世界経済の成長が限界に達した今後の「極端な変化」をアクチュアリーが警告
世界経済は転換点に達したとき、ブラックアウトのように凋落していく
ヨーロッパのブラックアウトから思うこと
今回の話とは関係ないですが、平時の大規模停電はほぼないヨーロッパの現代史上で最大のブラックアウトが発生しました。
スペイン、ポルトガル、フランスを中心とした大停電で、特にスペインは全土において電気が停止した状態となっており、今日までに大部分は復旧したようですが、BBC によれば、全体の電力が復旧するには、1週間から 10日かかるとのことです。
2025年4月28日 停電後のスペイン・マドリード空港
elpais.com
停電という語感から何となく思い出す概念は、電気が消えるとか、電気製品が使えなくなるとか、そういうものかもしれないですが、徹底してデジタル化された現代社会の停電というのは、それが大規模であった場合、まったく「別次元の影響」があるのだなあと知ります。
たとえば、以下は X への投稿のひとつです。
Xへの投稿より
私はスペインにいますが、問題は真っ暗であることではありません。現金なしでは支払いができず、つまり食べ物も交通手段もないのです。インターネットも非常に限られており、実際に解決されるかどうかもわかりません。
カードやオンライン決済で「物が買えない」という状況になるのです。それだけではなく、デジタル決済を導入している、いかなるサービスや、交通手段も利用できなくなるでしょうし、「何もできなくなる」という状態が発生するんですね。
もっとも、大停電のもとでは、交通手段そのものが停止してしまうわけで、利用しようもないのですが。停電発生後の状況をメディアは以下のように報じていました。
・複数の航空会社が運航の混乱を報告
・リスボンの地下鉄が完全に停止
・スペインの交通信号のほとんどがオフラインになり混乱が発生
・マドリード地下鉄が混乱
・スペイン全土の電話回線がダウン
電話が通じないので、緊急車両とかを呼ぶこともできない。携帯やスマートフォンは、バッテリーが切れても充電できない。
つまり、何にもできなくなっちゃうのですね。
こういうことが広範囲で起き得る可能性がある知られていることが、巨大な太陽フレアによる太陽嵐の直撃や、EMP(電磁パルス)攻撃の結果として起こりうる状態で、太陽嵐に関しては、その対応について以下の記事の後半でふれています。
・太陽、食糧、そして準備
In Deep 2022年2月24日
ちなみに、今回のヨーロッパの停電時には、大きな太陽フレアはまったく発生しておらず、地磁気嵐もまったく起きていませんでした。
そのこともあり、この停電のニュースを見たとき、つい「… EMP 攻撃…」と呟いたりしていましたが、まあ、それはないでしょう(何とも言えないですが)。
EMP (電磁パルス攻撃)については、10年以上前によく書いていましたが、比較的最近では、記事「地球すべての場所への EMP 攻撃がリアルになった日」などに過去の記事のリンクも含めてご紹介しています。
ともかく、
「電気が完全に停止すると、日常生活の何もかもが停止する」
というのが現代生活の特徴です。
水も出ない(上水道が電気制御されているなら)、食糧もない(輸送と食品管理システムが停止するため)、そもそも小売店のレジがダウンするので、買い物ができない。
「停電ですから、好きなものを持っていっていいですよ」と述べる小売店があるとも思えない。
電気がなくなるというのは、現代社会ではすべてが停止することを意味するのですね。
そういう「いつか来る日」を思い出させてくれた停電報道でした。
さて、今回の本題は、それとは関係ないことですが、ゲイル・トゥヴェルグというアクチュアリーの方が、「世界経済は成長の限界に達しつつある」という論文に近い長い文章を投稿していました。
経済の成長時代はほぼ完全に終わる局面にある
この「アクチュアリー」という職業名は、最近よく聞くわりには、具体的にはわかりにくい面があるのですが、大雑把には、「確率や統計などの手法を用いて、将来の不確実な事象の評価を行う」というような職業です。
ゲイル・トゥヴェルグさんのその記事は、全 10セクションからなる大変に長いもので、最初のほうは、サイクルについての話や、「理論と計算」がずっと続いているもので、なぜ世界は成長の限界を迎えているのかということを理論的に述べている部分です。
この部分はちょっと手に負えない複雑なものですので、セクション 9 の「私がこの先に見るもの」という部分からご紹介しようと思います。一種の予測です。
必ずそうなるかどうかはともかく、アクチュアリーとしての計算から出たものです。
ここからご紹介します。
経済の急速な変化に備える必要がある。世界経済は成長の限界に達しつつある
Brace for rapid changes in the economy; the world economy is reaching Limits to Growth
Gail Tverberg 2025/04/24
[9]私がこの先に見るもの
(a) 景気後退が起こる可能性が高いと思われる。景気後退は、最初はほとんど感じられないが、時間の経過とともに悪化していく。
(b) 世界の物的財とサービスの生産量はほぼ即座に減少し始める。特に、中国からの原材料を用いて米国で製造された製品は入手困難となり、中国から米国に輸入される製品も同様に入手困難となる。
