トランプ氏は「意図的」に米国を不況に陥れ、そして株式市場の混乱を導こうとしているのか?
米国を積極的に不況に追い込むわけではないにしても、トランプ氏とベッセント氏は間違いなくそれ(不況の到来)を歓迎するだろう
意図的な不況
米ゼロヘッジが、昨日、「トランプ氏は米国を不況に陥れようとしているのか?」という非常に長い記事を掲載していました。
ゼロヘッジは、グリグリの保守派メディアであり、トランプ大統領と共和党の絶対的な信奉者たちでもあります。
しかし、そういう「誰の支持者か」ということと関係なく、ゼロヘッジは 1ヶ月ほど前、X に
「最終的には不況が訪れることは間違いない」
と、投稿していました。
この投稿は、特に共和党支持者たちから大きな反発を受けたようですが、しかし、今回のゼロヘッジの記事を読みますと、
「やはり、不況と株式市場の混乱は避けられない」
ことがわかります。
先日、「世界同時多発恐慌がまさに今始まった」という記事を書かせていただきましたが、そこに、アトランタ連銀の「GDPナウ」(最も信頼性が高い GDP 予測モデル)が、3月3日時点の GDP 推定値として、以下のように「突如の急落」を示していたグラフを載せました。
GDPナウの2025年の実質GDP推定値の推移:第1四半期
GDPNow
この後、3月6日に新たな GDP 予測が発表されていますが、基本的には同じです。
ご紹介させていただくゼロヘッジの記事は、長い上に、やや難解な部分も多いのですが、最も重要な点としては、以下の 2点があります。
・バイデン政権下で米国が不況に陥らなかった理由は、激しい債務を繰り返していたため。当時、米国の債務は 100日ごとに、日本円で約 150兆円ずつ増加していた
これがなくなるということです。
もうひとつは、
・これまでの米国は、政府支出を GDP の一部として計算していたが、それをやめると発表されたこと。
などにより、GDP が劇的に下がることが予測されます。
トランプ政権の商務長官であるラトニック氏は、テレビで以下のように述べていました。
「ご存知のように、米国政府は歴史的に GDP を操作してきました。政府は政府支出を GDP の一部としてカウントしています。ですから、私はこの 2つを切り離して透明性を確保します」
つまり、「歴史的に操作されてきた米国の GDP 」を、そうではない GDP の計算として発表するというようなことだとすると、先ほどのアトランタ連銀の予測値よりも下がる可能性があります。
また、トランプ政権は、「株式市場に介入する意志がない」ため、株式市場(あるいは他の市場)に混乱が起きても、政府が介入することはないと明確に述べています。
トランプ大統領自身が以下のように述べています。
「(株式市場に)多少の混乱は起きるかもしれない」
この「多少」が、どの程度の振り幅によるかによるのでしょうが、比較的近いときに、「多少」の混乱が株式市場に起きる可能性はかなり大きいようです。当然、政府はまったく介入することはないでしょう。
それでも、ゼロヘッジは少し先の状態は楽観していて、2026年11月の中間選挙までには、景気も市場も浮揚するだろう、としています。
それはどうなのか私にはわからないですが、ともかく、非常に長い記事でもありますので、そろそろ記事をご紹介します。
なお、みずほやモルガン・スタンレーなどのアナリストのレポートが示されていて、記事にはリンクがあるのですが、ログインして承認を受けてからレポートをダウンロードするタイプのものですので、リンクは割愛しています。
太字はおおむねオリジナルのままです。
トランプ氏は米国を不況に陥れようとしているのか?
