イマドキの子は「だるまさんが転んだ」ができない…福島県の体力テスト結果が示す外出自粛の恐るべき悪影響
身体運動の基礎が身についていない
子どもたちの体力が低下した
2011年3月に起こった東日本大震災は、2万人を超える死者・行方不明者を出し、多くの人々から生活基盤を奪った。
当時、学校に通っていた子どもたちは、スポーツや外遊びなどを通じて体を動かす時間を奪われた。
震災から3年後の春。福島県須賀川市の地元スポーツ少年団の指導者はこう危ぶんでいた。
「幼稚園や小学校低学年に、転び方の下手な子どもが増えました」
頭から前にのめり、顔や頭にけがをする子どもが増えたという。
学齢期を迎える前後は、さまざまな身体運動の基礎を身につける時期だといわれる。転ぶときに手をつくことで頭部を守ったり、体を回転して受け身を取るなど、大けがを防ぐ動作は外遊びの中で自然と身につけていくものだ。
「大事な時期に外遊びができなくなった影響が、時間差で表れたのではないでしょうか」
先の指導者はそう言って、表情を曇らせていた。
福島の学校では、日常生活にどれほど制約があったのか。
福島県教育委員会が2018年3月に策定した「ふくしまっ子児童期運動指針」に、深刻さを物語るデータが記載されている。
それによると、震災直後の11年6月時点で、県内全小学校の約15%にあたる71校が、屋外での活動を全く行っていなかった。
また、約50%の242校が、屋外活動の一部を制限していたという。
制限は徐々に解除されたものの、一部の制限は14年度まで続いた。
「新体力テスト」軒並み数値が低下
スポーツ庁が6歳~17歳の男女を対象に毎年行っている「新体力テスト」の結果には、震災の濃厚な影響が表れている。
以下、福島県教委が公表している2010、12、13年度の「新体力テスト」の結果を通して、震災前(2010年度)と震災後(2012、13年度)の変化を見ていく。
11年度は震災のため、テスト自体が実施されなかった。
「50メートル走」では、2012年度の男子が6歳~12歳と14歳、15歳で震災前よりも遅くなっていた。(図表1)。
「ソフトボール投げ・ハンドボール投げ」をみると、2012年度は男子が16歳、17歳を除く年代で、女子も14歳、16歳を除いて軒並み震災前の数値を下回った。
このほか、「反復横とび」では男女とも8歳~14歳で数値の低下が目立ち、「上体起こし」と「立ち幅とび」でも、震災後は両年度とも13歳以下を中心に数値が下がっていた。
「持久走」でも震災前よりタイムが落ちる傾向が見られた。
「走る」「とぶ」「投げる」といった体全体を使った運動で、数値の低下がみられるのは、震災により長期間、外出ができなかったことと無縁ではないと思われる。
福島県教育委員会も、その点は認めている。
ハードル跳びの動作ができない
2016年度から18年度まで福島県中学校体育連盟(中体連)理事長を務めた長正壮平氏に、震災後の中学生を取り巻くスポーツ環境にあらわれた変化や、ここ数年の中学校体育の現場で何が起こっているか、などについて話を聞いた。
長正氏は中学校の体育教諭としても20年以上の現場教育の実績があり、現在も福島市立北信中学校教諭として体育を教えている。部活動では陸上競技を専門に指導してきた。
「少し前の世代ならできたことが、できなくなっています。体育の授業を見ていると、そういうことがたくさんあることに驚かされます。特に、とっさの判断による巧みな身のこなしができなくなっていますね」
長正氏が「苦労が絶えず、不安を覚える」と打ち明けるのが、ハードルの跳び方を指導する授業だ。
昔の生徒は、跳び方を少し教えると、ハードル跳びの動作を簡単にできた。片方の足を前方に伸ばし、もう一方の足を地面から水平に開き、くの字に曲げて横から抜くという動作だ。
いまの生徒たちは、実例を示してみせても、すぐに真似ができない。曲げた足を抜く動作を理解するのに、時間がかかるそうだ。
しかも、年を追うごとに、教えた動作を実践できない生徒の割合は増えているという。
