海外で流行中の「麻疹」の感染者、3月に都市部で急増…渡航歴ない人の感染が相次ぐ
どこで感染したかわからず、受診先の医療機関が対応に追われるケースも起きている
感染力が非常に強い麻疹(はしか)の感染者が、3月に入って都市部で相次いで見つかっている。
どこで感染したかわからず、受診先の医療機関が対応に追われるケースも起きており、4月に開幕する大阪・関西万博を前に、専門家らは警戒を強めている。(松田俊輔、佐々木栄)
麻疹は空気感染し、免疫を持たない人が感染すると10日程度の潜伏期間後に発熱やせき、発疹などの症状が表れ、1000人に1人が死亡するとされる。
日本は2015年、国内に定着しているウイルスはなくなったとして、世界保健機関(WHO)から「排除状態」と認定された。
しかし、その後も海外からウイルスが流入して感染するケースは相次いでいる。19年には全国で744人が感染し、10年ぶりに700人を超えた。
コロナ禍で人の往来が激減した20年以降は沈静化し、21年、22年の全国の感染者数は1桁だったが、23年は28人、24年は45人と増加。18日に国立感染症研究所が発表した今年の感染者数(9日現在)は22人と、前週から倍増した。

感染研によると、都道府県別では神奈川4人、兵庫4人、大阪3人、岡山2人、東京1人などとなっている。
気になるのは、海外渡航歴のない感染者が相次いで見つかっていることだ。
大阪府東大阪市の市立東大阪医療センターでは、10日に受診した30歳代男性が麻疹と診断された。男性はワクチン未接種で、直近3週間の渡航歴はなく、なぜ感染したか不明という。
男性は同日午前11時半から約1時間半、院内にいたため、同センターはこの間の来院者に、31日までの健康観察を呼びかけている。
渡航歴のない人の感染は、今月になって東京や神奈川でも出ており、いずれも診断前に病院やバスを利用していた。各自治体は、渡航歴のある人とどこかで接触していないか、調査を進めている。
一方、海外では中東や東南アジアなどで流行しているほか、WHOは今月、欧州・中央アジアの昨年1年間の感染者数が12万7000人に上り、1997年以降で最多になったと発表。こうした状況を受けて、日本へ流入するケースが増えているとみられる。
大阪府では4月に万博が開幕し、国内外から多数の人々が訪れるだけに、感染対策は喫緊の課題だ。
麻疹には特効薬がなく、有効な対策はワクチンの2回接種だ。高齢者には過去の感染で免疫を持つ人が多い一方、感染経験がなく、ワクチンも未接種のため十分な免疫がない人もいる。
本村和嗣・大阪府感染症情報センター長は「体に発疹が広がった場合は、麻疹の可能性がある。いきなり医療機関に行かず、事前に電話で相談したうえで受診してほしい」と呼びかけている。
混合ワクチンが全国的に不足
現在、一部メーカーの出荷停止で、麻疹と風疹の混合ワクチン(MRワクチン)が全国的に不足している。
現行制度では、1歳と小学校入学前に1回ずつMRワクチンの定期接種を受けることになっているが、定期接種分も十分に確保できていない状況だ。国は「子どもの定期接種が優先」としており、今月、子どもの接種期間を2年延長することを決めた。
大人については、1990年4月1日以前に生まれた人は公費助成による定期の接種が0~1回で、2回接種できていない人が少なくない。免疫が十分あるかどうかは血液検査で分かる。接種歴は母子手帳などで確認できる。
関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「近年、麻疹への警戒感が薄れ、国内の接種率が低下している。ワクチンの在庫は医療機関ごとにばらつきがあるので、接種希望者は事前に問い合わせをしてほしい」としている。
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