人生100年時代は、健康こそ最大の資産です。しかし40歳を越えると、がん、糖尿病、腎臓病といった病気を避けては通れません。国立がん研究センターによれば、40~49歳のがん患者数は、30~39歳と比べると3倍以上です(2020年)。もちろん50代、60代と年齢を重ねるにつれ、がん患者数はどんどん増えていきます。
本連載は、毎日の食事から、大病を患ったあとのリハビリまで、病気の「予防」「早期発見」「再発予防」を学ぶものです。著者は、産業医×内科医の森勇磨氏。初の単著『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』を出版し、感染症医・神戸大学教授の岩田健太郎氏が「安心して読める健康の教科書」と推薦文を寄せています。出版を記念し、内容の一部を特別に公開します。
マーガリンが体によくない理由
マーガリンが好きで、朝食でパンに塗る習慣がある人も多いでしょう。しかし、実はマーガリンは現在アメリカでは「販売禁止」になっています。
マーガリンに含まれる「トランス脂肪酸」が体に悪影響を及ぼしているというエビデンスがあるためです。
このトランス脂肪酸とは、クッキーやドーナツを作るときの材料になるショートニング、そしてファーストフードなどにも含まれています。
マーガリンは高価なバターの代替品として「人造バター」という名称で販売されました。植物油から作られるので、動物性脂肪から作られるバターよりも「健康によさそう」というイメージでどんどん普及していきましたが、研究ではまったく逆の結果が出てしまいました。
トランス脂肪酸は体に悪い
トランス脂肪酸を摂取することでLDL(悪玉)コレステロールが増加し、HDL(善玉)コレステロールが低下したというデータがあります(※1)。LDLの増加も、HDLの減少もどちらも心筋梗塞や脳梗塞につながる「動脈硬化」を進行させますので、相乗効果で体に害を及ぼします。
また1日に摂取するエネルギーのうち2%をトランス脂肪酸として摂取することで、心筋梗塞などの心臓病に罹患するリスクが16%も上昇したというデータもあります(※2)。他にも「糖尿病になりやすくなった(※3)」「認知症になりやすくなった(※4)」といった研究も存在し、「トランス脂肪酸はさまざまな意味で体に悪い」と決着がついています。
WHOは2023年までに、「食品に含まれるトランス脂肪酸の一切の根絶」という方針を掲げました。
ここまで強い呼びかけをWHOが行うのは異例です。現在その方針に従ってアメリカ、カナダ、台湾、タイなどの国ではトランス脂肪酸の使用を禁止したり、シンガポールや韓国では食品のトランス脂肪酸の含有量の表示を義務付けたりしています。
では、なぜ日本では販売されているのでしょうか?
なぜ日本で売られている?
日本ではどうでしょうか。禁止はおろかトランス脂肪酸の含有量の表示も義務付けられていません。厚生労働省の主張は次のとおりです。
「1日の摂取エネルギーの中で1%以上摂取すると健康上の影響が出現するといわれているトランス脂肪酸に対して、日本人の平均摂取量は0.3%程度。健康上問題はない」
言い換えると「海外と違って日本人は普段から大してトランス脂肪酸を摂取していないから、規制しなくてもいいでしょう」ということでしょう。また、トランス脂肪酸に関連する日本のマーガリン・ショートニングの市場は大きく、大企業も関係してくる話なので、完全に禁止するのはハードルが高いのかもしれません。
ちなみに、マーガリンからトランス脂肪酸の含有量を減らそうと努力している企業もあります。例えばミヨシ油脂ではマーガリンに含まれるトランス脂肪酸の量を約10分の1にするなど、めざましい成果が出ています。
しかし、国ではなく「個人」の選択として考えると、トランス脂肪酸の害は確実に意識しておくべきです。含有量の記載があれば、個々の食品に対して明確な対応がとれるのですが、表示義務が課されていないのが日本の現状です。
少なくとも「マーガリン、ショートニング、ファーストフードといったトランス脂肪酸が含まれていると見込まれる食品を食べすぎないようにする」という対策は確実に行うようにしましょう。
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