……分岐点に立つわれわれが知っておくべきマイナ保険証の「全て」。【前後編の前編】

 

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 マイナンバカードの交付が始まったのは2016年のことである。しかし、

「コンビニで住民票などが取得できる、といったことくらいしか利点がなかったため、全く普及しませんでした」

『マイナ保険証の罠』の著者で経済ジャーナリストの荻原博子氏はそう話す。

推進の「責任者」河野大臣

「そもそも、番号(マイナンバー)さえあれば災害や社会保障対応もできるはず。医療DXありきで個人情報を集めるためにみんなにカードを持たせ、それを民間企業にも使わせる。そのために、任意だったマイナカードに保険証機能を付与し、保険証を廃止することでマイナカードの取得が、事実上強制になってしまった。そこが一番間違っています」

「高齢者で使っている方はほとんどいない」

 河野太郎デジタル相が推し進めてきたマイナカードの問題点について、週刊新潮は繰り返し報じてきた。そして今、われわれはこの「天下の大愚策」に向き合うことを迫られている。現行の保険証が「廃止」されるまで、あと70日余り。マイナ保険証を選ぶか否かの分岐点に立たされているのだ。

 デジタル庁によると、人口に対するマイナカードの保有枚数率は現在、74.5%。そのうち、保険証としての利用登録も済ませている人は80%にのぼる。多くの人がマイナカードを持つに至った背景には、1兆円以上もの税金を使ったマイナポイントキャンペーンなどの影響もあろう。

 しかし、厚労省によるとマイナ保険証の7月の利用率は11.13%。マイナ保険証の利用登録は済ませているものの、病院や薬局の窓口では現行の保険証を使っている人が多い、ということを示す数字である。

「利用率約11%というのは、つまり9人に1人しか使っていないということ。1人しか使っていないほうに一本化して、残りの8人が使っているものを廃止してしまったら、大混乱が起きるのは目に見えています」(同)

 東京都品川区にある秋津医院の秋津壽男院長が言う。

「うちは戸越銀座という下町にあり、高齢者の患者さんが多いので、マイナ保険証の利用率は5%くらいです。使用しているのは30代くらいの若い人ばかり。高齢者の方に限ってみれば、使っている方はほとんどいない感じです」

「制度そのものについて理解していない人が多い」

 それは地方でも同じで、マイナカードの交付率が8割を超える新潟県粟島浦村の保健福祉課の担当者は、

「村営の診療所でマイナ保険証を使う人は数%です。制度そのものについて理解していない人が多いのではないでしょうか」

 と話すし、マイナカード交付率が9割を超えている宮崎県都城市の松山医院の担当者に聞いても、

「利用率は2割弱です。当院の患者様の層が高齢なこともあり、機械での操作に抵抗があるのと、ニュースなどでシステムの不具合が報じられたことによる不安が多いようです」

 同市デジタル統括課の佐藤泰格氏もこう語る。

「マイナ保険証のメリットや、そもそも何のためにあるのかといった存在意義の議論が置き去りになっていると思います。住民の方と話していても『何のために』という部分の理解が欠けていると感じます」

マイナ保険証か「資格確認書」

 現行の保険証が「廃止」されるリミットは刻々と迫っているが、マイナ保険証への理解が進んでいるとは言い難い状況のようだ。ただし、タレントのなかやまきんに君や俳優の内藤剛志などを起用したCMや、病院に貼られた啓発ポスターやチラシを見て、「期限」が近いことを把握している人は多いのではないか。

 一部のチラシに小さな文字で書いてある通り、12月2日時点で有効な保険証は最大1年間有効である。しかし、その後のことについてCMやポスターでほとんど言及されていないのは不可解というほかない。

「現行の保険証が使える“猶予期間”が過ぎてからもマイナ保険証の利用登録をしていない人に対しては、自治体や勤務先の健康保険組合などから『資格確認書』が届けられます。これは現行の保険証の代わりに使えます」(全国紙デスク)

 つまり今後、われわれはマイナ保険証と「資格確認書」、どちらを使うかの選択を迫られることになるのだ。

「患者さんに“12月2日からマイナ保険証しか使えないのか?”と聞かれたら、当院の受付窓口では“今の保険証は12月以降も期限まで使えますよ。期限が来ても資格確認書で大丈夫ですよ”と伝えるようにしています」

 そう語るのは、大阪府守口市にある北原医院院長で大阪府保険医協会副理事長の井上美佐氏である。

「“マイナ保険証を使っていいか”と聞いてくる人には“使って下さい”と言いますが、“使わなアカンのか”と聞かれたら“別に使わなくていいですよ”と答えています。すると、“今からちょっとやっておかないと”といった感じでマイナ保険証を使ってみようとする人がいる一方で、“じゃあやめとくわ”とひっこめる人も結構います」

「更新を忘れていてマイナ保険証が失効した場合…」

 マイナ保険証を選択する場合、医療機関などにある顔認証付きカードリーダーにマイナカードを置き、保険証として登録すればすぐに現行の保険証の代わりに使うことができる。ただし注意が必要なのは、今の保険証は期限が来ると新しいものが送られてくるが、マイナ保険証の場合、5年ごとに自分で更新しなければならない点である。

「更新を忘れていてマイナ保険証が失効している、という状況になった場合、どんな対応をすればいいのか国側は決めていません。病院の窓口対応もかなり混乱すると思います」(前出・秋津院長)

 一方、医療機関の窓口におけるマイナ保険証のメリットとしては、

「70歳から74歳までの高齢者の方は現在、窓口で保険証と共に高齢受給者証を出さなければいけませんが、マイナ保険証の場合、それが必要なくなります」(厚労省関係者)

「電子カルテと連携させてほしい」

 政府広報ではマイナ保険証のメリットについて、

〈今までに使ったお薬の情報や過去の特定健診の結果を、本人の同意があれば医師や薬剤師などと共有でき、正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられます〉

 としているが、この点、精神科医の和田秀樹氏は、

「私は特定健診や処方薬の情報は見たことがありません。電子カルテで見られるようになっていないので、診察していて“この人は薬がらみの問題があるんじゃないかな”と思った時には、お薬手帳を見せてもらうようにしています。政府も本当にマイナ保険証を普及させたいなら、電子カルテと連携させるとか、そういうことを整えてほしいです」

 荻原氏(前出)は、

「政府は、マイナ保険証があればこれまでの医療情報が医者に共有されるので適切な診療が受けられるかのような言い方をしていますが、あれはミスリードだと思います」

 として、こう指摘する。

「マイナ保険証にひもづいているのはレセプト情報です。レセプトとは、医療にかかる請求書で、どういう診療をし、こういう薬を使ったのでいくら請求しました、という請求書情報です。1カ月から3カ月前の古い情報で、検査をしたことは把握できても、その結果がどうだったのかは分からないのです」

 先の井上氏によると、

「薬の情報に関してはお薬手帳のほうが便利です。薬で大事なのは、今、何を服用しているか。例えば、1週間前に歯医者さんに行って抗生物質を処方されたとか、そういうことを確認する必要があるのです。でもマイナ保険証の薬の情報は基本的に1カ月前までのものしか出てこない。それではあまり役に立たないので、お薬手帳で最新情報を確認することになります」

後編【「かかりつけ医に通う高齢者は必要なし」 マイナ保険証は本当に必要? 医師、薬剤師が徹底解説】では、マイナ保険証の意外なメリットなどと併せて詳しく解説している。

「週刊新潮」2024年9月19日号 掲載

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