裏金議員の行為は税法上「ほぼ脱税」なのに…元国税調査官が告白、政治家に税務調査をしない「国税庁の闇」
相続税も払わなくて済む制度を利用する政治家。そのため、ほぼ無税!
日本の税金制度のあり方を嘆いてきた元国税調査官の大村大次郎氏が『本当は怖い税金の話 元国税調査官が書いた 知らないと損する裏知識』(清談社Publico)を上梓した。政治家や開業医などに許された“上級国民の節税”や税金を払い過ぎているサラリーマンの実態、そして日本の税制の不公平さを鋭く指摘している。
本書より、裏金議員を摘発しない国税庁の実態を紹介する。
税金で優遇される政治家たち
日本では、サラリーマンの増税が続く一方で、ほとんど税金を払わなくていい人たち、税金で非常に優遇されている人たちもいます。
最たるものが政治家です。
そのわかりやすい例が、昨今、大きな政治家のスキャンダルとなった「裏金問題」です。これは、ざっくりいえば、自民党の派閥パーティーにおいて、各議員にパーティー券のノルマが割り振られ、そのノルマ以上の売上があった場合は、派閥から議員に代金がキックバックされていたというものです。
そしてキックバックされたお金は、各議員の収支報告書に記載されておらず、「裏金化」していたのです。この裏金化された収入は、税務申告もされていませんでした。
収入があったのに税務申告されていないということであれば、普通に考えても、それは脱税です。
政治家に課される税金とは?
インターネットの世界でも、「収入を帳簿に載せず、支出も不明であれば、脱税ではないか」という指摘がされており、2024年3月の確定申告期には「確定申告ボイコット」というワードがネットでトレンド入りしていました。2024年10月の衆議院選挙で自民党が惨敗したのも、この裏金問題が大きく響いているといえます。
この裏金が、税法に抵触するかどうかというと、「ほぼ黒」だといえるのです。つまりは、脱税状態になっているのです。
そもそも政治家の税金というのは、どういう仕組みになっているのでしょうか?
政治家の収入には、大きく三つの柱があります。一つ目は国からもらう議員としての歳費(報酬)、二つ目は支持者からもらう政治献金、三つ目は党からの助成金です。
この三つの柱のうち、二つ目の政治献金と三つ目の党からの助成金には、事実上、税金が課せられていません。というのも、支持者からの政治献金や党からの助成金というのは、現在の法律では、政治家個人が受けるのではなく、政治団体が受けることになっているからです。
つまり、政治献金や党からの助成金は、すべて政治団体の収入ということになり、政治団体に対しては、その収入(献金)には税金が課せられないのです。だから、政治献金や党からの助成金をいくらもらっても、無税ということになっているのです。
しかし、党からの助成金については、プールしてはならないことになっています。党からの助成金は、「必要な政治活動費をもらっている」という建前があり、もし残額がある場合は、党に返還するか収入として計上するかしないとならないのです。
なぜ国税は政治家を摘発しない?
国税庁も国会議員に対して、「政党から支給された政治活動費に残額があれば、それは雑所得になります」と明示しています。だから、党からの助成金に残額があり、それを税務申告していなければ、「申告漏れ」「課税漏れ」ということになるのです。
パーティー券のキックバックというのは、党からの助成金にあたるので、これに残額がある場合は、課税漏れになるのです。
国税としては、当然、残額があるかどうかを調査しなければならないはずなのです。なのに、なぜ国税は裏金議員に対して、税務調査をしないのでしょうか?
