もうアメリカには頼っていられない…!いまドイツ国民の7割が「徴兵制の復活」に賛成する「驚きの事態」
ヨーロッパは、対ロシアに加え、どんどん攻撃的になって我々を敵視してくる米国に対しても、軍備を整えなければならない
まさかの「二正面作戦」!?
3月6日、公共第1テレビARDの夜8時のニュースで、EU担当のベテラン女性記者、ティナ・ハッセル氏が言った言葉には、思わず耳を疑った。
「ヨーロッパは、対ロシアに加え、どんどん攻撃的になって我々を敵視してくる米国に対しても、軍備を整えなければならない」
ドイツでは驚くべきことが進行している。ロシアと米国を相手に、二面戦争をする気か?
米国の大統領選挙でずっとバイデン氏を応援し、トランプ氏を悪魔化していたドイツメディアだったが、トランプ氏が大統領に就任し、2ヵ月以上が過ぎた今になっても、その敵対的な姿勢を修正できずにいる。そればかりか、ドイツにとって一番大切な同盟国であったはずの米国自体が、いつの間にか警戒すべき国になってしまった。
そもそも、トランプ大統領が一刻も早く無駄な殺し合いをやめさせようと、和平交渉に尽力していた時も、ドイツの政治家、およびEUのエリートらはなぜかそれが気に入らず、ウクライナをさらに強化し、戦争を続けさせようとしていた。
つまり、彼らはウクライナには武器と資金を与え続けることが正義だとし、「戦争か平和か?」という問いに、「戦争」と答えていたのだ。
ドイツでは、2月23日に総選挙が行われたが、その後も奇妙なことが次々に起こっていた。第1党となったCDU(キリスト教民主同盟)のメルツ党首は、選挙戦の間じゅう、新規国債の発行を断固拒絶し、債務を増やそうとする社民党と緑の党を激しく攻撃し続けた。
ところが、選挙が終わると、突然、前言を撤回、社民党と一緒になって、9500億ユーロという史上最高額の債務を国民に押し付けた。うち5000億ユーロはインフラ整備のためで、もう一つの大きなポジションが軍拡。特に国防費のための借入はほぼ上限なしになる。
まんまと騙されたドイツ国民
冷戦後、ドイツの安全保障が疎かになっていたことは事実であり、確かにその修正は必要だ。しかし今、突然、戦争の危機が異常に煽られ始めたことには大きな違和感を感じる。そして、その戦争の危機こそが、メルツ氏が、新規の借入はしないという主張を、突然撤回しなければならなくなった理由とされている。
具体的には、2月末に米ホワイトハウスで、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の会見が決裂したことだという。「あのシーンを見れば、トランプ大統領がヨーロッパを守る気がないことは歴然である。そうなると、ロシアがヨーロッパに攻め込んでくる。だからNATOは独自の防衛力を強化しなければならない。これはドイツにとっても緊急事態で、新規の借金はしないなどと言っている場合ではない・・」と、そういうふうにつながる。つまり、メルツ氏の急激な“方向修正”は、全てトランプ大統領とプーチン大統領のせいである。
ただ、真相はもちろん違う。メルツ氏は最初から支持者を裏切る気だった。なぜなら、氏はAfD(ドイツのための選択肢)とは絶対に連立しないと言っていたため、そうなると、残る連立相手は社民党と緑の党しかないことは、選挙前からわかりきっていた。
そして、この連立が成り立たなければ、メルツ氏は待望の首相の座を得られないため、どんな妥協をしてでも、この連立にかじりつくだろうことも、想定済みだった。
しかし、そうなると、交渉で強いカードを持つのはメルツ氏ではなく社民党で、その結果、メルツ氏は案の定、社民党に平伏し、妥協に妥協を重ね、全てが社民党の主張通りとなった。トランプ大統領のせいで急遽変更したなど、どの口が言っているのか?
なお、こうなることを予測するのはさして難しいことではなく、警告を発していた人たちも大勢いた。それにもかかわらずまんまと騙された有権者こそ、あまりにも考えが浅すぎたのではないか。
では、メルツ首相の妥協とは具体的にはどんなものか?