Is Trump Trying To Push The US Into A Recession?
zerohedge.com 2025/03/11
1か月前、イーロン・マスク氏の DOGE (政府効率化省)が政府の資金洗浄機構からどれだけの資金を削減しているかを初めて認識したとき、当時の私たちは物議を醸す観察をした。
それは、(ディープステートが洗浄した)多額の資金が経済から流出しようとしているため、米国はまずワシントンDCで、その後、米国全体で不況に陥るだろうというものだった。私たちは以下のように書いた。
ゼロヘッジの2月9日の投稿より
ここで、現在進行中のより大きな動きと、DOGE に対するわずかな反発しかない理由について説明したい。十分な支出を削減すれば、たとえそれが詐欺や不正行為であっても、最終的には不況が訪れることは間違いない。議会が待っているのはそれだけだ。
なぜなら、彼らは「緊急事態」を利用して、DOGE の支出削減をすべて上回る、はるかに大規模な支出パッケージ を可決するからだ。
政府を合理化しようとするマスク氏の取り組みは称賛に値するが、最終的に最終決定を下すのは議会だ。そして、状況はいつもと変わらず現状維持となる。
この投稿に対しての、特にトランプ支持者からの反発の大きさに私たちは驚いた。
しかし、この投稿は、トランプ氏が政権に就いてまだ数週間しか経っていない新政権に対する批判を意図したものではなかった。
むしろ、米国経済がずっと以前に不況に陥らなかった唯一の理由は、 2003年夏に初めて説明したバイデン氏の前例のない債務発行ラッシュ(1兆ドルのステルス景気刺激策)のせいであり、米国の債務は 100日ごとに 1兆ドル(約 150兆円)ずつ急増したと、私たちはずっと前に説明していた。
しかし、今やその借金パーティーは終わりを迎えつつあるようだ。
当然ながら、この債務時限爆弾を解除することこそが、まさにイーロン・マスク氏が着手したことであり、バイデン政権下で頂点に達した、すべての破滅的な傾向を元に戻すプロセスは、必然的に景気後退をもたらすだろう(債務の山が記録的な急上昇を続けるのを許したことが、避けられない経済減速を遅らせた唯一のものであったのと同じように)。
それでも、私たちの観察は、「米国例外主義」貿易がほんの数日間ではあったとしても、まだ大流行していた時期に行われたものであり、したがって、それを受け入れる意思のある人はほとんどいなかった。
その後、少しずつ感情は変わり、ほんの数週間後には、ウォール街は、みずほのドミニク・コンスタム氏による以下のレポートのような、数週間前に私たちが言ったことを「発見」したレポートであふれていた。
つまり、DOGE の取り組みは、まず政府で、次に他のあらゆる場所で、新たな不況を引き起こすだろうということだ。
みずほのドミニク・コンスタム氏によるレポートの一部
DOGEは不況をもたらすリスクがあるのか
市場は、連邦政府の支出削減による経済への悪影響に注目している。
…DOGEが雇用に関する前例を作り、準公共部門に波及する支出削減を達成した場合、新たな経済の逆風が発生する可能性が高い。
これにすぐに追随したのは、ゴールドマンのような以前は熱狂的に強気だったウォール街の企業だった。
ゴールドマンのレポートの一部
新たな関税引き上げによる成長への 0.5ポイントのさらなる抑制を考慮し、2025年第4四半期の GDP 成長率予測を、従来の 2.2%から 1.7%に引き下げた。これは、GDP 成長率が潜在成長率をわずかに上回るのではなく、わずかに下回ることを意味する。失業率予測は、対応策として 0.1ポイント引き上げて 4.2%とした。
モルガン・スタンレーは、GDP 見通しを大幅に引き下げた。
モルガン・スタンレーのレポートの一部
私たちは貿易政策の予想以上の激しさを考慮し、2025年と 2026年の成長率を下方修正した。
現在、2025年にはインフレ率の上昇が見込まれ、商品価格のより顕著で、より早い再加速が見込まれる。堅調なインフレと低い失業率の組み合わせは、FRB を窮地に追い込む可能性がある。