その理由は、簡単です。
国税は政治家に弱いからなのです。
国税は本来、総理大臣に対してさえも、税務調査を行い、脱税を摘発する権利を持っています。しかし、国税が政治家を税務調査することは、ほとんどありません。
国税はその理由として、「政治団体には法人税が課せられないから」と述べています。
が、この理由は詭弁(きべん)です。
たしかに政治団体には、原則として法人税は課せられていません。しかし、政治家個人には、所得税が課せられており、税務署への申告義務があります。もし、その申告におかしな点があれば、税務署は政治家を税務調査することもできるし、その関連から政治団体のお金に斬り込むこともできるはずなのです。
「法の下の平等」に反する
また、国税は本来、政治団体へも税務調査を行う権利を持っているのです。政治団体は、法人税の申告義務はありませんが、源泉徴収税を払う義務はあります。
だから、法人税の税務調査はできなくても、源泉徴収税の税務調査はすることができるのです。
実際に、学校など法人税がかからない団体に対しても、源泉所得税の税務調査は行われています。
源泉所得税の調査では、学校の理事などが個人的に費消していないかどうかを徹底的に調べます。学校だけではなく、福祉団体など、法人税がかからない団体にも、「源泉所得税の調査」は普通に行われています。
源泉所得税の税務調査が行われていないのは、政治団体だけなのです。
これまで国会議員でも、脱税で摘発された者はいます。ただし、それは政敵が政権を握ったために見せしめ的に税務調査に入られたり、巨額の不正蓄財をマスコミから嗅ぎつけられたりしたために、やむを得ず国税が動いたというケースなのです。
国税が自発的に政治家に税務調査を行ったケースは皆無だといえるのです。
これは憲法の「法の下の平等」に反するものです。
だから、国税庁は、政治団体にどんな収入があるのか、政治活動費が何に使われたのか、本当に政治活動に使われたかどうかを徹底的に調べるべきなのです。それをしなければ、ほかのどんな税務調査もする資格がないといえます。
つづく記事〈「政治家の“課税逃れ”を是正しないと日本は衰退する」元国税調査官が嘆く、上級国民に許されたズルい節税〉では、政治家にのみ与えられる税金優遇をめぐる問題について解説する。
「政治家の“課税逃れ”を是正しないと日本は衰退する」元国税調査官が嘆く、上級国民に許されたズルい節税
日本の税金制度のあり方を嘆いてきた元国税調査官の大村大次郎氏が『本当は怖い税金の話 元国税調査官が書いた 知らないと損する裏知識』(清談社Publico)を上梓した。政治家や開業医などに許された“上級国民の節税”や税金を払い過ぎているサラリーマンの実態、そして日本の税制の不公平さを鋭く指摘している。
本書より、政治家の税金優遇制度をめぐる問題について紹介する。
前編記事〈裏金議員の行為は税法上「ほぼ脱税」なのに…元国税調査官が告白、政治家に税務調査をしない「国税庁の闇」〉より続く。
「十五三一」が示す税金の実態
税務調査のこと以前に、そもそも政治家というのは、税制面において非常に優遇されているのです。
税金の世界では、十五三一(とおごうさんぴん)という言葉があります。
これは税務署が把握している各業界の人たちの「収入」を示した、税務の世界での隠語です。
サラリーマンは収入の10割が税務署に把握されていますが、自営業者は5割、農家は3 割しか把握されていないということです。そして政治家にいたっては、1割しか把握されていないのです。
つまり、政治家は、実質的な収入に比して10分の1しか税金を払っていないということです。
なぜ、政治家は、そんなに税金を払わないで済んでいるのでしょうか?
政治団体のお金であっても、政治家が個人的なことに使ったならば、本来であれば、政治家への利益供与ということで税金が課せられます。
政治資金ならば相続税はゼロ
しかし、税制上、「政治活動費」というのは、限りなく広範囲に認められており、「政治活動費として使った」と言えば、税金が課せられることは、まずないのです。
たとえば、毎晩、高級料亭で会食したとしても、それは「政治活動費」だとして、経費として処理されるのです。自民党の二階俊博氏が、書籍代として3500万円を計上していたことが取り沙汰されましたが、そういうことも平気で行われてきたのです。
このように、そもそも政治家というのは、税制上、非常に恵まれているのです。
昨今、日本では世襲議員が非常に増えています。
過去20年で総理大臣10人のうち6人が世襲議員なのです。こんな国は先進国ではどこにも見当たりません。テレビ朝日のデータによると日本の衆議院議員の23%は世襲議員です。アメリカ、イギリスは7%程度、ドイツは1%以下です。日本の世襲化は著しいといえます。
これほど世襲化が進んだ大きな理由として、「政治家の税金優遇制度」があります。というのも、政治家の場合、どれだけ遺産があっても、それが「政治資金」であれば、相続税が課せられないのです。
その仕組みは次の通りです。
