子ども予算の財源は「消費税増税しかない」“本気の少子化対策”で岸田総理が必ず直面する“壁”
今のペースで推移すると、2022年の出生数は80万人を割り込み、統計開始以来過去最少となる可能性がある。 この難題に政府がどう立ち向かうのかー。取材を進めると聞こえてきたのは、「子ども政策こそ、消費税の増税による財源の確保が必要」という声だった。
子ども予算倍増 財源は?
「子ども予算の倍増」。そもそも、どの数字をベースとして「倍増」なのか、岸田総理は明確にしていないが、2023年4月に発足する「こども家庭庁」が来年度に必要な予算として要求している「約4.7兆円」や、今年度当初の少子化対策予算「約6兆円」などが考えられる。どちらにしても、岸田総理の言葉通り「倍増」となると、少なくとも5兆円規模の上積みが必要となる。
5兆円規模の安定財源の確保は容易ではない。岸田総理は2022年10月、国会で「来年度の『骨太の方針』(国の経済財政政策の基本方針を示す文書)で倍増への道筋を示す」と発言し、今は財源についての議論が進んでいない状況だ。
カギは「児童手当の拡充」「所得制限なし」に踏み込めるか
岸田総理が本部長を務める「全世代型社会保障構築本部」。子ども政策のベースは、ここで検討が進められている。 12月、その進捗状況を聞くため本部の幹部の元を訪ねると、こう熱弁をふるった。
「子ども政策で本気度を示したいのなら、児童手当の拡充に踏み込むべきだ」
現在の児童手当は3歳未満に1万5000円、それ以降は中学校卒業まで1万円が支給される(第3子以降は3歳から小学校卒業まで1万5000円に増額)。 ただし所得制限があり、年収が上限を超える場合は特例給付として支給額は5000円に減額される。さらに2022年10月から、年収1200万円程度を超える高所得者には特例給付が廃止されている。
同幹部は具体的な拡充策として「第1子・第2子・第3子と段階的に支給金額を引き上げ、さらに所得制限は撤廃するべき」だと強調する。
所得制限については国民民主党など、野党から撤廃を求める声が多く上がっているが、自民党内の一部でも撤廃すべきとの意見は根強くあるのだという。ただ、所得制限をなくして児童手当を拡充するためには、とてつもなく高いハードルが・・・ 「児童手当の拡充には少なくとも3~4兆円規模の財源が必要で、実現には消費税の増税は避けられない。もしくは、見合う規模の新税創設が必要だ」 同幹部はこう断言した。 「消費税増税となると反対勢力は大きいが、総理には戦う決断をしてもらわなければならない。それが今の政権でできるかどうかは分からないが・・・」
「子ども予算確保のため消費税増税」の現実味
子ども予算のための消費税増税の必要性にふれるのは、この幹部だけではない。 ある自民党の幹部は私たちの取材にこう話した。
「子ども予算の倍増には増税しかない。防衛費増額で増税よりも、子ども政策で増税のほうが筋が通る」 さらに現役の閣僚の1人も、子ども政策拡充のための財源について「消費税増税しかない」と断言する。
消費税は私たちの生活にとって最も身近な税の一つ。その増税は国民にとって、さらには時の政権にとっても痛みを伴う“鬼門”となってきた。 ましてや岸田政権は2022年10月以降、相次ぐ閣僚の“辞任ドミノ”、統一教会をめぐる問題などで支持率の低迷が続く。
しかも物価上昇に賃金が追いつかない中、防衛費増額のための増税も確実となっている状況だ。この上、消費税まで上げるという判断は、そう簡単にできることではないはずだ。
ある政府関係者は「消費税は1%上げるだけで2兆円程度の税収になる。欧州のように少しずつ上げていけばいい」と話す。 子ども政策のための財源であり、かつ一度の上げ幅が小さければ、インパクトは最小限に抑えられるという。
さらに、こう続ける。
「これまで消費税の増税というと、赤字国債の削減の意味合いが強かった。大切なのは、増税分がペイされている、という感覚を国民に持ってもらえるような政策を、総理が打ち出せるかどうかだ」 増税分がペイされる、
