プーチンは最新型のミサイルを発射することによって西側にメッセージを送った
いつ起きてもおかしくない核戦争
最近NATOとロシアとの間で行われたミサイル攻撃による応酬は注目に値する。
11月17日、バイデン米大統領はウクライナがロシアの領土内の奥深くを攻撃をするために米国製のATACMSミサイルを使うことに関してゴーサインを与えた。しかし、クルスク方面だけに限るとした。
それを受けて、11月19日、キエフ政権はウクライナに接しているロシア領内のブリヤンスク地域に向けてATACMSミサイルを発射した。だが、これらの6発のミサイルは迎撃されたり、損傷を受け、攻撃の目的を果たさなかった。11月20日、ウクライナ側はロシア領内に英国製のストーム・シャドウ・ミサイルを2発撃ち込んだが、これらもロシア側の対空防衛システムによって阻まれた。
プーチンは先手を打とうとはしない。ロシアが西側からの攻撃を受けた場合、通常、ロシアは西側に向けてそれに匹敵するような規模の報復攻撃を行う。そういった観点から最近ロシア側が見せた反応には興味深いものが感じられる。
11月22日、ウクライナを南北に流れるドニエプル川沿いに位置するドニエプロペトロフスクの防衛産業施設がロシアからのミサイル攻撃に見舞われた。CNNの核戦力の専門家であるファビアン・ホフマンによると、このロシアからの攻撃は核攻撃のメッセージであったと言う。(出典:Strike on Dnepropetrovsk missile “Hazel” was a nuclear warning — Hoffman: By eadaily.com, Nov/22/2024)
ロシアが使用したのは「オレシュニク」ミサイルで、マッハ10の飛行速度を持った中距離型の極超音速弾道ミサイルであった。「オレシュニク」とは初めて聞く名称だ。ウクライナ側には迎撃の手段がない。しかも、このミサイルは、必要とあれば、6個の核弾頭を搭載することが可能で、複数の目標を一発のミサイルで攻撃することができる。これでは、ウクライナがたとえ米国製のATACMSミサイルや英国製のストーム・シャドー・ミサイルを使うことができるとしても、ロシア軍の軍事的優位性の前ではお手上げだ。
NATOの首脳はこの冷厳な現実について理解できている筈であるが、われわれ一般庶民の頭をもっとも悩ませるのはヨーロッパに配備されている米軍の原爆の存在である。つまり、軍事的に行きつく所まで行くしかないという将軍たちの自暴自棄の思考だ。将軍たちは原爆を手にしていながらも、ロシアからの最新鋭の極超音速ミサイルの圧力に屈服するのであろうか。おそらく、そうとは言えないのではないか。米国人の思考形態には「われわれが一番優れている」とか「米国の軍事的優位性」とかいった考えが根強く残っており、たとえそれがすでに時代遅れの理解であることが分かっていても周りからの提言には関心を持とうともしない。そんな傲岸な態度を見せることが多い。そういった彼らの態度に関しては、イラクやリビア、および、アフガニスタンで何百万人もの非戦闘員を殺戮しても何の反省をも見せなかった歴史的事実が存在する。さらに言えば、ロシアとウクライナがイスタンブールでの会議で和平案を内定した直後に英国の首相がキエフに乗り込んで、「和平なんてするな!俺たちが支援するから、戦え!」と米国からの命令を伝え、ウクライナに昨今の窮状をもたらしたことは記憶に新しい。こういった西側の思考形態が導くウクライナにおけるロシアとの代理戦争は容易に全面核戦争になってしまうリスクを秘めていると言えるのではないか。
ここに、「プーチンは最新型のミサイルを発射することによって西側にメッセージを送った」と題された記事がある(注1)。米国の専門家の意見を覗いてみよう。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がロシアに対する欧米製の長距離ミサイルの使用許可を嘆く中、退役CIA諜報部員で元国務省職員でもあったラリー・ジョンソンはこれらのミサイルは今は亡き「INF条約」の規定に該当すると指摘している。
「かって、中距離核戦力全廃条約が調印されたことを思い出していただきたい。同条約は1987年12月にロナルド・レーガンとミハイル・ゴルバチョフの手によって発効となった」とジョンソンはスプートニクに語った。「そして、その条約は弾道ミサイルや巡航ミサイル、射程500〜1000kmの短距離ミサイル発射装置、1000〜5500kmの中距離ミサイル発射装置を対象にしたものであった。」