こうしてウォール街はゆっくりとだが確実に、私たちが正しかったことを認めた。
しかし政権はどうだろうか。マスク氏の緊縮財政推進と政権の関税政策が景気後退につながると知ったらトランプ氏は驚くだろうか。
我々は疑問に思い、トランプ氏と側近たちの発言にもっと注意を払い始めた。
まず、トランプ大統領の財務長官スコット・ベセント氏が先週、メディア「フェイス・ザ・ネイション」で、メディアがバイデン政権下で経済は好調だと国民を誤解させていたこと、そしてトランプ政権が誕生して雰囲気が急変したことを正しく説明した。もちろん、彼の主張は、トランプ氏が自ら経済を批判できるほど長く政権に就いていないということだ。
数日後、ベセント氏は、バイデン氏の最後の数年間に経済がなぜ「好調」だったのかについても説明した。同氏は基本的に、2年前に私たちが、バイデン経済の背後にある 1兆ドルの「ステルス景気刺激策」について述べたことを繰り返した。
その記事では、米国経済が崩壊しなかった唯一の理由は、政府が 100日ごとに 1兆ドルの債務を発行していたためだと説明した。ベセント氏の言葉を借りれば、「市場と経済は過剰な政府支出にとりつかれて中毒になっており、デトックス(解毒)期間がやってくるだろう」ということだ。
これは、トランプ政権のハワード・ラトニック商務長官が、フォックスニュースに対し、技術的景気後退を回避するために、政府支出を GDP 報告から切り離すことを検討していると語った理由も説明している(AP通信の報道)。
これは、イーロン・マスク氏の DOGE が推進する支出削減が景気後退を引き起こす可能性があるかどうかという質問に対する回答だ。
ラトニック商務長官はフォックスニュースで以下のように述べた。
「ご存知のように、米国政府は歴史的に GDP を操作してきた。政府は政府支出を GDP の一部としてカウントしている。ですから、私はこの 2つを切り離して透明性を確保する」
ラトニック氏のこの発言は、政府支出は経済に価値を生み出さないというマスク氏の主張を反映したものだ。
「 GDP をより正確に測定するには、政府支出を除外する必要がある」とマスク氏は X に書いている。「そうしないと、人々の生活を向上させない物事にお金を使うことで、GDP を人為的に高く拡大してしまう可能性がある」
ラトニック氏の見解はもう少し微妙ではあったが、同じ方向性で以下のように述べた。
「政府が戦車を購入すれば、それは GDP だ。しかし、戦車購入について考えるために 1,000人の人々にお金を払うのは GDP ではない。それは無駄な非効率であり、無駄なお金だ。そして、それが GDP に表れている間は、それを削減してなくすつもりだ」
そして、議会での演説中に、これまでで最も明確な警告を発したトランプ氏自身も、関税に関して「多少の混乱」を予想すべきだと述べ、2月に大統領が自身の Truth Social アカウント(SNS)に以下のように書いた。
「これはアメリカの黄金時代となるだろう!痛みはあるだろうか? あるかもしれない(ないかもしれない!)」
「我々はアメリカを再び偉大な国にする。そして、それは支払わなければならない代償に見合う価値があるだろう」
しかし、トランプ氏が今や米国経済を不況に陥れようと躍起になっていることを最も明確に示しているのは、週末の別のインタビューで、今年の不況を予想しているかと聞かれた大統領が奇妙に防御的な態度を取り、「そのようなことを予測するのは嫌いだ」と答えたときだった。
「移行期がある。我々がやっていることは非常に大きなことだからだ。我々はアメリカに富を戻している。それは大きなことだ。そして、常に少し時間がかかる時期がある。しかし、それは我々にとって本当に素晴らしいことだと思う」
株式に関しては、トランプ氏が介入して救済を求めることは期待できない。トランプ氏は以下のように述べている。
「多少の混乱は起きるかもしれない。株式市場を実際に監視することはできない。中国を見れば、彼らは 100年の展望を持っているが、我々は四半期ごとに見ている。我々がやっているのは、未来のための基盤を築くことだ」