(c) 商品価格は下落すると予想している。インフレよりもデフレの方が起こりやすいようだ。もしインフレが発生した場合、中央銀行が巨額の通貨を発行するにもかかわらず、その通貨で購入できる商品やサービスがほとんどない、ハイパーインフレの形をとると予想している。
(d) 多くの銀行、保険会社、年金基金が破綻すると予想している。政府でさえそれらをすべて救済することはできないだろう。もし政府がこれらの破綻した機関すべてを救済しようとすれば、ハイパーインフレに陥り、買えるものがほとんどなくなる可能性が高いだろう。
(e) 多くの政府が、既存の通貨に代わるデジタル通貨の導入を計画している。しかし、これらの計画がうまくいくかどうかは疑問だ。まず、電力供給の不安定さが深刻化する可能性がある。また、欧州連合(EU)、世界貿易機関(WTO)、世界銀行、国連といった政府機関が機能不全に陥る可能性も考えらる。アメリカ合衆国でさえ、「統一性」が薄れ、州の数も減少するかもしれない。
(f) 金(ゴールド)は長期的にはあまり役に立たないと思われる。将来的には、小額の銀貨の方がはるかに取引されやすくなるだろう。私たちが本当に必要とするのは、食料、水、そして住居だ。これらは、システムにしがみつく人々ではなく、主にこれらの必需品を生産する労働者に渡るだろうと私は考えている。
(g) いくつかの事業は成功するかもしれない。地元で食料を大量に生産する方法を見つけることも役立つかもしれない。使われていない建物を貧困者のためのシェルターに転用することも有効かもしれない。民間の「保護」サービスもうまくいくかもしれない。
(h) 株式市場は 2008年から 2024年にかけて米国投資家に大きなリターンをもたらしたが、この状況が今後も続くとは期待できない。結果として、リターンは大幅に低下するか、マイナスに転じる可能性が高いだろう。
(i) 借入は引き続き困難、あるいは悪化する可能性が高い。貸し手は債務不履行リスクをますます認識するようになるだろう。一部の貸し手は倒産に追い込まれる可能性がある。
(j) 今後数年で、貿易はより地域的なものへと変化する。米国は準備通貨保有国としての地位を失い、もはや世界の警察官になろうとはしなくなるだろう。
[10]私たちには知らないことがたくさんある
創造主は、私たちが気づいていない宗教的な終焉を創造しているのかもしれない。実際、そのような終焉が間もなく訪れるかもしれない。
そうでなければ、散逸構造は他の散逸構造に置き換えられてしまうことが非常に多い。世界の様々な地域で、新たな経済が徐々に発展していくのかもしれない。
もしかしたら、新たな経済は、まだ知らない新しいエネルギー源を発見したり、減少しつつあるエネルギー源をより有効に活用したりするものになるのかもしれない。物理学者のエリック・チェイソン氏は、長期的な傾向としては、より複雑でエネルギー集約的な散逸構造が形成されるだろうという。
ここまでです。
この方のこの文章には、魅力的な表現が多く出てきまして、たとえば、セクション1の冒頭は以下のように始まります。
なお、「散逸構造」という言葉が何度も出てきますが、以下のような物理用語だそうです。
> 散逸構造とは、熱力学的に平衡でない状態にある開放系構造を指す。すなわち、エネルギーが散逸していく流れの中に自己組織化のもとが発生する、定常的な構造である。 Wikipedia
セクション[1]より
宇宙は散逸構造で満ちている。人間も散逸構造であり、すべての植物や動物も同様だ。ハリケーンも散逸構造であり、恒星系も同様だ。生態系も散逸構造である。これらはすべて一時的なものだ。
必要なエネルギーの種類は、散逸構造によって異なる。緑植物は太陽光を利用する。動物は植物性または動物性の食物を必要とする。
人類は、調理済みの食品と生の食品を混ぜて食べるように進化してきた。一部の生の食品愛好家は、ミキサーを使って食品を細かく砕くことで満足しているが、一般的には、現代人の脳は調理済みの食品から得られる栄養を必要としている。
したがって、人類は食物と、少なくとも食物の一部を調理するための何らかの燃料の両方を必要とする。燃料は、家の暖房、水中の病原菌の除去、そして輸送にも役立つ。
わかるような、わからないような感じですが、こうい理屈から始まって、その結果として、
「世界経済は成長の限界に達しつつある」
という結論を導き出しています。
曖昧な予測とは違います。
先ほどの「9. 私がこの先に見るもの」には、やや極端に感じる項目も多くありますが、部分的には、私もそのようなことが起こっていく可能性は高いと思っています。
「私がこの先に見るもの」の「この先」の期間とか、それがいつ始まるのかは、明確には示されてはいませんが、過去のサイクルからは、
「危機の時代は 20年から 50年間」
と以下のようにグラフには記されています。
それがはじまるのが今年からなのか、来年なのか、2030年くらいなのか、それはわかりませんが、今後数年などの間には、それに近い状態は見られていくのではないでしょうか。
そして、それに伴い、最初に書きましたヨーロッパの停電のようなことが世界で常態化していくとすれば、
「現在の文明の光景は一変する」
ことにもなります。
何もかもデジタル化へ向かわせている今の世の中は、「世の中が今の状態だから可能である」というだけことであり、極端な状況下では、デジタル社会ほど不便なものはないと考えます。
そういう極端な変化の時が少しずつ近づいているようです。
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