「コメ不足」ではなく「政策不足」…責任を「転売ヤー・流通目詰まり」に押し付ける農水省に国民絶望
コメ価格高騰の原因は自民党と農水省にある。
コメの値段が、静かに、しかし確実に高止まりを続けている。2024年産米の生産量は前年より増加しているにもかかわらず、JA全農などの大規模集荷業者が集めるコメの量はなぜか減っている……この奇妙なねじれは、偶然ではない。農林水産省は「在庫の分散」「流通の目詰まり」などと繰り返すが、それは責任回避の方便に過ぎない。本当に問われるべきは、供給力の低下を招いた過去半世紀の農政そのものだ。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が「令和のコメ騒動」の構造的欠陥を指摘するーー。
コメ価格高騰も…構造的問題から目を逸らす詭弁
コメ価格が異常な高騰を続けている。2025年に入り、一部報道では前年比7割超の上昇が伝えられ、消費者の家計を直撃している。この事態に対し、自民党や農水省は当初より「転売ヤー」や「流通の目詰まり」を主因とする見解を繰り返してきた。
最近では、農水省が「流通の目詰まり調査」の結果として、生産者、卸、小売・外食等の各段階で在庫が前年より計19万トン多く分散し、JA等を介さない直接販売が44万トン増加したと発表。「各事業者が先々を心配して在庫を積み上げた結果」「流通の多様化で従来のルートが滞った」として、やはり流通段階に原因を求める姿勢を強化している。
だが、こうした説明は極めて無責任であり、問題の本質から目を逸らすための詭弁に過ぎない。農水省は調査結果をもって、「米は全体として不足していない。在庫が様々な段階に分散し、従来の流通ルートが滞ったことが値上がりの主因だ」という主張を補強しようとしている。「19万トンの在庫分散」「直接販売ルートの44万トン増」という具体的な数字を挙げ、説得力を高めようという意図が見える。
発表は、根本原因である構造的な供給力不足、生産コスト高騰から目を逸らし、流通段階のプレーヤー(生産者、卸、新規参入業者、小売、外食)の行動(先々を心配した在庫確保、直接取引の増加)に原因を求める姿勢を改めて示している。暗に「売り渋り」の可能性も示唆しつつ、直接的な断定は避けている。責任の所在を市場参加者に転嫁しようとする意図は明らかである。
論点のすり替え、責任の所在は一貫して市場へ
これまで「転売ヤー」を主犯格として匂わせてきた論調から、今回は「各事業者の先行き不安による在庫確保」「流通多様化」へ、やや焦点を広げている印象も受ける。根本的な原因を政策、構造問題に求めず、市場参加者の行動に帰着させている点は一貫している。
「新たに参入した業者」の在庫増に言及している点は、ある意味で正直な分析かもしれない。見方を変えれば、流通の多様化、新規参入という本来は市場活性化に繋がる動きが、結果的に価格高騰を招いたかのような印象を与えかねない。自由な市場競争、効率化を求めるスタンスとは逆行する解釈を助長する可能性がある。
なぜ各事業者が「先々を心配」する状況になったのか。なぜ生産者はJAを通さず直接販売を増やしたのか。背景には、政府の政策への不信感、JAシステムへの不満、将来的な供給不安が根底にあるのであろう。農水省の発表は、根本的な問いには答えていない。
在庫が分散していようが、直接販売が増えようが、価格が高騰する根本原因は、需要に対する供給力の不足、あるいは将来的な供給不安にある。農水省の調査結果自体が、むしろ多くの市場参加者が供給不安を感じている現状を裏付けている。
怒りの矛先を他者に向ける姿勢は「政治」とは呼べない
なぜ彼らが「先々を心配」し、在庫を積み増したり、直接取引に動いたりするのか。その原因、すなわち政府の長年の政策運営と国民の信頼喪失こそ問われるべきである。価格が上がるのは供給懸念が背景にあるからであり、転売や在庫の偏在、流通の変化は結果に過ぎない。それを主因と断じるのは、因果を逆転させた愚論である。まるでコロナ禍で若者をスケープゴートにした時と同じ構図だ。国民の怒りの矛先を他者に向け、自らの政策失敗を糊塗する自民党と官僚機構の姿勢は、もはや政治とは呼べない。
さらに、農水省が固執する「流通の滞り説」には、事実との重大な乖離がある。大手集荷業者が小売業者へ出荷した米の量は前年より増加しており、流通は滞るどころか、むしろ活発化していた。この一点だけでも、停滞が主因という政府説明は明確に破綻している。都合の良い部分だけを切り取り、不都合な事実は隠蔽する。これが彼らの常套手段である。
価格高騰の真犯人は自民党と農水省だ
最大の欠落は、生産現場の実態に対する驚くべき無理解と無視である。肥料や燃料、光熱費は近年、国際情勢も相まって異常な高騰を見せ、生産コストは実に3~4割も上昇した。農家はかつてないほどの経営圧迫に苦しんでいる。このコスト負担を最終価格に転嫁せざるを得ないのは、経済原理として当然である。
