「社会保険料」で収入の3分の1が消滅…現役世代は「奴隷」なのか?
「社会保障依存国家」日本の暗い未来
悲惨すぎる日本の「家計」
カネがない、カネがないと言うが、日本人は今、何にカネを使っているのだろうか。
結論から言おう。日本全体をひとつの家庭だとすれば、収入の3分の1が、医療費や老親の生活費・介護費に消えていく。もう3分の1で、年収をはるかに超える額の借金を返している。そして、残った3分の1足らずから食費や住居・光熱費、子供の教育費をひねり出す……そんなカツカツの状態である。
実際の金額を見てみると、国の予算は一般会計と特別会計に分かれており、あわせておよそ320兆円(重複などを除く2024年度純計)。うち116兆円あまりが、年金、医療、介護などの社会保障に費やされている。
国債費、すなわち借金の返済に使われるのがおよそ118兆円。残りのたった86兆円で、公共事業や教育・子育て、経済対策、エネルギー、防衛など、あらゆる予算をまかなっているのだ。
経済企画庁・内閣府に勤めた元官僚で、関東学院大学経済学部教授の島澤諭氏は、「しかも、日本人は平成期以降、転げ落ちるように貧しくなっています」と指摘する。
「1世帯あたりの平均所得は、ピークの1994年には664・2万円でしたが、2022年には140万円も下がって524・2万円になった。もう30年間も右肩下がりが続いているのです。
原因は、経済の低迷だけでなく、重すぎる税金と社会保険料の負担です。1994年には世帯平均年間117・4万円だった所得税や社会保険料などの負担額は、2022年には134万円を超えました。所得が下がったのに、負担は上がっているわけです」
いびつな国になってしまった
さらに細かく見れば見るほど、絶望は深まるばかりだ。
まず社会保障に使われているカネでは、高齢者関係、つまり年金や高齢者医療費などが約66%を占め、金額にして84兆円を超えている(22年度)。ちなみに、子育て関連給付費は10兆円強にすぎない。
言うまでもなく、日本の年金は賦課方式、つまり「いまの現役世代が納付したカネが、いまの高齢者に支給される」しくみである。また75歳以上の後期高齢者医療費についていえば、全体の金額およそ17兆円のうち、患者本人の負担は1割に満たない一方、4割にあたる約6・6兆円が現役世代が支払う支援金、つまり「仕送り」でまかなわれている。
島澤氏は警鐘を鳴らす。
「高齢者数がピークを迎える2040年には、日本人の3人に1人、約4000万人が65歳以上になり、社会保障費の総額は190兆円まで膨れ上がるとも予測されています。
このようないびつな形で国を運営していくのは、明らかに無理がある。なんとか早急に、社会保障費を削減しなければならないことは論をまちません」
税金や社会保険料が、今も密かに上げられ続けていることはこちらの記事でも詳述したとおり。日本社会は、手厚い社会保障制度を延命させるため、現役世代をまるで「奴隷」のように搾取している……目を背けたくなる人も多いだろうが、ありのままの事実を直視すれば、そのように言わざるを得ないのだ。
社会保障を利用する「政治家の思惑」
こんな不合理なしくみが生まれ、そして長年、手つかずになってきた原因は政治にある。
現在につながる国民皆保険・皆年金制度が始まったのは、池田勇人政権下の1961年(昭和36年)。列島が「岩戸景気」に沸き、池田総理が「所得倍増計画」をぶち上げた、まさにその頃だ。
「当時は若年人口が増えていく一方、戦中期に苦労して国や家族を支えた、相対的に貧しい世代が高齢期を迎え始めていました。好景気のうえ、高齢者人口も全体の6%ほどでしたから、手厚い年金や医療制度も無理なく運営できたのです」(島澤氏)
そして1973年(昭和48年)には、田中角栄総理が「福祉元年」をうたい「老人医療無料化」を全国に広げた。背景には、社会党の勢力拡大や、革新系の東京都知事・美濃部亮吉氏が東京で高齢者医療費を無料化したことに自民党が危機感を抱いたという、政治的な思惑もあった。
いま、年明けのラジオ番組で石破総理が「大連立」について「選択肢はある」と否定しなかったことが、波紋を広げている。主要政党である自民党、公明党、そして立憲民主党は、高齢者福祉を重視する点で一致する。夏の参院選にむけ、「社会保障の維持」を掲げて大連立を組む可能性は決して小さくない。
「社会保険料依存」が日本をダメにする
だが他方で、政界でも「現役世代の手取り増」を掲げる政党や議員が、勢いを増しつつあることは周知のとおり。もし今後、このいびつな構造を打破することができるとすれば、どんなプランがあり得るのだろうか。
元財務官僚で、明治大学大学院専任教授の田中秀明氏が言う。
「参考にすべきは、手厚すぎる社会保障で経済成長が鈍ったことや、正規・非正規の格差が問題になり、1980年代から改革が進められてきたオランダです。
オランダは年金・医療・介護保険の負担を保険料から『社会保障目的税』に変え、基本的には個人負担にしました。そして負担が増えた分は、企業に給料を増やすことを義務づけたのです。税なので所得がなければ負担しなくてよいですが、給付は誰でも保障されます。これにより、パートタイマーなどの『年収の壁』がなくなりました。
日本の社会保障は過度に保険に依存しています。保険料は低所得者ほど負担割合が高く、現役世代ほど負担が重い。そして保険で年金・医療は充実しても、子育てや教育は充実させられません。人材を育てられなければ経済は成長しない。『社会保険料依存』からは、一刻も早く脱却するべきです」
蛸が自らの脚を食べたところで、そう長くは生き延びられない。世代を問わず、日本人一人ひとりに決断の時が迫る。
日本人の「世代間格差」を示す「5つの数字」
「週刊現代」2025年1月25日号より
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