つまり「払った税金分の恩恵が受けられている」という実感を国民が得られれば、理解が得られるのではないかという考えだ。 こういった考えに基づいて、過去に子ども政策を打ち出した政権がある。
故安倍元総理は増税分を子ども予算に 関係者明かす舞台裏
故安倍晋三元総理は消費税を8%から10%に引き上げる際、“これまで消費税増税による増収分は主に「国の借金返済」に充てられていたが、教育無償化など「少子化対策」へと使い道を変更する”として、衆議院解散に打って出た。
そして安倍政権は大勝。2019年10月から消費税は10%に引き上げられ、その増収分を財源として3~5歳までの子どもの保育料の無償化、待機児童解消などが行われた。
当時の税の使い道変更に伴う解散の舞台裏を知る安倍氏の元側近に、その内幕を聞くことができた。 「安倍さんは、国民に増税分の“還元”を実感してもらいたいと思っていた」 在任期間中、胸の内は消費税増税に後ろ向きだったという安倍氏。
2014年4月に消費税を5%から8%に引き上げた際は、消費の冷え込みが政府の想定よりもはるかに厳しく、これは安倍氏にとって大きなトラウマとなった。 だからこそ10%への引き上げ時、安倍氏は考えていた。
「増税による“還元”を国民に実感してもらうため、必要なことは何か」 そう考える中で、安倍氏は増収分で賄う国の借金返済の割合が多すぎること、そして社会保障の充実のための使い道が高齢者向けの政策に偏っていることを問題視し、「もっと現役世代に振り向けるべきだ」という思いを募らせていたという。
同時に安倍氏は、子ども政策について“バラマキ”のような一時的な支援ではなく、恒久的な支援でなければ意味がないという考えももっていた。だからこそ、消費税増税による大きな財源の確保に頼ることも必要だったのだろう。
この消費税の「使い道変更」について、国の借金を減らしたい財務省からは水面下で相当な反発もあった。 ただ安倍氏は、「財務省は財務省の仕事をすれば良い。ただ、決めるのは政治だ」という一貫した考えを持っていたという。
■岸田政権が取り組む子ども政策
ではこれまでに岸田総理が表明した、または検討が進められている政策はどういったものであったか。
▼岸田総理が表明 出産育児一時金を50万円に増額 2022年10日。臨時国会が閉会し記者会見に臨んだ岸田総理は、出産時に受け取ることができる「出産育児一時金」について、現在の42万円から50万円に増額することを発表した。
これに先立ち2022年10月6日、岸田総理は閣議の後に加藤厚生労働大臣と面会。その際加藤大臣は、2021年度の出産費用の全国平均が47万3000円あまりであること、そこに出産時に子どもが脳性まひを発症した場合の補償の掛け金1万2000円を合わせると48万5000円ほどになること ―など、出産費用に関する複数のデータを示した。この数字をベースに、岸田総理は50万円への増額を決めた。
そして、大きく変わるのが出産育児一時金の財源負担のあり方だ。 これまでは主に国民健康保険や健康保険組合などの保険料、つまり現役世代による負担で賄われていたが、政府は今後、75歳以上の高齢者にも財源の7%を負担してもらう考えだ。この転換には、現役世代が子を生み育てるのを、ひろく社会全体で支えるべきという政府のメッセージが込められている。
▼“出産準備金” 10万円相当を支給 2022年10月に政府が決定した「総合経済対策」で、2022年4月1日以降に生まれた子どもに対し、1人あたり10万円相当分の現金もしくはクーポンを支給する方針だ。 2023年9月分までの予算は確保できている一方、10月以降も制度を恒久化して支給できるよう、今後検討が続く。
▼育児短時間勤務の利用者などに給付金 育児休業明けで時短勤務を行う人を対象に、給付金を支給することを検討している。 さらに、現在は一定の要件を満たせば育児休業期間中に「育児休業給付金」を受け取ることができるが、その対象外となっている人(短時間労働者・自営業者など)にも給付の対象を拡大する。 給付金額をいくらにするのかはこれからの議論になるが、「全世代型社会保障構築本部」の幹部は「数千億円から1兆円規模の財源が必要になるのではないか」と話す。
