スイス、5G基地局「使用停止」 「安全基準策定のため調査が必要」
2020/4/28
『フィナンシャル・タイムズ』のウェブサイトに掲載された記事
スイスで、すべての5G(第5世代移動通信システム)基地局が事実上使用できなくなったと、英国の経済紙『フィナンシャル・タイムズ』のウェブサイトが2月12日付で報じました。電磁波の健康問題について日本国内のマスメディアは報道しないことが多いのですが、この件についてはさすがにインパクトが大きいからなのか、共同通信が伝え、ニュースサイトSankeiBizが2月13日付でこれを掲載しました。
スイスでは昨年4月、欧州初の5G商用サービスが始まりました。しかし、健康影響への懸念から、いくつかの州議会は5Gの一時停止を求める決議を上げました(会報第118号参照)。また、ジュネーブに住む2人の男性が5G基地局による健康被害を訴えていることも報じられました(会報第121号参照)。
スイス連邦環境省は、5Gの基準値を策定するために5G電波による影響を調査する必要があり、それには時間がかかるとしています。
スイスの国民の間では、5Gを規制するための憲法改正の国民投票を目指す運動が進んでいるとのことです。
一方で、5Gを進める事業者のスイスコムは、5G機能をフルに使えなくても一定のサービスは提供できると説明しています。
このフィナンシャル・タイムズの記事をご紹介します。【訳・上田昌文さん(市民科学研究室)、網代太郎。小見出しは網代が追加】
スイスが健康上の懸念により5Gの展開を停止国の環境当局は、すべての新しいアンテナの使用に待ったをかけた
スイスは、5G移動体通信技術の展開における世界を先導する国の一つであるが、健康上の懸念のため、この新しいネットワークの使用を無期限に一時停止することとなった。
この動きは、ファーウェイが提供する中国の技術の利用を阻止しようとする米国の激しい外交攻勢の中で、欧州各国が自国のネットワークを5G標準にアップグレードしようと躍起になっている最中に起きた。ワシントンによると、欧州のほとんどのネットワークのアップグレード計画の基盤となっている同社は、重大なセキュリティリスクを抱えているという。
豊かな山岳国であるスイスはヨーロッパのなかでは5Gの導入が比較的進んでいる。ネットワークをアップグレードするために昨年だけで2000台以上のアンテナを建設しており、通信事業者はこの1年間、顧客がすぐにも5Gを利用できると約束してきた。
5Gの安全基準まだない
しかし、スイス連邦環境省(Bafu)が1月末に同国の州政府に送った書簡では、事実上すべての新しい5Gアンテナの使用を止めてしまったと、書簡を見た関係者がフィナンシャル・タイムズに語った。
Bafuは、通信事業者の電磁波放射量を判断できる安全基準を州政府に提供する責任がある。スイスの高度に連邦化された構造の下、通信インフラは法令遵守のために監視され、州当局によって認可されているが、ベルン(中央政府)はその枠組みの設定に責任がある。
Bafuは、5G電磁波の影響をさらに調査しない限り、普遍的な基準を示すことはできないと述べている。
Bafuは、勧告の基準として使用できる「世界的な基準を知らない」と述べた。Bafuは、「したがって、可能であれば実際の運用条件で、5Gの受信アンテナによる曝露を詳細に調査する予定である。この作業には時間がかかる」としている。
この基準がなければ、各州には既存の電磁波曝露ガイドラインに従って5Gインフラを認可する以外の選択肢はほとんど残されておらず、ごく少数のケースを除いて、5Gの使用はほぼ不可能となる。
健康リスクの不確実性を理由に、いくつかの州ではすでに自主的なモラトリアムを課している。
事業者は基地局設置を継続
スイスコムによると、Bafuの評価プロセスは、たとえそれがフル稼働で使用できないことを意味していたとしても、5Gインフラを構築するための継続的な取り組みを停止するものではないという。同社はまた、新しい基地局アンテナをフルに使用しなくても、2Gbpsまでの高速通信を顧客に実現できると述べている[編注:日本の総務省は5Gの最高伝送速度を4Gの10~100倍である10Gbpsと説明している]。
通信用基地局アンテナからの電磁波の影響に関するスイスの法律は、ヨーロッパの法律とおおむね一致しているが、ある場合にはより厳しい予防措置の適用を規定している。新しい5G通信技術では、個人がより集中的に非電離放射線のビームに、曝露時間は短縮されるものの、曝されることになる。Bafuはこれに適用する法的基準を決定しなければならない。
スイス最大の携帯電話会社であるスイスコムは、「新しい技術に対してしばしば表明される不安」については理解していると述べた。
「アンテナからの放射が制限値内であれば人の健康に悪影響を及ぼすという証拠はない」と同社は付け加え、5Gは現行の4Gの基準と同様の周波数で動作しており、その4Gについては「裏付けとなる数千の研究がある」と指摘した。
同社によると、スイスの規制値は「長期に滞在する場所についは、世界保健機関の勧告の10倍厳しくしている」という。
スイスはすでに、ベルン、チューリッヒ、ジュネーブでの展開に抗議する著名な反5Gロビーが運動を行っている。
5G規制などへ国民投票を目指す
スイス医師会(Swiss Medical Association)は5Gについて注意を促しており、この技術が神経系に損傷を与えたり、さらにはがんを引き起こしたりする可能性について疑問が残るため、最も厳しい法的な原則が適用されるべきであると主張している。
スイスでは、5Gの使用に関する法的拘束力のある住民投票を提案する「国民発議」がすでに動き出している。二つはすでに正式に承認されており、もし成功すればスイスの憲法を改正するための全国的な投票を行うのに必要な10万人の署名を集めているところである。
一つの案は、自社で反証できない限り、基地局アンテナからの電磁波がもたらす健康障害への賠償責任を通信会社へ法的に負わせる、というものだ。もう一つの案は、基地局アンテナからの電磁波の放射を厳しく制限することを提案しており、地元住民にその地域のすべての新築工事に対する拒否権を与えることにする、というものである。
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