再軍備に熱中し始めたEU
ドイツには、「債務ブレーキ」と呼ばれる法律があり、公的債務残高の年間の増加がGDPの0.35%を超えてはならないということが基本法(憲法に相当)で定められている。そして、そのブレーキを外すためには基本法を改正しなければならず、基本法の改正には議会の3分の2の賛成が必要になる。
ところが、先月の総選挙の結果では、CDUも社民党も過去最低(CDUは最低から2番目)の得票数であったため、3分の2の票数には到底満たない。たとえ緑の党を引き入れたとしても、まだ足りない。
そこで、メルツ氏は思いついた。あと数日でお払い箱になる旧議会なら、緑の党も加えればぎりぎり3分の2が得られると。そこで、メルツ氏は緑の党にも擦り寄らざるを得なくなった。
しかし緑の党というのは、稚拙な気候対策で国民の信頼を失い、今回の選挙では11%と惨敗した党だ。それでもメルツ氏は、新規借入のうちの1000億ユーロを気候対策費に充てることを約束した。首相の座を国民の税金で買ったわけだ。
とはいえ、つい3週間前に国民が選んだ議員たちが、新議会の招集を待ってすでに待機しているというのに、それを無視して、数日後に解散される旧議会に、基本法改正という重要な案件を委ねることが果たして許されるのか?
旧議会には、当然、3週間前に落選した人、あるいは今後、引退する人たちも多く座っている。自分たちの決定について、将来、責任を一切負う義務のない人たちだ。
そこで、AfDと左派党がそれを阻止しようと、緊急で憲法裁判所(最高裁に相当)に訴えたことは不思議でも何でもなかった。法律的にはギリギリセーフであっても、民主主義の精神に照らし合わせればどうなのかとは、誰もが考えることだ。
ところが、憲法裁判所は15日、これは合法であるという判断を下した。しかも、未だに誰も新議会を早急に招集しようとも言い出さず、なぜかギリギリまで旧議会が生かされている(新議会は選挙後30日以内に招集しなければならない)。私には、ドイツの民主主義はすでに満身創痍のように思えてならない。
一方で、EUが突然、再軍備に熱中し始めた。やはり、もはやトランプ氏の米国には頼ってはいられないというのが、公式の理由だ。
軍需産業がESGに沿った“持続可能な”産業に
3月6日、EUの特別理事会は、防衛産業の強化で大筋合意。軍需産業はいつの間にか、ESGに沿った“持続可能な”産業となり、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、8000億ユーロの資金確保を提案した。おそらくEU債のようなものが創設されて、「欧州の再軍備にどんどん投資してください」となるのだろう。
ちなみにフォン・デア・ライエン氏は、ドイツで国防相をやっていた時代から、近年のファイザー製薬とのコロナワクチンの秘密取引(?)に至るまで、とにかくグレーゾーンの話が多い人だ。後者の件では、被告として未だに裁判が進行中。つまり、今回、降って湧いた国防増強の話も、裏返してみる必要があるだろう。すでに投資された資金の80%が武器購入で外国に流れるという噂もある。
そうするうちに、13日、オランダ議会が8000億ユーロの投資話への参加を正式に否決。EUはすでに一枚岩ではないので、オランダに続く国が出てくる可能性は否めない。ギリシャの元財務相で経済学者のヴァルファキス氏も、ヨーロッパの大規模な再軍備計画を「EUの次なる愚行」と批判している。氏によれば、防衛費の増加はヨーロッパの社会構造を危険に晒すが、安全など保証しないとのこと。
さて、では、軍拡に8000億ユーロを注入すれば一体何が起こるのか? 軍需産業は儲かるだろうが、製品は武器庫に収まる。ドイツでは、落ちぶれてしまった自動車メーカーが軍用車輌の生産に励むという希望的憶測もあるが、その軍用車も国民が乗るわけではない。国民の消費につながらない投資でも、好景気をもたらしてくれるのだろうか。
ちなみにドイツでは最近、公共放送が戦争の危機を煽る政治家やジャーナリストを招いては、盛んに国民を怖がらせている。それどころか、2011年に停止された徴兵制も復活しそうな勢いだ。
ドイツ人の7割が徴兵制に賛成
徴兵制の復活については、昨年5月のアンケートでは、61%の回答者が賛意を表明していた。反対は38%。年齢別では、50歳以上の人のほぼ7割が賛成で、16歳から29歳では3割。
ところが、今年の3月になると、賛成が全体の7割に増加し、16歳から29歳の54%が賛成に変わっていた。ドイツ人の心境にどんな変化があったのかはわからない。
個人的には、日本での徴兵制導入が無理だと思えるのと同じくらい、ドイツの徴兵制も無理のように感じる。現在40歳以下の人たちは、国防という概念さえ教わっていない。
しかし、ひょっとすると、若者はコンピュータゲームで戦争をしすぎて、現実と非現実の区別がつかなくなっているのかもしれない。もしそうだとすれば、それが、皆が果敢に戦争に突き進んでいく原動力となるのだろうか。
思えば、戦争の悲惨さを体験した世代が、今、完全に消えつつある。やはり歴史は繰り返すのかと想像すると、無力感に苛まれる。
3月18日、議会で、ドイツの将来がかかった基本法改正の是非を決める採決が行われる。
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