▼産前~産後の親を1:1でサポートする新制度 妊娠中から自宅近くの小児科医院や保育園探し、産後は役所での手続き、すぐに怒涛の予防接種ラッシュ・・・と、心身に負担がかかる中でもやらなければならないことは多い。 その負担を軽減するため妊娠中から子どもが2歳になる頃まで、1人の親に対して1人の“相談員”がつき、面会や電話、無料通信アプリなどでのやり取りを通して、情報提供や必要な手続きの手伝いなどを行う。
“相談員”は有償ボランティアとして子育てを終えた人などを募り、自治体などで研修を行うことを想定している。 そして確実に1:1のサポートを行うために、母子健康手帳を受け取る際などに相談員と顔合わせをできるような体制にできないか模索しているという。
こうすることで支援の漏れをなくし、かつ受け取る親の負担も最小限にすることができる。 (なお、母子健康手帳に関しては今後オンライン化も含め検討が進んでいる) その際、あわせて子育て用品やサービスに利用できるクーポン券の配布も検討しているという。 2023年4月には「子ども家庭庁」が発足し、厚生労働省や内閣府などに分散していた子ども政策を一本化して進め、さらに少子化対策や子育て支援など必要な政策の司令塔となる。
年明けからは、国会でも子ども政策に関する議論がいよいよ本格化するだろう。そして、岸田総理が「倍増への道筋を示す」と言った『骨太の方針』が閣議決定されるのは例年6月だ。 財源の捻出方法について、岸田総理が決断を迫られるのもそう遠い話ではない。未来に責任ある子ども政策を実現し、少子化に歯止めをかけることができるかー。 岸田総理の本気度が問われている。
TBSテレビ報道局政治部サブデスク 難波澪
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少子化予防のためのこども予算なのか、子どもを育てるための子ども予算なのか?
これには不妊治療も大きくかかわってくると思われるが、一番の問題は経済的に困窮していて
子どもを産み育てられるだけの経済的余裕のない世帯が増えていることです。
岸田総理の掲げる資産所得倍増プランは金銭的余裕がある人だけ出来ることだけなので経済力
のアップにつながるわけではない。
言葉の綾に騙されているようです。
あくまでもお金を持っている人向けの優遇策です。
子どもを育てる余裕のない人に資産所得倍増プランなんか利用できるはずはない。
それよりも商法を改正して株主の権力を削いだ方が良い。そうすれば株主配当に回っている
会社の利益を従業員の給与に振り分けられるので国民所得も徐々に上がっていくはずです。
日本経済がこのようになってしまった根本原因は
1.株主優遇策で会社の利益が株主に吸い取られ従業員に回っておらず、逆に株主優遇のために
従業員の給与を減らしたり、派遣社員を雇って人件費を減らしていることが給与を減らし
国民の経済力を奪っている。
2.度重なる消費税増税により、国民の購買力を奪い、それが会社の収益を下げてしまっている
ために従業員への給与も上がらない。むしろ下がっている。
3.国民へのデフレマインドが浸透しすぎていて無駄な消費を控え次に備える思考から貯蓄
志向が高まり、お金が十分回っていない。否、回せないのです。
4.派遣型業務の拡大が国民全体の所得を下げている。下がった分は派遣会社に吸い取られている
ことから給与は上がりにくい構造にある。
など、いろいろありますが、この辺りを改善しない限り経済は上向かないと思います。
そのためには、他諸国がやっているように消費税を一時的に下げる。株主優遇策を止める。
派遣業態を止める。デフレマインドは消費税を下げれば一気に上向きます。
それを順次行うことで子育ての経済的環境が上向き、子ども予算の必要性がなくなります。
必要なのは子ども予算ではなく経済力を上げることです。
以上です。
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