政治団体に個人が寄付をする場合、非課税となっています。そして政治資金規正法で、個人は政治団体に年間2000万円までは寄付できるようになっているのです。
だから、親が毎年、2000万円を子供の政治団体に寄付していけば、相続税をまったく払わずして、自分の資産を譲り渡すことができるのです。さらに政治団体から政治団体に寄付をする場合も、非課税であり、しかもこの場合は、寄付金の上限額はありません。
だから、事実上、政治団体のお金には相続税も贈与税も課せられないのです。
「地盤」にも課税すべき
世襲議員の場合、親も本人も別個の政治団体をつくっています。親の政治団体から子供の政治団体に寄付をするという形を取れば、何億円であろうと何十億円であろうと無税で相続することができるのです。
もし親が急に死亡した場合でも、親の政治団体から子供の政治団体にお金を移せば、相続税はゼロで済むのです。このように親の政治家がため込んだお金が無税で子の政治家に渡るシステムがあるので、世襲政治家が増殖することになったのです。
少なくとも、この相続税の優遇制度は廃止しないと、世襲政治家の増殖は止められないし、日本の低迷も止められないといえます。
世襲政治家には、「政治団体を使った相続税逃れ」のほかにも大きな問題があります。
それは、「政治家の地盤」にも相続税が課せられていないという問題です。
二世議員のほうが選挙に勝ちやすいという現状があります。だから、各党は二世議員を担ぎたがるのです。政治家が急死すれば、大急ぎで選挙に出られる子供を探します。世間知らずのお嬢ちゃんやお坊ちゃん、それもいなければ配偶者までもが担ぎ出されます。
なぜ、二世議員が選挙で強いのかというと、親の知名度や地盤を使えるからです。
「地盤」には莫大な価値がある
地盤や知名度というのは、莫大(ばくだい)な財産です。通常、財産をもらえば、贈与税がかかります。親が死んでからもらったとしても、相続税がかかるのです。
そして経済的な価値が生じるものには、すべて相続税が課せられることになっています。
選挙の地盤に関しては、非課税などという取り決めはありません。二世議員たちは、地盤という莫大な財産を得ているにもかかわらず、その上、税金も払っていないのです。
これを事業家の子供に置き換えればわかるはずです。事業家の息子がその事業を継承するために、株を贈与された場合、その価額に応じた税金を払わなければなりません。企業価値の高い会社の株であれば、莫大な額になります。
政治家の地盤というのは、金額に換算すると相当な額になります。
一回の選挙を行うだけで、平均でも市議会議員レベルで数千万円、県議会レベルで数億円、国会議員では数十億円規模のお金が必要だといわれています。そんな多額のお金を何度もつぎ込んで固めてきた地盤なのだから、相当な価値があるはずです。
これほど二世議員が増殖したのは、そのような莫大な財産を無税で譲り受けられたからです。二世議員の地盤に税が課せられていないというのは、公平性の観点から見てもおかしいのです。
日本の低迷と世襲政治家の関係
国税当局に、なぜ政治家の地盤を譲るときに税を徴収しないのかと聞けば、おそらく、選挙の地盤などは、実際の価値がわからないからという言い訳をするでしょう。
しかし、実際の価値がわからなくても、価値があるのならば、課税すべきです。また、実際の価値がわからなくても、どうにかして測るのが国税の仕事です。選挙費用の相場などを参考にすれば、金銭的価値はわかるはずです。
現在の日本の低迷と世襲政治家の増殖はまったくリンクしています。
日本は戦後、世襲政治家が総理大臣になるケースはほとんどなく、平成(1989〜 2019年)になる前の14人の総理大臣のうち、世襲政治家は鳩山一郎だけでした。
しかし、平成になってからは世襲政治家ばかりが総理大臣になるようになり、実に6割以上の総理大臣が世襲政治家だったのです。
平成の時代の日本は「失われた30年」ともいわれ、日本が急速に衰退していった時期なのですが、この平成の時代には世襲総理大臣が激増しているのです。
日本が、何十年も前からわかっていた少子高齢化をまったく防ぐことができず、国民生活がどんどん苦しくなってしまったのも、世襲政治家ばかりになったことが原因の一つだと思われます。
政治団体はブラックボックス
また、世襲政治家の弊害として、利権やしがらみの引き継ぎという面もあります。
親が持っていた利権やしがらみは、子供にもそのまま引き継がれます。
旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と関係が深い政治家が異常に多かったのも、親の世代から付き合いがあったことが要因の一つとして考えられるのです。
そして日本でこれだけ世襲政治家が増えたのは、相続税の優遇制度が非常に大きな原因だといえます。
政治団体という、税金のブラックボックスを早急に叩き壊し、地盤に課税するなどして、政治家が所得税や相続税を当たり前に払うようにならないと、日本の政治はいつまでもよくならないどころか、日本の衰退は止められなくなるのです。
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