加えて、倉庫保管料、輸送費、検査費、広告費、販売手数料といった流通コストも米価全体の1割前後を占めるとされ、燃料費や人件費の上昇が物流全体を圧迫し、価格上昇に直結しているのも明らかだ。にもかかわらず、自民党と農水省はこれらの根本要因を正面から議論しようとせず、「コメは足りているが流れが悪いだけ」と空虚なプロパガンダを繰り返す。これは単なる怠慢ではない。意図的な情報操作であり、国民を欺く行為である。原因分析が甘ければ対策もズレ続け、国民の負担だけが際限なく拡大していく。選挙対策と既得権益の保護に汲々とし、現場の苦境を無視するその無能ぶりこそ、価格高騰の真犯人と言わねばならない。
「作るな」の命令が農を壊した――減反政策という大罪
真に目を向けるべきは、日本の農政が長年放置し、むしろ積極的に悪化させてきた根本的な構造問題である。最大の戦犯は、自民党政権が半世紀にもわたって国民の税金を投入し、強引に続けてきた悪名高き「減反政策」だ。
「作るな」と農家に命じて補助金をばらまき、生産意欲と創意工夫を根こそぎ奪い、結果として食料供給力そのものを破壊し、農業全体の競争力を徹底的に衰退させた。国際的な多数の実証研究が、所得補償的な補助金は農業の技術効率を低下させると明確に結論付けているにも関わらず、日本はこの非効率化政策を意図的に推進してきたのである。この愚かな政策こそが、日本農業の衰弱と今日の食料供給不安を招いた主因であることは、もはや明白な事実である。
政府自身、2014年の『食料・農業・農村白書』で「生産調整が構造改革を妨げた」とその弊害を渋々ながら明記していた。自己批判能力のかけらでもあるのかと思いきや、さにあらず。2018年に形式的な制度廃止を宣言しただけで、実際には「水田活用の直接支払交付金」といった美名の下、形を変えた作付け誘導と補助金ばらまきを継続している。これは減反政策の悪質な焼き直しであり、制度の看板だけを掛け替えた欺瞞に過ぎない。にもかかわらず「減反は終わった」と強弁し続ける自民党は、国民に対して平然と嘘をつき続けている。こうした二枚舌と責任転嫁、自己保身に終始する姿勢こそが、現在の米価高騰という事態を招いた真の元凶なのである。長年の失政のツケを国民と正直な農家に押し付け、スケープゴート探しに明け暮れる自民党に、もはや農政を語る資格はない。
スマート農業に巨額投入 現場を無視した“見せかけ改革”
減反という構造的欠陥に加え、政府の場当たり的な対応も問題を深刻化させている。本来、国家の食料安全保障の最後の砦であるべき備蓄米を、短期的な価格抑制のために安易に放出し、将来のリスクを高める愚行。会計検査院が厳しく指摘したように、現場のニーズを無視し、効果も疑わしいスマート農業に巨額の税金を浪費する無駄遣い。これらは全て、根本的な原因から目を背け、制度維持や実績作りばかりを優先する農政の病理を示している。
農業関連の生産法人や流通業者の顧問業務に携わる城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士は、次のように解説する。
「市民が、表面的に分かりやすい直近の買い占め行為に原因を求める傾向は、過去から現在まで一貫して変わっていません。大正期の米騒動では、新聞報道に過剰反応した労働者らが商社や問屋を焼き討ちし、寺内正毅内閣が総辞職に追い込まれた例が代表的です」
「現代では、外国人転売業者の一部による不適切な言動がSNS上で炎上し、社会的不安や無用な国際的緊張を引き起こす状況が生じています。米は、一般の商品とは異なり、生存に直結する主食であるため、需給がわずかに乱れるだけでも冷静な判断が難しくなります。その結果として、自分にとって都合のよい情報ばかりを集める『確証バイアス』が起きやすくなります」
「平成初期の米騒動は冷夏による不作が主因でしたが、現在の状況はまた異なる様相を呈しています。米不足に対する不安が拡散しやすい社会環境や、過去と異なる情報伝達手段も影響しています」
「こうした中で、年間20トン以上の精米を扱う事業者に対し届出義務を課している食糧法の存在や監視機能を説明しても、政権への信頼が低い状況下では説得力を持ちにくくなっています。現在、食糧法の正式名称である『主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律』は、本来期待された役割を十分に果たせておらず、制度としての実効性に疑問が生じている状態です」
根本的な原因分析を怠り、現場の声を無視したまま、見せかけの対策を繰り返す。このような政府の姿勢が続く限り、日本の農業の衰退は止まらないだろう。国民生活を守る気概のない政権に未来はない。
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