ホンダ・日産の経営統合は失敗する。実質「救済」でホンダにとってメリットなしか=澤田聖陽
ホンダにとって実質的なメリットはなし、救済に終わる。
ホンダ・日産が経営統合へ
12月23日、ホンダと日産は経営統合に向けて本格的な協議に入ったと発表した。2026年8月に持ち株会社を設立し、ホンダと日産がそれぞれ傘下に入る。
三菱自動車も2025年1月末をめどに参画するかどうかを決断する。
3社の経営統合が実現すれば、販売台数735万台(2023年ベース)となり世界第3位の自動車グループが誕生する。
きっかけはホンハイによる買収の動き
ホンダと日産は2024年3月15日に自動車の電動化・知能化時代に向けた戦略的パートナーシップの検討を開始すると発表しており、資本提携に至る可能性も噂されていた。
その後、日産が2024年4~9月期(中間決算)で、前年対比90%減の減益、全従業員の7%に当たる9,000人の人員削減を発表したことで、日産の動きがにわかに注目されていた。
それでもホンダと日産の経営統合がすぐに動き出したわけではない。
動きが急に早くなったのは、台湾企業の鴻海精密工業(ホンハイ)による日産買収の動きが表面化してからである。
ホンハイはEMSと呼ばれる、電子機器の受託製造を行う業態の世界最大手企業であり、一般的にはアップルのiPhoneの組み立て業者として広く知られており、日本ではシャープを買収した実績もある。
近年では電気自動車(EV)に事業領域を拡げようとしており、自社製EVの製造・販売まで視野に入れているようだ。
日産は今後EVビジネスを拡大させたいと考えているホンハイにとって魅力的な買収対象であったわけである。
ちなみに時価総額を見てもホンハイが約12兆円に対して日産は2兆円弱と圧倒的な差があり、ホンハイは資金力も潤沢であるため、日産を買収することは資金面では容易だ。
ホンハイの動きに危機感を持った日産はホンダとの経営統合を急いだということだろう(おそらくその裏には経産省などの官庁の動きもあったのではないかと推察している)。
経営統合によるメリットは?
今回経営統合で発生するシナジーとして記者会見時に資料で発表されたのは、以下の7つである。
1. 車両プラットフォームの共通化によるスケールメリットの獲得
2. 研究開発機能の統合による開発力向上とコストシナジーの実現
3. 生産体制・拠点の最適化
4. 購買機能の統合によるサプライチェーン全体での競争力強化
5. 業務効率化によるコストシナジーの実現
6. 販売金融機能の統合に伴うスケールメリットの獲得
7. 知能化・電動化に向けた人財基盤の確立
見ていただいてわかるとおり、スケールメリットやコスト削減が主である。
スケールメリットやコスト削減以外のシナジーがなければ失敗する
M&Aではスケールメリットやコスト削減というのは一番わかりやすい統合効果であるが、スケールメリットしかメリットがないのであれば、M&Aは一般論としては失敗する可能性が高い。
この場合の失敗とは、単独のまま経営した場合にホンダが1、日産が1として、経営統合で1+1が2以上になればM&Aは成功だったということになるが、2以下になれば失敗ということになる。
そもそもM&Aは失敗する可能性がけっこう高く、1+1が2以下になる可能性自体が高いのだが、今回のホンダと日産の統合は2以下になる可能性がかなり高いと考えている(三菱自動車が合流した場合は1+1+1が3以下になる可能性が高い)。
企業の統合には決算書などに表れない企業カルチャーなどの部分があり、そのような部分はM&Aではかなり大きな影響を及ぼす要素となる。
企業カルチャーが合わないなどの要素はM&Aでマイナスに作用する要素となるのだが、統合によるメリットがスケールメリットだけだと、そのようなマイナス要素が顕在化した場合、M&Aの効果がマイナス(1+1が2以下になる)になる可能性が高い。しかもリストラなどが伴えば、そのようなマイナス面の顕在化の可能性はより高くなるだろう。
個人的にはホンダと日産の企業カルチャーはかなり乖離があると感じる。
ホンダもかつてほどの先進性はなくなっており、近年では悪い意味での官僚的体質も見られるようになっているとも言われるが、日産はその比ではないだろう(そのような日産の官僚的体質が今の経営危機をまねているわけだ)。
実質的にはホンダによる日産の救済
会見ではホンダによる日産の救済ではないかという質問に対して否定していたが、誰が見てもホンダによる日産の救済だろう。
問題はホンダによる救済であるのに、ホンダ主導でという面がいまいち弱いことだ。
持ち株会社の社長はホンダから選出し、取締役会の過半数はホンダから出すとしているが、ハレーションが起こらないようにバランスを重視して、圧倒的にホンダが主導して経営を行っていくという感じは受けない。
そもそもホンダにとっては今回の経営統合は強く望んでという感じではなく、ホンダ側のメリットがいまいちわからない。
個人的にはむしろデメリットの方が大きいのではないかと考えるし、記者会見での三部社長の表情にもいまいち乗り気ではない感じが表れていたように感じた。
現状では基本合意(MOU)の状態で、今後協議を進めていけば破談になる可能性もあるのだが、個人的にはまだ成立する可能性は50%/50%ではないかと考える。
その方がホンダにとっては長期的に良い結果になるかもしれないとさえ思う。
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