8年ぶりに低下した「国民負担率」のカラクリ…じつは「国民負担額」は増えていた!

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8年ぶりに低下した「国民負担率」のカラクリ…じつは「国民負担額」は増えていた!

国民所得が増えたとする統計上のカラクリで低く見せているだけで実際は国民負担は増えていて、2025年度はさらに増える。

期的な国民負担率低下ではあるが

財務省が発表した2023年度の国民負担率の「実績」値は46.1%と過去最高だった22年度の48.4%から低下した。前年と同率だった年度はあったが、低下したのは2015年度以来、8年ぶりのことだ。毎年、国民負担率が過去最高を更新し続けてきたことを考えると、画期的な出来事だと言える。

by Gettyimages

国民負担率とは租税負担と社会保障負担の合計が国民所得の何%を示すかという指標で、毎年2月に公表されている。今年は予算成立が遅れた関係か、発表が3月にずれ込んだ。

1年前に財務省が公表していた2023年度の国民負担率の「実績見込み」は46.1%で、見込み通りの実績になったのもほぼ前例がない。2月の発表では、前年度の「実績」と、3月末で終わるその年度の「実績見込み」、4月から始まる翌年度の「見通し」の3つの数値が毎年発表されるが、見通しや実績見込みでは「国民負担は下がる」と言いながら、実績になると「過去最高」を更新するというまやかしが毎年繰り返されてきた。そういう意味でも画期的なことだった。

実は、2023年10月23日の臨時国会における岸田文雄首相(当時)の所信表明演説で、首相自身がこう述べていた。「30年ぶりの3.58%の賃上げ、過去最大規模の名目100兆円の設備投資、30年ぶりの株価水準、50兆円ものGDP(国内総生産)ギャップの解消も進み、税収も増加しています」と胸を張ったのに続けて「その一方で、国民負担率は所得増により低下する見込みです」としていた。

つまり、2023年度の国民負担率は「見込み」として低下するということを首相自らが語っていたのだ。もちろん、所信表明演説は各省庁が書いた原稿を首相が読んでいるわけで、これが達成できないと、財務省は堂々と首相にウソをつかせたことになってしまう。担当者は冷や汗ものだったのではないか。

当時、岸田首相が「国民負担率」を持ち出したのは、岸田首相が少子化対策の目玉として打ち出した「子ども・子育て支援金」の財源を、社会保険料の上乗せで賄うとした際、社会保険料に上乗せしても国民負担率はむしろ下がると家計への影響が軽微であることを説明するためだった。その後も法案が通るまで、国民負担率は上がらないと言い続けた。その国民負担が増えないという理屈も、分子である税金や社会保険料が増えても、それ以上に分母の国民所得が増えるので、負担率は下がるというものだった。

負担「額」は1.7%増

今回の発表を見ると、2023年度の実績で、国民所得は409.6兆円から437.8兆円に6.8%も増えている。つまり分母の国民所得が大きく増えたことで、国民負担率は低下したわけだ。

だが、決して分子の租税負担と社会保障負担が減ったわけではない。租税負担は120.4兆円から122.1兆円に1.4%増加、社会保障負担も77.8兆円から79.6兆円に2.3%増えた。

租税負担と社会保障負担の合計では198.2兆円から201.7兆円に1.7%、金額にして3.5兆円増えている。つまり、国民負担率は低下したが、国民負担額は増えたということだ。3.5兆円と言えば、消費税1.5%分に相当する。この負担増は問題ないのか。

財務省の言い分は、負担額以上に所得が増えたのだから、問題ないだろう、というものだ。岸田首相が「子ども・子育て支援金」の財源として社会保険料を上乗せしても、それ以上に所得が増えるのだから国民の負担は増えない、と言ったのと同じ理屈だ。

だが、問題は、本当に国民の所得がそんなに増えているのか、だ。多くの人が感じているのは、給与はいく分増えたとはいえ、それを上回る物価上昇で、生活は日々苦しくなっている、というものだろう。

「物価上昇率を上回る賃上げ」と言い続けた岸田首相の公約は、在任中にはついぞ実現せず、名目賃金が上がってもそれ以上に物価が上がる状況が続いた。国民からすれば、生活が困窮の度を深めているのに、そこにさらに租税負担、社会保障負担が覆いかぶさる結果になっているわけだ。

また、国民所得は個人(家計)の所得だけでなく、企業の所得も含まれる。つまり、企業の儲けが増えても、その分給与が払われなければ、見た目の国民負担率の低下と個人の実感はかけ離れたものになる。企業収益の何%を給与として払っているかを「労働分配率」と言うが、これは低下を続けている。

今年の発表では、2024年度の「実績見込み」でも国民負担率は45.8%に低下するとしている。だが、ここでも低下の理由は国民所得の大幅な増加だ。国民所得の見込みは452.8兆円と3.4%増えることになっている。租税負担と社会保障負担は207.3兆円と5.6兆円も増える見込みだ。まさに、国民負担「額」は大きく増えるのに、国民負担「率」は低下すると言っているわけだ。

 

財務官僚の説明をそのまま書いたから

この発表を報じた新聞などのメディアは、こぞって2024年度の「実績見込み」の国民負担率が45.8%と0.3%ポイント低下するという見出しを立てた。こぞって昨年実施された「定額減税」が負担率低下につながったと書いている。日本経済新聞の見出しだけ上げると「24年度国民負担率45.8% 財務省発表、定額減税で低下へ」といったものだ。

例年、発表を受けた新聞は「実績見込み」を見出しにとることはまずない。翌年度の「見通し」を見出しにすることがほとんどだ。今回、実績見込みを揃って見出しに立てたのは、財務省の記者クラブでの財務官僚の説明をそのまま書いたからだろう。財務省は、定額減税で国民負担は減ったと言いたいわけだ。

おそらく財務省は、来年度の「見通し」については重点をおかずに説明したのだろう。2025年度の国民負担率の見通しは46.2%と、再び上昇する。わざわざ注記に「小幅に上昇していますが、令和6年度(筆者注・2024年度)の定額減税による影響を除けば、租税負担率及び国民負担率ともに、小幅の低下となります」と書いている。

2025年度の国民所得の見通しは462.6兆円。24年度よりさらに2.1%増える見通しをベースに負担率を計算している。では負担「額」はどれぐらい増えるのか。何と213.7兆円と3.1%も増える見通しだ。防衛増税も始まるので、当然の増加とも言える。金額にすると6.4兆円も増える見込みなのだ。

物価上昇で実質所得が増えない中で、政府はせっせと増税と社会保険料の増額に舵を切っている。国民負担率が8年ぶりに低下した、と無邪気に喜んでいる場合ではない。



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