“税の大家”が消費税を上げる必要はないと断言する納得理由
「財源はあります。増税の必要はありません」そう断言するのは昨年3月に亡くなった租税学者の富岡幸雄氏だ。日本の税理士第一号としても知られる“税の大家”は日本の税制をどのように見ていたのだろうか。
ここでは『 消費税は国を亡ぼす 』より一部抜粋。消費税が10%に引き上げられた5年前を振り返る。(全2回の前編/ 続き を読む)
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断行すべきは消費税のサプライズ減税
日本経済が失速してから約30年が経過し、とうとう平成のうちに回復することはありませんでした。これまで安倍晋三首相は、「あらゆる政策を動員し、GDP600兆円を達成する」と非常なる意欲を示してきましたが、施策として挙げられているのはスローガンの羅列にすぎず、肝心の中身が抜けています。
その一方で消費税については、2019年10月から10%へと税率を上げる決断を下しました。
しかし、この増税は景気対策に逆行しています。なんとしてもデフレから脱却しなければならないのに、日本経済へ冷水を浴びせるどころか、大打撃を与えてしまう最悪のシナリオです。
いま、なすべきことは「消費税のサプライズ減税」を断行することです。世間の意表をついて税率を2014年以前の5%に引き下げる。これによって国民を喜ばせ、消費意欲を喚起して内需を拡大する。これを日本経済復活への導火線とするべきです。
消費税減税の財源はある
こう言うと、かならず「財源はどこにあるのだ」と異を唱える層が出現するでしょう。
財源はあります。増税の必要もありません。これまで大企業に寛大な法人税制の様々な恩恵をうけながらも、過去最高となる約446兆4844億円(2017年度)もの内部留保(利益剰余金。金融・保険業を除く)を積み上げている大企業に、「まとも」な納税をしてもらえばいいのです。
いま日本の法人税制は、企業活動のグローバル化にともない、課税逃れもグローバル化したことによって崩壊しかかっています。国境を超えた企業活動に対して国単位の税制が追いついていないのです。また租税特別措置など大企業への優遇措置も目に余るものがあります。こうした状況を是正し、法人税制を再建することによって、私の試算では約9兆円の増収が期待できます。この増収を減税の財源とすればよいのです。
実質的な負担は低い日本の法人税
すると大企業を中心とした財界、多くのメディア、官僚にミスリードされた人たちは、こう叫ぶことでしょう。 「日本の法人税は高い。これ以上、負担を増やすと、ますます企業が海外へ流出して、日本国内の空洞化が進んでしまう」
実際は違います。高いのは法定税率という数字だけであり、実際の税負担は極めて低いのです。しかも企業規模が拡大するにつれて負担率は低下しており、名だたる大企業であっても、「極小」と言っても過言ではない額しか納付していないケースもあるのです。
2014年9月に刊行した『 税金を払わない巨大企業 』(文春新書)において、私はデータを精査・分析して納税額の少ない企業の実名を挙げ、この驚くべき事実を明らかにしました。こうした企業の税負担を本来あるべき水準に是正すればよいのです。
ところが安倍政権では、私の提言とは反対に、消費税の増税と企業減税をセットで推し進めようとしています。
もとよりグローバル経済において、企業は国際競争力の確保が肝要であり、必要以上に重い税負担を課すべきものではありません。「企業いじめ」は企業の活力をそぎ、ひいては国を滅ぼすことも重々承知しています。
しかし問題は、日本経済の基盤となり、リーダーとなるべき巨大企業の税負担が、あまりに過小なことなのです。
日本の稼ぎ頭である大企業に、法律で定められている程度の税の負担を求め、その増収分を財源にして、多くの国民を苦しめている消費税を減税する。くり返しになりますが、これこそ日本経済を活性化させ、社会を明るくし、国民に希望をもたらす一石数鳥となる切り札なのです。
「日本の法人税率は先進国の中で極めて高い」は本当なのか? “税の大家”が指摘するグローバル企業の“本当の負担率” へ続く
「日本の法人税率は先進国の中で極めて高い」は本当なのか? “税の大家”が指摘するグローバル企業の“本当の負担率”
「財源はあります。増税の必要はありません」そう断言するのは昨年3月に亡くなった租税学者の富岡幸雄氏だ。日本の税理士第一号としても知られる“税の大家”は日本の税制をどのように見ていたのだろうか。
ここでは『消費税は国を亡ぼす』より一部抜粋。大企業が払っている“法人税の真実”を解き明かす。(全2回の後編/前編を読む)
税率の国際比較
財務省のサイトをみると、「法人実効税率の国際比較」として、2018年1月現在の各国の国税と地方税の合計の数字が出ています。
この数字だけみると、法人税、法人住民税、法人事業税についての、日本の「法定総合税率」(メディアや財務省などが「実効税率」と表記している数値)は低くないといえます。むしろ高いと思われるでしょう。
しかし、第1章でも申し上げたように、私の実証分析によれば、日本の法人課税の負担率は決して高くありません。税法に「書かれている税制」と、実際に「行われている税制」の間にある税制ギャップが大きいのです。
大企業の税負担は非常に軽い
グローバル企業が中心となっている財界は、「日本の法人税率は先進国の中で極めて高い」と被害者意識をむき出しにしていますし、そのお先棒を担ぐメディアや政府までも、その主張に同調しています。
そればかりか政府税調までも、法人税の法定総合税率を「20%台まで下げる」と政府に要求し、2016年度の税制改正で、それを実現させています。
しかし実際のところ、大企業は計上している利益のわりには、きわめて少ない税金しか払っていません。
第1章の終わりで数字を挙げましたが、有所得(赤字ではなく利益を計上している)全法人をトータルにとらえて、実際の負担率を分析してみると、17.46%(2017年3月期・外国税額を含む)でした。
巨大企業の実際の税負担とは?
これは法律で定められている税率である「法定総合税率」29.74%(2018年度)の6割弱(58.7ポイント)に過ぎないのです。
とくに巨大なグローバル企業の負担率は低く、一方で中堅企業や中小企業は、法定税率に近い税負担を課されています。この点は後述します。
冒頭でも述べたように、必要以上に重い税負担を企業へ課すと国際競争力が失われ、結果的に日本の国力を削ぐことになることは承知しています。
しかし税収が減ったツケをまわされるのは、巨大企業ではなく市井の人々なのです。いま財政赤字が1000兆を超え、その改善を口実に、子どもから年金生活者まで負担を求める消費税が増税されようとしています。
その消費税を主な財源にして、法人税の減税が進められてきたのですから、日本経済の基盤である巨大企業が、実際にはどの程度の税を負担しているのか、それを踏まえた議論をする必要があるのではないでしょうか。
そこでこの後、個別企業の実際の税負担を検証するミクロ的な分析と、統計数値を利用して企業全体を観察するマクロ的な分析を通じて、日本の法人税負担に関する実相を明らかにするとともに、法人税制の真の問題点を示していきたいと思います。
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