コメ価格が1.8倍!なのに消費者物価はたった3%上昇…政府統計データが“お粗末”なワケ

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スーパーでコメ在庫なし 政治・経済

コメ価格が1.8倍!なのに消費者物価はたった3%上昇…政府統計データが“お粗末”なワケ

消費者物価指数に物価の上昇が少ない住宅価格や賃貸価格を含めているのが消費者物価指数が上がらない原因。食料品だけで言えば2倍近い上昇になっているはず。

食料品や日用品がものすごく値上がりしている――。買い物に行くとこのように実感する機会が増えているが、一方で、政府の統計データが示す物価上昇率は、それほどでもない。この乖離は、なぜ生まれるのか?経済の専門家も指摘する統計データの弱点や、一般人も知って驚く「からくり」について解説する。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

食品の値上がりと政府統計が「一致しない」ワケ

 最近、私たちが肌で感じる物価の上昇と、消費者物価指数が示す物価の上がり方に乖離が生じている。私たちがスーパーマーケットに行って、毎日買うような野菜などの生鮮食料品はかなり値上がりしている感覚だ。その一方、消費者物価指数を見ると上昇率はせいぜい数パーセントである。どうも、肌感覚と数値が一致しない。

 総務省の「小売物価統計調査」によると、2月の東京都区部のコシヒカリ(5kg当たり)の平均価格は4363円で過去最高を更新した。前年同月の2441円から79%、約1.8倍もの上昇だ。食料や日用品だけでなく、電気・ガスや飲食、宿泊といったサービス価格も大幅に上昇している。

 しかし、消費者物価指数の上昇率は3%程度だ。なぜ、こんなにも乖離があるのか。からくりの一つは、ほぼ毎日買うような食料品などの価格が大きく上昇する一方で、何年かに一度しか買わない電気製品などの価格はあまり上がっていないことがある。

 体感物価は、毎日の買い物を通じて形成される。一方、消費者物価指数は多くの品目やサービスの平均値になる。そのため、たまにしか買わない電気製品などの価格が安定していると、どうしても、肌感覚と統計上の消費者物価指数に乖離が出てしまう。

 問題は、肌感覚の物価上昇が今後も続きそうなことだ。コメや卵の値段はそう簡単に下がりそうにない。また、給料は若年層を中心に上がりそうだが、中高年層の上昇は抑えられそうだ。そして、年金生活者は給与上昇の恩恵にあずかることは難しい。

 わが国は、個人消費の本格的な回復を期待することはできそうもない。となると、何に頼って景気回復を祈ればいいのだろうか。

なぜ体感物価と消費者物価指数は乖離するのか

 食料品や日用品が値上がりしている。例えば、「物価の優等生」といわれ価格が安定していた卵。卸売価格の目安となる「JA全農たまご」の東京地区の平均価格(M基準、1kg当たり)は、1月に258円だったのが2月は315円に上がった。前月比で22%もの上昇だ。

 2025年に企業が予定する食品値上げ品目数は、2月末時点で昨年の86%に達したとみられる。背景には、世界的な異常気象の影響で食料供給が不安定化したことが挙げられる。また、中東情勢やウクライナ戦争など、地政学リスクによってエネルギー資源の供給体制も不安定化している。

 この4年ほど外国為替市場では、円はドルなど主要通貨に対して下落基調(円安)で推移し、輸入物価は上昇した。国内の物流問題や人手不足による人件費の上昇も、物価上昇の要因になっている。

 わが国の名目ベースの賃金は緩やかに上昇しているものの、食品や日用品・エネルギー価格の上昇ペースがそれを上回っている。企業は人手不足もあり、人材確保のために賃上げを重視している。ただし、それは主に若年層に手厚く、シニア層への恩恵は限られたものだ。多くの家計が実質ベースでの賃金上昇を安定的に実感するには、時間がかかるだろう。

 日本銀行の『生活意識に関するアンケート調査』には、「1年後の物価は現在と比べ何%程度変化したと思うか」との質問項目がある。24年12月の調査結果(平均値)は17.0 %と、9月調査の14.5 %上昇を上回った。

 これは、総務省の消費者物価指数の上昇ペースより高い。1月の消費者物価指数は前年同月比4.0%上昇。生鮮食品を除く総合指数は同3.2%の上昇だった。

 日銀は物価安定の目標を、消費者物価の前年比上昇率2%と定めている。日常的に私たちが実感する物価(体感物価)は、消費者物価指数に基づく公式な物価統計と乖離している。

持ち家の「家賃」が消費者物価指数に下方バイアス?

