知能は老化ではなく「頭を使わないこと」で衰えるとの研究結果

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脳と意識 科学

知能は老化ではなく「頭を使わないこと」で衰えるとの研究結果

よく頭を使う人は年を取っても能力が成長し続けることが判明

一般的に、認知機能は20~30代という人生のかなり早い段階から衰えはじめるといわれており、加齢によるスキル低下は高齢化が急激に進む現代社会にとって深刻な脅威となっています。しかし、文章力や計算能力といったスキルが年齢とともにどう変化するかを調べたドイツの研究により、仕事などでよく頭を使っている人は高齢になってもスキルが高まり続けることがわかりました。

Age and cognitive skills: Use it or lose it | Science Advances
https://www.science.org/doi/full/10.1126/sciadv.ads1560

Reading, math skills boost cognitive abilities and prevent brain aging in seniors – CHOSUNBIZ
https://biz.chosun.com/en/en-science/2025/03/06/VHGQLWTFMBFUPFAU3I77WW572Q/

アメリカのスタンフォード大学と、ドイツにあるベルリン経済大学およびミュンヘン大学の研究チームは、2025年3月5日に査読付き科学誌のScience Advancesに掲載された論文の研究で、16歳から65歳の成人が受けた能力テストの成績を分析しました。


このテストは、OECDが実施している「国際成人力調査(PIAAC)」の一環として行われたもの。他国と異なり、ドイツでは3年半後に再度テストを実施する追加の研究プロジェクト「PIAAC-Longitudinal」が行われていたので、研究者らは加齢による認知スキルの変化を正確に測定することができました。

2回のテストを受けたドイツ人参加者3263人の平均年齢は41.3歳で、そのうち管理職や専門職、技術職などのホワイトカラー職に就いている人は37.8%、高等教育を受けた人は30.6%でした。

まず、世界39カ国で行われた1回目のテストの結果が以下。合計14万7667人が参加したこのテストにより、読み書き能力(左)と計算能力(右)は20代~30代が最も高く、40代以降では大きく低下することがわかりました。


1回限りのテストでは、年齢とスキル低下の関係が加齢ではなく世代の格差によるものの可能性が否定できません。そこで、研究チームが読み書き能力と数的思考力の経時的な変化を分析したところ、横断的なデータとは大きく異なるパターンが浮かび上がりました。

以下は、時間をおいて2回のテストが行われたドイツのデータをグラフにしたもので、上は年齢とスキルの関係を、下は年齢ごとのスキルの変化率を表しています。まず読み書き能力は20代と30代で大きく上昇し、30代後半から横ばいに転じた後で46歳でピークを迎えましたが、その後の衰えは限定的でした。また、数学力は41歳でピークに達した後に大きく減少しましたが、20代前半のレベルを下回ることはありませんでした。


仕事などでよくスキルを使う人(赤線)と、あまり使わない人(青い破線)に分けて分析した結果はさらに顕著で、スキルをよく使う人は読み書き能力と数的思考力が低下するどころか60代まで成長し続けました。一方、スキルの使用頻度が低い人は30代半ばから能力が衰え始めました。


仕事がホワイトカラー(赤線)かブルーカラー(青い破線)かで分けた分析(上段)や、高学歴(赤線)か非高学歴(青い破線)かで分けた分析(中段)でも、同様の結果となりました。また、女性(赤線)と男性(青い破線)で分けた分析(下段)では、女性の各スキルが40代から低下することがわかりました。特に数学スキルの男女差が顕著な理由の一部は、男性の方が数学をより頻繁に使用するためではないかと、研究チームは指摘しています。


研究チームによると、最も重要なのは頻繁に頭を使っているかどうかだとのこと。なぜなら、ホワイトカラーや高学歴の人であっても、40代以降も能力が向上していくのはスキルの使用頻度が高い人に限られているからです。同様に、ブルーカラーや低学歴のグループでも、スキルを頻繁に使用する人は年を取っても能力が衰えませんでした。

研究チームは、「高齢になるとスキルが低下するのは、スキルの使用が平均以下の人だけで、使用頻度が平均以上のホワイトカラーおよび高学歴の労働者は、40代を過ぎてもスキルが増加していました。スキルの活用により認知力の低下を避けうるとの結果は、高齢化社会を抱える国々にとってはいいニュースですが、能力の維持は自動的ではなく、能力を活用することによる刺激があるかどうか次第のようです」と述べて、生涯学習の必要性を強調しました。

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