彼によれば、ウクライナのドニエプロペトロフスク市に対する最近のミサイル攻撃は、西側諸国とINF条約を「一方的に破棄した」米国に対してプーチン大統領がメッセージを送るためのものであったという。
米国が一方的にこのINF条約を破棄したという事実は、ウラジーミル・プーチンが米国と西側諸国に「あんたたちがこの条約を破棄したんだ。さて、われわれが持っているものを見せてあげよう」と行動したとジョンソンは詳しく説明をする。
前述のドニエプロペトロフスクへの攻撃はロシアが「多核弾頭の搭載能力を持つ短・中距離弾道ミサイルや中距離弾道ミサイルの両方を開発したことを示すものだ。これは、ひとつのミサイルが分散可能な複数の弾頭を搭載できるもので、複数の独立した再突入体を指す」と説明している。
関連記事:Putin: Russia Strikes Ukrainian Defense Facility With New Oreshnik Ballistic Missile, Nov/21/2024
「これを特に興味深いものにしているのは、このミサイルは極超音速であって、西側の対空防衛システムはそれを迎撃することができないような速度で飛来する点だ」とジョンソンは付け加える。「だから、ウラジーミル・プーチンは、ドニエプロペトロフスクのひとつの防衛産業施設を破壊することによって、欧米に対して、さらに多くのミサイルがこれに続くという非常に明確なメッセージを送って来たのだ。われわれははたして西側が、今、引き下がるのかどうかを見守ることになろう。」
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これで全文の仮訳が終了した。
ヨーロッパには米国の核弾頭が保管されている。5カ国にある6カ所の米空軍基地(イタリアのアビアーノとゲディー基地、ドイツのビューケル基地、トルコのインサーリック基地、ベルギーのクライン・ブローゲル基地、および、オランダのヴォルケル基地)に合計で約100個の核爆弾が保管されている。これらの核爆弾の威力は約50キロトン以下であり、必要に応じて、爆撃機に搭載される。(注:広島や長崎に投下された原爆はそれぞれが15キロトン、21キロトンであった。)
そもそも、ロシア・ウクライナ戦争は米国の支援の下でウクライナで推進されたマイダン革命によって民主的な選挙によって選出されていたヤヌコヴィッチ大統領を暴力的に政権の座から追い出し、傀儡政権を樹立した2014年前後からその下地が整えられて行った。専門家によっては、さらに10年前に起こったオレンジ革命の頃から続いていたと解説する。クリミア半島の住民は住民投票でウクライナからの独立を圧倒的多数で可決し、後にロシアへ帰属した。キエフ政府は東部2州に住むロシア語を喋る住民に対して年金の支給を停止したり、砲撃を行い女性や子供たちの命を奪っていた。2020年の始めにはこのような武力攻撃が以前よりも一段と強化され、ロシアの介入を扇動した。ついに、ロシア政府はロシア語を喋る地域住民を防護するためにウクライナにおいて特別軍事作戦を行うことを決断した。
こうした背景については西側の主流メデイアはまったく報道せず、2022年2月24日に「ロシアは何の理由もなくウクライナへの軍事侵攻を突然開始した。プーチンは大悪党だ」とのプロパガンダを喧伝した。
プーチンからの最後通牒を受け取って、あるいは、最近のロシアにおける核ドクトリンの変更を受けて、ヨーロッパにおける米空軍基地では核弾頭を爆撃機に搭載し始めているのではないだろうか?結局のところ、ロシアの極超音速ミサイルを迎撃することが可能な対空防衛システムを持ってはいないにもかかわらず、西側のリーダーたちがこのメッセージを正しく理解するだけの政治的勇気を持っているのだろうか、さらには、無辜の市民の生命を守り、文明を存続させるという極めて人道的な責任を感じ取るだけの器量を備えているのかどうかが試されようとしていると言える。
参照:
注1:Vladimir Putin Puts US and West ‘On Notice’ with State-Of-The-Art Missile Strike: By Sputnik, Nov/21/2024
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