上体を立てられずにバタッと倒れてしまう
「昔の生徒にもできない子はいたが、ハードルを跳ぶフォームの形で、足を開いて地面に座らせると、少なくとも上体を立てたまま維持することはできていました。いまの子どもは、体幹が弱いのか、股関節が柔らかくないのか、上体を立てられずにバタッと倒れてしまう。そういう子どもたちが年々、増えています」
体幹の強さや関節の柔軟性は、昔なら木登りをしたり、校庭の遊具で遊んだりする中で身につけることができた。
子どもたちがハードルを跳ぶのにも大きな苦労を味わうのは、幼少期に外遊びを奪われた影響なのだろうか。
バーが高い位置に設定されたハードルは、授業では使えない。
生徒がバーに足を引っかけると、うまく受け身が取れずに、危険な形で転倒してしまうからだ。
バーが真ん中から2つに割れるハードルでなければ、授業に不安を感じるという。
「だるまさんが転んだ」ができない
ある動作の途中で、別の急な動作ができないのも、近年の生徒に多くみられる傾向だと長正氏は危惧する。
例えば、走っている途中で急に止まることができない。
昔の遊びでいえば「だるまさんが転んだ」と鬼役が振り向いたときに、急停止ができず、踏ん張れずに転んでしまうそうだ。
「なんで? と思うことが、当たり前のように起こっている」のがいまの中学校体育の現場だという。
表現は適切でないかもしれないが、「運動音痴」といえなくもない。
このような兆候は、震災の少し前からあり、長正氏の実感では「2015年あたりから顕著になっている」という。
生活習慣の変化で子どもたちが肥満傾向に
子どもたちのスポーツ・運動、外遊びを取り巻く環境の変化は、体形の変化となって表れてもいる。
文部科学省が行っている学校保健統計調査の中で、標準体重より20%以上重い肥満傾向児の割合について、「みんゆうNet」2016年3月2日付の記事がこう報じている。
福島県の子どもたちは、2010年度は全国ワーストの年代が15歳のみだったのが、震災から約1年後の12年度調査では7つの年代が1位となり、13、14年度も6つの年代で1位だったとしている。
肥満傾向児の増加は、生活習慣の変化が大きく影響していることは論をまたない。
特に大きいのは、外での運動や遊びが制限されたことに加えて食生活の変化だとする指摘がある。
学校給食での地場産物の活用割合をみると、震災前は36.1%あったのが、2012年度は18.3%に半減した(「ふくしまっ子児童期運動指針」による)。
これも原発事故の風評の影響である。食材の選定の幅が狭まったため、子どもたちの食生活のバランスが崩れ、体力の低下や肥満傾向児の増加につながったと同県の教育関係者は分析している。
「コロナで外出自粛」が肥満傾向児を増やした
2021年7月下旬、福島民友新聞に「10、13歳肥満顕著文科省、保健統計全国ワースト1位」という見出しとともに、頭の痛い記事が掲載された。
文部科学省が公表した2020年度の学校保健統計調査結果で、福島県における肥満傾向にある子どもの割合が、5歳~17歳の全年齢で全国平均を上回ったという。
記事によれば、肥満傾向児の割合は5歳、16歳、17歳を除き前年度から悪化し、10歳の16.81%、13歳の15.51%はいずれも全国1位だった。13歳は2年連続の1位だという。
ほかの年代でも、6歳(全国6位)、9歳(同7位)、11歳(同6位)、12歳(同7位)、15歳(同3位)、16歳(同5位)と、6つの年代で肥満傾向が色濃い。
県教委は「新型コロナウイルス禍による外出自粛の影響とみられ、(肥満傾向児の増加は)全国的な傾向ではないか」としている。
マイコメント
子供の身体能力がこれほど落ちているとは思いませんでした。
もし、コロナ禍で外出制限がこれ以上続くようになると危機的状況になります。
今からでも子供を外出させいろんなところで遊ぶようにしないといけないでしょう。
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