 体感物価と消費者物価指数が乖離する要因は他にもある。持ち家の「帰属家賃」の影響だ。自分で家を所有している人は家賃を支払う必要はない。総務省の統計では、自宅に住む人は、持ち家から何らかのサービスや便益を享受していると考えている。そして、持ち家所有者も、相応の家賃を支払っていると仮定して消費者物価指数の品目に含めている。その目的は、持ち家居住者と貸家の生活費を公平に比較すること、住宅ローン支払い負担を考慮するためとみられる。

 わが国の消費者物価指数に占める帰属家賃のウエートは、全国基準で15.8%(東京都区部は20.0%、20年基準)と高い。1999年以降、帰属家賃の前年同月比変化率は、ゼロ近傍だ。つまり、帰属家賃はわが国の消費者物価指数に下方バイアスをかけている。そのため、物価の評価は帰属家賃を含まない指数で行うべきだとの指摘もある。

 そもそも、経済環境の変化のスピードに、消費者物価指数の基準改定の頻度が追い付かなことも指摘される。近年の世界経済は、目まぐるしく加速度的に変化している。例えばAI(人工知能)関連分野の成長にはデータセンターが欠かせず、電力需要が増加するなど産業構造そのものを変化させている。

 その一方で、消費者物価の基準が変わるのは5年ごとだ。消費者物価を構成する品目のウエートは、家計調査の結果を基に決定される。ウエ―トの決定方法は、買い物かごをイメージすると分かりやすい。日々の生活に欠かせないモノやサービスの対象、その数量を決めてかごに入れる。その時のかご全体の値段を100とし、後々の変化を指数で示す。

 計算の都度、買い物かごの中の品目と数量を変更すると、物価の変化が品目の変更によるものか価格変動に影響されたか分かりづらくなる。この問題を避けるために、個々の品目のウエートを基準時の数値で固定し、価格の変化を評価する(ラスパイレス指数という)。

 私たちの生活に必要なモノやサービスの数量が、5年間同じとは限らない。食料品であれば毎週、日用品なら月に数回などと購入の頻度は異なり、その時々によって購入数量も変化する。こうしたことも、体感物価と消費者物価指数が示す、マクロレベルの物価の変化が乖離する一因だろう。

 

物価動向を「正しく」見るにはどうしたらいいのか

 これまでも経済の専門家の間では、体感物価と消費者物価の乖離に関する議論がなされてきた。1970年代、故ロバート・ルーカス(95年にノーベル経済学賞を受賞)は、「人々の物価の認識は実際に消費するモノやサービスの値動きに影響される」と考え、「消費者や企業は日常的に接する値段から将来を予測し意思決定を行う」と論じた。

 90年代、米国では消費者が安価な代替商品を買う、あるいはディスカウントストアでの買い物を重視する影響が、消費者物価指数に反映されづらいと指摘された(96年公表「ボスキン・レポート」)。翻って2016年、わが国では日銀が異次元緩和の総括的な検証を行い、物価が人々の合理的な期待形成より、心理(過去の記憶や思い込み、経験)に影響されやすいことを指摘した。

 日銀は『金融政策の多角的レビュー』(24年12月公表)の中で、90年代後半以降の物価停滞の一因として、グローバル化の加速を背景とする新興国のキャッチアップ、それに伴う価格競争激化の影響を指摘している。

 経済環境の変化と、それに影響された人々の物価予想を実態に近い形で把握するため、消費者物価指数をどのように管理するかは重要な論点だ。代表的な研究として、消費者の購入頻度が高い品目に高いウエートをつけ、低い品目のウエートは下げ、人々の物価の実感・予想に対する説明力を高めようとする試みはある。

 米国では、月次の経済データとガソリン価格や原油価格のデータから現時点の消費者物価を推計する試みもある。今後はAIの推論能力の向上に伴い、ビッグデータを分析し、人々が予想する物価と消費者物価指数の実績を近づけようとする試みも増えるだろう。世界全体で、消費者物価指数の新たな管理方法への要請が高まっている。

 ただ、現時点では、金融政策の運営には消費者物価指数が欠かせない。人々が安心し、賃金の上昇を実感しやすい経済環境を目指すためには、日常的に消費する品目の物価動向を幅広く丹念に分析する意義がある。これは政策当局にとっても、主要投資家にとっても大切なことだ。

 冒頭でわが国は、個人消費の本格的な回復を期待することはできそうもない、と述べた。当面、設備投資に頼る景気回復を祈るしか有効な方法はなさそうである。





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