そして、それだけでは十分明確でなかったとすれば、財務長官のスコット・ベセント氏は、米国が「デトックス期間」に向かっていると可能な限り明確に予測し、「私たちが受け継いだこの経済が少し動き始めているのを見ることができるだろうか? もちろんだ」と警告した。
また、市場を下支えするための政策転換を否定した。
ゴールドマンのデルタ・ワン取引責任者リッチ・プリボロツキー氏は、景気後退前のこうした発言について、「債務の持続可能性と支出(コロナ禍で加速した)の長期的な不均衡に対処しようとするのは称賛に値するが、これが短期的な経済的影響を及ぼさないとは考えにくい」と述べ、事実上、1か月前に私たちが述べたことを繰り返した。
ラボバンクは、「トランプ大統領は今のところ株式について言及しておらず、ワシントンからの発表では、彼らの焦点はウォール街ではなくメインストリートにあり、少なくとも今後 6~ 8か月は「 (株式相場の)混乱」を容認する用意があり、それをバイデン氏のせいにし、トランプ大統領が考える GDP の目的に基づいた成長を可能にする枠組みを整えるつもりだという」とさらに明確に述べている。
しかし、おそらく、米国が現在、非常に痛みを伴う明らかな「フェーズシフト」を経験していると最もうまく説明したのは、野村のチャーリー・マケリゴット氏だっただろう。
チャーリー・マケリゴット氏のレポートより
…政府の「財政緊縮」と、両党が数十年にわたって条件付けされてきたひどい「支出」に対する DOGE 攻撃を実行すると、政府の支出を大幅に削減する一方で、世界貿易の「再調整」は最大の貿易相手国との「関税戦争」を意味するため、現在の実質 GDP 成長を維持する方法はまったくなく、短期的にそれを高めることもできないことは言うまでもない…つまり、低下する。
彼らは、この「フェーズシフト」が痛みを意味することを理解しており、それを大統領の任期の早い段階で迅速かつ意図的に行うつもりだ。
…この意図的な成長抑制と負の富の効果、つまり「景気後退を仕組む」というテーゼは、ディスインフレの衝動として機能し、第2段階への移行を促進する。
そこでは、ディスインフレのおかげで、最終的に、 FRB の削減による、より簡単な MONPOL (何のことかわからないです)を通じて民間部門を刺激し、「お金のコストを削減」することができる。そして、さらに減税と大規模な規制緩和へとエスカレートする。
しかし、借金まみれの生活においては、政治家と中央銀行家が「量的緩和の罠」の「モラルハザード」ゾーンの崖を越えたことで、私たち社会は痛みに対する許容度が極めて低い。
では、有権者、政治家、中央銀行家たちは、この善意による「バランス調整行為」の結果を乗り切ることができるのか、それとも、緩和を求める癇癪が圧倒し、持続不可能な現状の政府赤字支出による経済依存に「屈服」せざるを得なくなるのか?
それは、トランプ政権の意図的な「制御された破壊」のダブルパンチである「成長の阻害」と「負の富の効果」が、その後の金融緩和を可能にするデフレーションの衝動につながる速度にかかっている。
これらすべてをまとめると、浮かび上がってくる状況は明らかだ。私たちが 1か月前に言ったことは正確であり、米国を積極的に不況に追い込むわけではないにしても、トランプ氏とベッセント氏は間違いなくそれ(不況の到来)を歓迎するだろう(特に中間選挙が近づいているため)。
彼らには、長い間経済を浮揚させてきたバイデン政権とその膨大な債務増加を非難する数か月の猶予があることを知っているからだ。
そして経済と市場がリセットされれば、おそらく景気後退が起きれば介入せざるを得ない議会からの、さらなる巨額の財政刺激策の恩恵を受けて、経済と市場は 2026年11月の中間選挙に向けて一気に浮揚し、たとえ近い将来にかなり深刻な痛みを伴うとしても、共和党の権力掌握はさらに強固なものとなるだろう。
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